風の語り部 part.4
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「……はぁ」
熱い吐息が耳元をかすめた感覚が、まだ消えない。
あれほど近くで顔を覗き込まれるなんて、思ってもみなかった。
思い返しただけで頬が熱を帯びる。
鼻先を掠めた香水の香りも、煙草の匂いも、まだ離れてくれない。
「あああ……相手は女の人なのに……!」
頭を抱え、小さくうずくまる。
思考はすっかり混乱していた。
冷静になれと言われても、無理な話だ。
「落ち着いて……落ち着いて……」
何度も自分に言い聞かせながら、カレンデュラは寝ぐら代わりの仮眠室へ向かった。
だが、いつまでも浮かれてはいられない。
明日から、本部での研修が始まる。
一人前の魔術師となるための、本当の第一歩だ。
「でも……まさか、本当に許可が下りるなんて」
先日の爆破事故をきっかけに、正式な魔術適性が認められた。
あまりに急な話で、未だに実感が湧かない。
「それにしても……どうして、ヴォルーツォさんと瓜二つの人が……」
胸の奥が、ずきりと疼く。
ヴォルーツォ本人は、現在謹慎処分中だと聞いた。
何が起きたのか、誰にも分からない。
事故として処理されたものの、当事者の姿はどこにもなかった。
真相は、今なお闇の中だ。
それでも。
あの顔だけは、脳裏に焼き付いて離れない。
整った輪郭。わずかに垂れた目尻。すらりと伸びた手足。
そして――。
「よう。さっきぶり」
不意に響いた、心地よいハスキーボイス。
聞き覚えのある声に、カレンデュラはびくりと肩を震わせた。
振り返った先に立っていたのは、先ほど別れたばかりの副会長、リヒェンツァだった。
「リ、リヒェンツァ副会長さん……」
思わず踵を返しかける。
だが、寸前で踏みとどまった。
「驚かせて悪い。少しだけ時間いいか?」
常夜灯の淡い明かりを受け、深紅の髪が僅かに揺れる。
先ほどとは違い、その表情はどこか穏やかだった。
「あたし、もう寝るので……ご用でしたら、明日にしていただけると嬉しいんですが」
ぎこちなく言い終えると、カレンデュラはくるりと背を向ける。
そして、そのまま駆け出した。
「――おい、待て!」
夜の廊下に、リヒェンツァの声が響いた。




