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 やにわに立ち上がったオッレに、レーザーの光点(ポイント)が集まる。

 だが特殊部隊員らの持つ短機関銃(SMG)の引き金は、引かれることはなかった。

 ただ1発、重い衝撃音がして、オッレの長身は頽(くずお)れた。


 撃ったのはデュフィだった。その手の45口径――軍支給の9ミリ自動拳銃ではない…――が、オッレの居た場所を向いていたから。

 床の上のオッレの後頭部は吹き飛んでいて、ソファには脳漿が撒き散っていた。

 しばらく、誰も言葉を発しなかった。

 やがてデュフィの手の銃が下ろされると、マッケナが床に投げ出されたオッレの遺体の側(かたわ)らに立って右の手を検めた。……右手の中には何も無かった。


「この場合、生かして引き渡すことができなくなったのは、そちらの責任になるのかな?」

 マッケナは、そう言って床のオッレから視線を上げた。


 デュフィの冷徹な声が応える。

「いや、初めから生(ヽ)き(ヽ)て(ヽ)い(ヽ)て(ヽ)も(ヽ)ら(ヽ)っ(ヽ)て(ヽ)は(ヽ)困(ヽ)る(ヽ)存在だ」


 マッケナの首がデュフィ方を向いたとき、再び重い衝撃音がした。

 銃声と、大量の水が撒き散った音と、何か物体が床に投げ出された音を聴き、ジーンは天を仰いで静かに目を閉じた。



 オッレについては…――誰が引導を渡すことになったかはともかく――こうなることは判っていた。

 マッケナは、何が起こったか、判らなかったろう…――。

 気の毒に。……いや、自業自得、か。



 ジーンは故人への哀悼を終えると、ゆっくりと目を開き、デュフィへと視線を据えた。

 銃を下ろしたデュフィは、視線こそ正面から受けることをしなかったが、淡々とした口調で語り出した。


「この男は当初から――……我々がリシュカ博士の拉致を実行したときから、〈ファテュ解放軍(FLA)〉内に〝使える〟人材を探していた。……何人か目に留めたうちの1人が、オロフ・ヘルムドソンだ」


 そうして語られる背景を、ジーンは黙って聞く。


「ヘルムドソンが君と連絡を再開した時点で、彼らは君を監視下に置き、同時にヘルムドソンに接触し、彼を取り込んで使った」


 ここでいう〝彼ら〟とは、統監府内でジーンの属する勢力と利害を異にする勢力のことだろう。

 ――結局、マッケナが(……本当のところ)どの勢力に属していたのかは判らないが、彼は統監府の何者かの意を受けて、私(ジーン)とオッレを利用していたわけだ。そうしてその彼も、取引相手(デュフィ)に利用されていて、その挙句に欺かれ、そして最後は捨てられた……。


「保険だよ。――私が彼らの立場でも保険は掛ける。君もよく知る通り、諜報戦とはこういったものだ。常に先を読み、先手を打った者が優位に立つ」


 デュフィは勝ち誇るでもなく、淡々と続けた。彼の知る、或いは〝知り得た〟ことから推量された〝事実〟(とされること)が語られる――。


「彼らは防衛軍の失墜を図るべく、ヘルムドソンと君を生贄の羊(スケープゴート)に選んだつもりだったのだろうが、罠に掛かったのは〝彼ら〟の方だったのさ」


 ジーンは、デュフィの語りの合い間に、小さく溜息を吐いた。


「スキャンダルを怖れなければならなくなったのは彼らだ。我々ではない」


 いまでは、彼の語った〝事実〟を、もちろんジーンも理解している。


「リシュカ博士に加えて君というカードが我々の手にある限り、統監府もしばらくの間はアイブリーに迂闊な手出しはできない、ということになる」



「なぜ、私にそんなことを。いまさら〝冥途の土産〟かしら?」

 ジーンは、最後にデュフィに訊いた。


 デュフィの言は、恐らくこの事件の核心を突いている。この状況で裏は取れないが、少なくとも状況はそれを暗示していた。

 だがそれ故に、デュフィにこれを語る理由のないことが腑に落ちなかったのだ。〝消えゆく者〟が知ったところで、意味のあることではない。


 デュフィはジーンを向いて応えた。

「君も、なぜこの結末とならねばならなかったか、知ってから退場したいだろうと、そう思った」


 そのデュフィの言葉に、思いの外、誠意を感じられたことに。ジーンは満足することにした。

 もうとっくに悟っていた〝自分の運命〟の幕が下ろされる瞬間を待つ。

 デュフィの右手の銃が、三度(みたび)、持ち上げられ…――



 3発目の銃声が響いた。

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