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語り終えたデュフィは、執務机の上から書類を取り上げ、応接セットの一脚に座ったラフの側らに立った。手にした書類にペンを添えてラフへと差し出す。
「これにサインを」
それは〝ジーン・ラッピンへの内偵捜査の関する『任務終了報告書』〟で、統監府の意を受けたラッピンが諜報特務庁分析官の身分を利用し、軍の捜査を攪乱・妨害したことの顛末が、尤もらしく記されていた。
目を通したラフは黙ってサインをし、ペンと一緒に突き返した。……どの道、サインする以外の選択肢などない。
「これを公表するんですか?」
突き返された書類に手を伸ばすデュフィに、ラフは訊いた。
「まさかな……」
執務机まで戻ったデュフィは、口許に苦笑を浮かべてラフを向く。
「――…これは〝保険〟だよ。統監府が余程にバカなことを考えなければ、表に出ることのない性格のシロモノだ」
頷くラフにデュフィは続けて訊いた。
「他に訊きたいことは?」
少しだけ逡巡した末、ラフは訊き返した。
「この件について、祖父はいったいどこまで?」
デュフィは書面を執務机の上に放ると、窓からの陽光を背に、椅子に深く座り直してラフに笑ってみせる。
「私は全てを知り得る立場にあるわけではないが……」 ここで言葉を切り、頷いてみせる。
「――…君がここにいるという事実が〝何か〟の証左ではないかな」
ラフは〝どう話を続けるべきか〟という想いが思案顔となって浮かぶ前に、椅子の上で姿勢を直し両手の指を組んで、身を乗り出すようにして口を開いた。
「統監府とは、アイブリーにとって、何なんでしょうね?」
「連邦そのもの、だよ」
デュフィは、ラフとは対照的に淀みのない口調で返した。「――統監府との関係は、邦の存亡に関わる」
「ええ……」 ラフは肯いて、それから顔を顰めた。「その言葉で全てが片付けられていく」
デュフィは口の端をわずかに歪めたようだったが、すぐに韜晦するように両の目を閉じた。
どちらのものとも判らない溜息の後、ラフは続けた。
「大佐と私はアイブリーの公僕で、アイブリーが正しく自治政体であるとして、軍人であるあなたや、法執行官である私が果たすべき責任とは、いったい何でしょうね?」
黙して応じぬデュフィに、ラフは語調を硬くして言う。追求するように。
「統監府の干渉があっても、常に〝地球〟の顔色を窺わねばならない。実際に甚大な被害を受けながらそれを糺すこともできず、政治的決着を優先させざるを得ない……。それでもアイブリーは邦と言えますか?」
「傀儡……とでも言いたいかな?」
デュフィは、問に対して問で応じた。
ラフは、デュフィの目を正面から見返し、目を細めた。
「地球の謀略です。やつらのゲームのためにフェルタ人が利用されて、そうして死ねば、その死が都合よく政治に利用される――」
追求は弾劾に変わっていた。
「でも、手を汚すのはいつだって〝立場の弱いフェルタ人〟だ。……フェルタで最も豊かな準州の政府職員である我々が救うべきは、その名も無き者たちでしょう!」
そうしてラフは、感情の昂ぶりが治まるのを待ち、
「――それさえも出来ないのなら、アイブリーの……フェルタという星の置かれた立場は、間違いなく植民地だ」
吐き捨てるようにそう言い放った。
それにデュフィは、顔色一つ変えなかった。
「絶望したかね?」
真っ直ぐにラフの視線を見返して、デュフィは静かに言継いだ。
「ならば特別捜査官を辞めるか?」
その言葉に、頭から冷や水を浴びせられたように、ラフは口を噤むこととなった。
そうしてしばらく黙ったままでいたラフが、ようやく口を開こうかという機先を制して、デュフィは執務机から腰を上げた。
「物事は複雑なものだ…――」
背後に向き直り、背中越しにラフに語り掛ける。「――…黒か白か、……右か左か。そんなふうに簡単に線が引けるのなら苦労はない。君は解っているだろう?」
正午に懸かろうというフェルタの陽射しは、12月に入り、ようやく和らいできていた。




