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『おはようございます。アナ=マリア・マリュス大尉です』
この数週間ですっかりと戒厳司令部会見の顔となったマリュス大尉の、キビキビと聴き慣れたいつもと変わらぬ口調がテレビから聴こえてきた。
『今日は戒厳司令部より重大な発表があります…――』
この日、彼女の出で立ちがいつもの戦闘服ではなく礼装・勤務服であったことに気付いた視聴者は多かった。青を基調とした礼装服が、若い彼女の凛々しさを一層際立たせていた。
12月14日、戒厳司令部は、一連のテログループの首謀者としてオロフ・ヘルムドソンを、対敵諜報部隊と対テロ対策群による合同作戦によって殺害したと発表した。
ヘルムドソンは、市中に潜伏したテログループを率いるリーダーの最後の一人であり、居所を突き止めた公安調査部の調査によって〈ファテュ解放軍〉のメンバーであることが確認されていた。
直ちに戒厳司令部の指揮下、潜伏先への強襲作戦が実行され、メンバー全員の射殺が確認されたという。
なお、強襲チーム側の人的損害は、PSIに協力していた諜報特務庁の分析官が1名、銃撃を受け殉職とのことであった。
これにより、中部都市圏におけるテロの脅威は排除されたと判じた準州代表エヴェリーナ・ノヴォトナーの解除命令を以って、戒厳令は解除されることとなった。
……それが、アイブリー市民に伝えられた顛末である。
これらの発表は、全て副官付の報道官によって伝えられた。
戒厳の発令からこの日まで、戒厳司令官オーレリアン・デュフィ上級大佐は、ついに報道陣のカメラの前にその姿を見せることはなかった。
そのデュフィはこの日、今回の事件の最終局面において、図らずも現場に介入してきた公安調査部の捜査官のうちの、自分の担当する2人――ジェンマ・E・バンデーラと、ラファエル・サンデルス――を、それぞれ自分の執務室に呼んでいる。
ラフ・サンデルスは、あの日、軍により拘束・逮捕された後は仲間(E班のメンバー)と引き離され、外部から何の情報を得ることも出来ぬまま、不毛な取り調べを受け続けた。
そうして勾留10日目の今日、突然の釈放の通達――。
営倉から出されたラフは、手続きを終えて私物と身分証等の個人貸与品を返されると、副官付の下士官に伴われてデュフィ大佐の執務室へと案内されることとなった。
執務室の前まで来ると扉が開き、先客だったらしいバンデーラ監督特別捜査官と入れ違いとなった。部屋から出てきたそのバンデーラの横顔には、苦いものが浮いていた。
彼女と言葉を交わすことなく、ラフは執務室へと通された。
執務室でラフは、デュフィによって事件の〝幕引き〟を伝えられた――。
その筋書きはマリュス大尉が報道機関の前で語ったことと同じだったが、アイブリーの市民に向けて語られたそれとは異なる部分もあった。
デュフィは、あの日、あの場所で起こったこととその背景を、知り得た事実からの推論を含め――それが推論であることを明かして――包み隠さず伝えたのだった。
地球資本によるファテュ支配の実情。
統監府によるサローノでの秘密活動とアイブリーの関与。
FLA内部の主導権争いに乗じた切り崩し工作。
ジーン・ラッピンとオロフ・ヘルムドソンとの関係。
ファテュ政策の転換による撤退と、それによって残されたリシュカ派への粛清……。
ラッピンとヘルムドソンによるリシュカ派の若者達の救出計画。
それを利用した統監府。
ラッピンに覚られぬようヘルムドソンに近付き、中部都市圏でのテロを使嗾した。
……事実テロは起こり、アイブリー社会は混乱した。
そうしてアイブリーの政情を不安定なものとした当の統監府から、テロリストの引き渡しによる政治的決着の打診があったとき、軍は取引に応じると見せて逆に罠を仕掛け、最後の〝細胞〟とその背後に暗躍していた〝統監府内の一部勢力〟を排除した。
デュフィは〝ジーンの最後〟に関してだけ事実を語らなかったが、それ以外は、全てを語った。
それらをデュフィの口から聞かされたラフは、彼のことを〝マメ〟だと思った。




