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それから10分後には一行は〈隠れ家〉に辿り着いて、〝彼〟からの連絡を待った。
隠れ家はアールーズの北端のオフィス街の雑居ビルの一室で、アースポート経由で地球圏からの嗜好品を扱う輸入業者のオフィス、ということになっている。もちろん〝ペーパーカンパニー〟だ。
ジェンマをはじめE班のメンバーは、〝彼〟の指定してくる接触場所に先回りできるよう、アールーズの街中に散っている。
11時きっかりにオッレのプリペイド携帯が鳴り、オッレとジーンは指定された接触場所の〝書置き〟を残して〈隠れ家〉を後にした。
5分ほど遅れて、ベアタとラフも2人を追ってオフィスを出た。無線を繋ぎ、アールーズに散っているE班のメンバーへ〝書置き〟の内容を伝える。
〝書置き〟にあった〝接触場所〟は、E班の用意した〈隠れ家〉から地下鉄を2路線乗り継いで40分のところにある〝アッパーミドル〟のホテル――『エース・ホテル・アールーズ』だった。
ラフはホテルの建つ街区を車で一回りした。無線機から、周辺に到着し配置に就いたことを告げる声が入り始める。ホテルの正面に戻ってきたラフは、車を通りを対向車線側の路肩に停めるとベアタに肯き、ベアタは班長に、配置に就いたことを告げた。
ちょうど通りに口を開けた地下鉄出口から、オッレとジーンが連れ立って姿を見せるタイミングだった。2人の姿がホテルの玄関口に消えるのを見届ける。オッレの〝落ち着かな気〟な挙措が印象に残った。
……と同時に、その前後に周囲に目線を走らせたラフは、今し方目に入った〝何か〟に、引っ掛かりのような感じを覚えた。確かに〝何か〟を見た。
――何だった? ……いや、〝誰〟だった?
もどかしく思い回していると、助手席のベアタの声を聴いた。
「いよいよね」
不意に、胸のうちに引っ掛かっていた〝何か〟に焦点が合った。脳裏に漂う靄が急速に引いていく…――。
肩幅の広い女性の〝メッセンジャー〟…――。
ラップアラウンドのサングラスの奥の目と目が合うと、彼女は自転車に跨り携帯を耳に当てた。確かに屋外競技場の指揮所で見た顔だった。間違いない。
正体が判った! ――五等特技兵で、デュフィ上級大佐の部下といっていた……。
「バレてる!」
ラフは運転席のドアを開けながら声を上げた。「え⁉」と反応したベアタを振り返ることなく外に出る。それから周囲を一瞥してから車内のベアタを見て、切羽詰まった声で言った。
「デュフィの部下を見た。この場所はバレてる! 班長に連絡して、君は車で指示を待て――」
そうしてホテルの入り口を向いて駆け出そうとしたときだった。
俄かに街区の表通りの先が騒がしくなったように感じ、視線をやった交差点では、全高3mの巨人――人型ロボット兵器・AMF…――が2体、専用の運搬車から身を起こそうとしていた。
反射的に反対側の交差点を見やると、そちら側にも2体、重機関銃を手に交差点を押さえ、ホテルの在る街区〟全体を封鎖しようという動きを見せている。
周囲には〝風を切る〟ヘリのローター音が響いていた。
それぞれの交差点の陰から軍の高機動多目的車両が数両――何処からともなく湧いて出てきたかのように――姿を現したかと思うと、真っ直ぐにこちらに向かってきた。あっという間に多目的車両はラフの車を挟み込むように停車し、兵士たちが自動小銃を手に飛び出してきた。
『準州防衛軍だ。この街区一帯を封鎖した。こちらの指示に従ってもらおう』
銃口越しの警句に、ラフは両の手を上げて抵抗するつもりのないことを示してみせた。
警句を発した曹長のマッチョな肩口の向こうに、あの女メッセンジャー――五等特技兵――の姿を見止めた。彼女はニコリともせず、こちらを見遣っている。
ラフは、助手席からこちらを向いているベアタを見て、首を横に振ってみせた。そうするしかなかった。
ベアタは鋭く息を吐き出すと、ゆっくりと空の両手を車の外から見える位置に引き上げて、動きを止めた。




