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 オッレとジーンは、指定された『エース・ホテル・アールーズ』のロビーに入ると、受付(フロント)に〝ピエール・カルダン〟の名で「伝言が届いているはずなんだが」と告げた。

 端末を操作しながら「宿泊客さまでしょうか?」と訊いてきた受付嬢に、「いや、そうじゃないと思う」とオッレが曖昧に返した。すると、小さく小首を傾げるふうとなった受付嬢の脇からコンシェルジュ(上役)が現れ、対応を引き継いでくれた。

 微笑を浮かべたコンシェルジュは、フロアから目立たぬように配慮された〝プライベートラウンジ〟への扉を指し示した。



 ゆったりとしたラウンジに人影はなかった。

 ジーンは腕時計を確認する。――…11時57分。

 訝(いぶか)るジーンを余所に、オッレは上座に進んでソファの1つに腰を下ろし落ち着いた。


 そうして2分が過ぎ、正午となっても、陰鬱な表情(かお)のオッレはソファの上で蹲(うずくま)るようにして黙っている。


「誰も来ない……」

 遂にジーンは言った。「――…そうでしょ?」


 オッレが黙って肯くと、ジーンは続けた。

「あなたが〝最(ヽ)後(ヽ)の(ヽ)細胞〟ね?」


 オッレはようやく視線を上げて言った。

「残念ながら、最後というわけにないかないだろうね」 何か諦観したような物言い。「僕のことは〝一つの〟始まりに過ぎない」

 それで何かを嗅ぎ取ったジーンは表情を昏くした。

 それから、オッレを上から覗き込むように訊く。

「私は騙されていた?」 自問するように。

 オッレはただ静かに頷いた。


「私たちはテロに資金を?」

 重ねられた問いに、オッレはまた頷く。


 ジーンは、意識が遠のくような感覚に見舞われた。


 ――私は彼を掌の上に置いて(コントロールして)いたつもりだったけれど、私の方が彼の掌の上にいたのね……。


 彼が一枚上手だったということだ……。



「……なぜ気付かなかったのかしら」

 息と共に苦いものを吐き出して、それでも何とかジーンは、オッレを見据えて言った。


「君は〝統監府の側から見えるフェルタ〟を見てた。その〝フェルタの中のアイブリー〟は、〝アイブリーの外から見たそ(ヽ)れ(ヽ)〟とは違うんだ」

 オッレはジーンを見上げて応える。

「――224光年の彼方からフェルタを支配出来ると考える地球は傲慢だし、そんな地球にすり寄って、フェルタの指導者面をするアイブリーは、その地球以上に傲慢だ」

 ジーンは唇を引き結んだ。

 オッレは表情を変えることなく言継ぐ。

「その傲慢さに裁きをと願う人間は、サローノに限らずフェルタ中のどこにでもいる。……今後も現れ続けるよ。必ずね」

 その言葉尻は〝断言〟の形が取られていた。


 まるで自らの運命――ジーンに裏切られ、事態を幕引きのための取引材料に供されること――を受け入れようとも、それが無駄とならないことを確信しているかのように。


 ……だがオッレは、熱を帯びた広がりを見せるデモ隊を見て「これは悲劇になる」と言い「最高の攻撃目標(ターゲット)」だと嘯(うそぶ)いている。


 それはどういうことなのか。

 やはりデモの人々に爆弾を使うのか。

 もうその手配は終えているのか。


 それらを突き止めねばならない。……ジーンは思いを新たにオッレを向いた。


「もう終わったわ。あなた達の勝ちよ。このうえ血を流す必要が?」 慎重に、自らの思惑を韜晦(とうかい)し、言葉を探す。

「街中のデモの声を聞いたでしょ。あなた達を支持する声――」


 オッレは、それを薄く笑って遮った。

「〝先ず道程(希望)を見せ、そしてそ(ヽ)れ(ヽ)が攻撃され失われるのを見せる〟…――君(ヽ)の〝教え〟だよ……」

 ――その言葉の初めと語尾は、どこか他人の言のように淡い。


 ジーンは心中の動揺を押し隠してオッレの目を見た。彼の中の何かに、言い聞かせるように言継ぐ。


「ね、聞いてオッレ――」




 そのとき、奥の扉( )(従業員用)が開け放たれ、都市型迷彩の戦闘服の一団がなだれ込んできた。

 短機関銃(SMG)の銃身に同軸されたレーザー照準器の光点(ポイント)が、2人の着衣や肌の上に斑(まだら)となって固定されるまでに、それほどかからない。

 入り口の側の扉も同様で、部屋の前後から合わせて8名ほどが踏み入ってきていた。

 この間、誰一人、声を発していない。……明らかに〝特殊部隊〟だ。


 ジーンとオッレは、ゆっくりと両の手を上げた。

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