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ブリスネス広場からデモ隊の人の流れに乗ったジーンとオッレは、頃合いを見てデモ隊を離れると、ときには警戒に当たる兵士の面前を横切ったりしながら大規模商業施設に向かっていた。
監視・尾行の存在については、特定こそできないものの、それらしい存在を常に感じられた。
これから、これらの目から逃れなければならないわけだが、そのための仕掛けが、これから立ち寄る大規模商業施設に用意されている。
そろそろ時間…――ジェンマが対敵諜報部隊の注意を引き、掻き回す段取り――だった。
「急ぎましょう」
ジーンはオッレに歩を速めるよう促した。
ラフは、大規模商業施設の入り口付近で、ジーンとオッレが入って来るのを確認すると、2階で待機するベアタの携帯に1回だけ呼び出しを掛けた。そうしてエレベーターホールに向かう2人をいったんやり過ごして、それから、さり気なく後に続く――。
ジーン・ラッピンとオロフ・ヘルムドソンを尾行する対敵諜報部隊の輪番班のメンバーは全員、2人の歩みがエレベーターホールに向いた瞬間、〝急激に悪化した状況〟に判断を迫られることとなった。尾行者にとって、エレベーターのような狭い閉鎖空間は鬼門である。
(……なるほど、セオリー通り、というわけか)
折しも、付近に展開した〈現場本部〉はPSI捜査官の不審な行動に対応しており、こちらについて、適宜の指示が遅れている。現場の隊員が個々で判断せざるを得ない状況では、万全の連携を望めない。
それでも2人を尾けていた当番の隊員は、一緒にエレベーターに乗ると決断して2人に続いたのだったが、すぐに〝次の判断〟を迫られることとなった。
2人のうちオロフ・ヘルムドソンだけが2階で降りたのだ。
もともとこの規模の大規模商業施設での尾行を想定した配置はなされていない。このような状況からの挽回は想定外である。……万事休すだった。
ここからでは現場本部の指示を仰ぐことも出来ず、応援も望めない尾行の隊員は、〝悪あがき〟はやめ、ここで投了することにした。
その後、状況は次のように続く――。
2階で降りたオッレは隣のエレベーターを呼び、2階エレベーターホールに〝居合せたふうを装って〟いたベアタと合流する。ベアタはオッレと共にエレベーターに乗り込み〝4階のボタン〟を押す。
一方、最初のエレベーターに残ったジーンは、一緒に乗り込んだラフと共に4階までいって、そこから〝渡り廊下〟で結ばれた隣接の高層駐車場へと向かう。ラフの手には車のキーがあった。
それから4人は駐車場で落ち合い、E班で用意したセダンに乗り込むと、10分後には模商業施設を後にしている。
――…中々に〝鮮やか〟に撒くことができた。
……だが、相手が〝淡泊〟だったと言えなくもない。
隠れ家へと向かう車中、ベアタ達は、呟くように言うオッレの言を聴いた。
「見ろ…――」 視線の先には、デモ隊の人の流れ。「サローノ避難民とアビレー市民が手を携えてる。人権擁護派も分離独立派もない……」
言われて、ベアタはデモ隊を見た。
それぞれの手にプラカードを掲げ、『戒厳を布く政府に抗議を!』や『自由と権利と尊厳を!』と声を上げている。
そういうデモ隊は、熱意こそあれ暴力的ではなかった。つまり〝アイブリー人らしい集い〟である。
そんなデモ隊を遠くに見やって、オッレは声を低めて言う。
「これは悲劇になる」
「悲劇って何が悲劇?」
ジーンが眉根を寄せた。「……まさかデモ隊に爆弾を?」
そのイメージに、ベアタはハッとした。
ルームミラーにオッレの表情を窺う。
デモ隊から目線を戻したオッレは、サングラスを外すと、〝わからない〟という表情をジーンに向けた。
少し小首を傾げてみせ、〝予測の最悪の解はこれだろう〟というふうにジーンのサングラスを覗き込み、低い声で質す。
「最高の攻撃目標だ。……そうだろ?」
オッレを見返すジーンは、ただ唇を噛むばかりだった。




