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2696 かくして植民惑星は内戦に向かった  作者: もってぃ
エピローグ …幕引き、或いは幕間か
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70[最終話]


「――…黒か白か、……右か左か。そんなふうに簡単に線が引けるのなら苦労はない。君(ヽ)は(ヽ)解っているだろう?」


 ラフは、背中越しのデュフィの言葉を、少し前屈みの姿勢で聞いた。

 デュフィは、そんなラフの気配を、背中越しに探りながら語っているようだった。


「そんな混沌の中で〝最もマトモ(最善手)〟と思える線を探っていくのが我々だ。そしていま、最もマトモな判断が、地球との関係の現状維持、というだけのことだ。そうではないかね?」


 静かにそう言を終えたデュフィに、ラフは何も返せなかった。

 そう。言われるまでもなく〝マトモな判断〟ならそうなる。

 現在(いま)はまだ〝マトモな判断〟で社会が動いているということだ。





 一礼したラフを執務室から送り出すと、デュフィは机上の内線電話を操作した。

 程なくして隣の部屋からの扉が開き、男が姿を現す。一礼をして入室してきた男は片足を引き摺っており、真新しいステッキを突いていた。

 その男は、〈公安調査部(PSI)〉アビレー支部長、アズレト・シーロフであった。


 シーロフは執務机の前まで杖を片手に進むと、デュフィの手から2綴りの報告書を受け取る。

 そのシーロフに、デュフィは訊いた。


「こういう顛末になったが、これでよかったかな?」


 シーロフは、先ずそ(ヽ)れ(ヽ)ぞ(ヽ)れ(ヽ)の(ヽ)書類の〝サイン〟を確認し、それから目を上げるとデュフィを向いて肯いた。


「お手数をお掛けしました、大佐」


 問に対する答を口にせず、礼の言葉に留めたシーロフに、デュフィは重ねて問うた。


「彼は期待できそうかな?」


 シーロフは難しい表情(かお)になってデュフィを見返した。

「それは〝誰の期待〟かによるでしょう」

 それから一つ頷いてこう応えた。「私には必要十分です」





 ベアタ・ヌヴォラーリ特別捜査官ら、他の対テロ対策群(ATTF)・E(エコー)班(チーム)のメンバーは、班長(バンデーラ)やラフのように〝黒幕〟の許に呼ばれてサインを求められるようなことはなかった。

 それぞれ身分証(ID)と私物の返却を受ける際に、警務科の下士官から〝本件の公式見解(筋書き)〟を聞かされ、〝本件に関する『自身の記憶』について他言できない〟ことを確認されただけだった。


 ベアタは、警務科の兵科章を巻き、五等特技兵の階級章を付けた肩幅の広い女性から説明を受けた。


「気を付けて――」


 五等特技兵から説明を聞き終え、確認に応えた後、金属製のトレイに並べられた私物に手を伸ばしたときに言われた。


「本件は〝通常よりも高いレベルの秘密保持義務〟が適用される」


 ベアタは黙って頷くとトレイの上の銃をホルスターに収め、それを〝チェックシックス(腰の後ろの位置)〟に装着した。

 それから大型のサングラスで顔を覆い、踵を返して部屋を出た。

 五等特技兵は、彼女の小柄な背中を見送って、口許だけの苦笑をした。


 こうしてベアタの10日間に亘(わた)った勾留は解かれたのだった。




 アールーズでの一連の爆弾テロ事件、その最終局面で、ベアタは、結局、何も出来なかった。

 そのことが口惜しくて、その〝幕引き〟の筋書きにも納得のいかない彼女は、胸の中に広がる苦いものを、必死に飲み下そうとしていた。


 ――自分という存在が、何をどうしようとも、そんなことには〝お構いなく〟フェルタ(世界)は回っていく……。


 それを突き付けられ、挙句に〝そんなことは無かった〟ということにされてしまった。


 戒厳が解かれて軍の撤収が始まった街中で、ひとりベアタは〝心が何処かへ飛んでいってしまった〟かのように感じていた。


 それを、不意の着信音が引き戻した。


 液晶画面(ディスプレイ)に発信者の番号はなかった。ベアタは通話ボタンを押した。


「ベアタ・ヌヴォラーリ、……PSI特別捜査官」

『私よ。わかる?』


 スピーカー越しのその声にベアタは混乱し、息を呑んだ。

 様々な疑問が胸のうちから意識へと浮かび上がってくる。

 だが、当面の課題は、彼女の名乗っていた〝2つ〟の名のうち、どちらで呼べばいいのか…――。


「……ラッピン分析官?」

 悩んだ末にそう訊いたベアタに、冷静な声が応えた。


『――〝ジーン・ラッピン〟も〝シャノン・モーズリー〟も、もうこの世にはいないわ』


 頷いたベアタは、なぜか周囲に視線を走らせてから声を潜め、訊いていた。

「どういうことなんです? あなたは襲撃の際に殉職したと……」


 他にもまだまだ訊きたいことのあるそのベアタを、携帯の声はあっさり遮った。


『また連絡する』


 それで通話は切れてしまった。

 ベアタは、そのまま黙ってしまった携帯の非表示の液晶画面を見つめて、しばし息を止めていた。


 ――そうか。これで終わりじゃないのね。


 ベアタは小さく息を吐き、携帯を上着のポケットへと仕舞うと、表情を改めた。

 アールーズの街の午後は、活気を取り戻しつつある。

 ベアタは、もう少しこの街で、〝彼女〟からの連絡を待つことにした。





              ──『アールーズ2696』(了)...

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