60
オッレは翌日、〝彼〟(最後の細胞)との繋ぎを得て、ジーンの許へ戻ってきた。
〝2日後の正午、アールーズの何処か〟で。
ジーンはさっそくジェンマに連絡し、ジェンマは、この件で信頼のおけるメンバーを密かに集めた。
集合先は、市警庁舎から1つ隣の街区に公安調査部がようやく借りることとなったオフィスビル。
内装工事も終わっておらず、当然、什器の類いも全く入っていない状態だったが、職権を通し、工事を中断させて人払いをした。
メンバーがそろそろ集合場所に集まろうという頃、ジェンマは市警庁舎の仮オフィスの自分の席を立った。
最後の〝確認〟を済ます必要があって、ジェンマは仮のオフィスに出勤してきたのだ。
ジェンマが大部屋を出ると、セシリアがさり気なく隣に歩みを寄せてきた。
「――IICの招集要請と同時に統合幕僚会議に事件解決の報が届くよう手配してもらった。ジーンの言う通りなら、即日、戒厳の解除が発せられることになる……」
キビキビと〝タフなビジネスパーソン然〟とした普段通りの彼女の声。「…――裁判所の方は、戒厳の解徐が報じられ次第、判事の許に人を直接遣る」
これらの〝段取り〟は、昨夜のうちにジェンマとジーンと彼女とで凡そ形にしたものだが、それをこの短い時間でここまで詰めてきてくれるとは……。
「メディアは?」
賞賛の声を上げる前に、最後の重要チャネルについての確認を、ジェンマはした。
セシリアは途切れることなく応じる。
「ケーブルは無理よ。でも、ラジオの方は『A News Talk』と『AC Radio』を押さえた」
事が成った際の、アイブリー市民への〝速やかな情報発信〟を託す報道機関への〝渡り〟のことだ。軍が検閲を強化する最中での情報戦で、先手を打たなければならない。
今回、〝彼〟――最後の〝細胞〟――の身柄を確保し次第、直ちに〝正しい情報〟を発信する栄誉を担うのは、中部都市圏に少なくない数の視聴者を持つ中堅独立系のラジオ局2社ということになった。
さすがに公共放送局への〝渡り〟は諦めざるを得なかったようだが、2社ともに〝名物主幹〟がいる。一報は確実に電波に乗るだろう。
「第一報が電波に乗りさえすれば他局も……ケーブル局だって続くでしょ」
セシリアの表情は自信あり気である。
「さすがね……」 ジェンマは、今度こそ素直に賞賛してみせた。「ねぇ、あなた、なんでPSIで働いているの?」
訊かれて、セシリアは軽く小首を傾げた。
「それは〝永遠の謎〟ね……」
溜息混じりの回答に、ジェンマは微笑むと頷いてやった。
そうして〝欲しい報告〟の得られたジェンマは、セシリアを残して市警庁舎を後にした。
改装途中でがらんとしたオフィスフロアは広く感じたが、実際には然して広くはない。
ジェンマに集められた対テロ対策群・E班の面々は、ジェンマを除いた全員――その中には復帰したベアタの姿もあった…――が揃うと、ジーン・ラッピンからこれまでの経緯と現状とを聞いた。……椅子がないので、全員、立ったままだ。
一通り聞き終えたトゥイガーがE班を代表して「〝アールーズの何処か〟というのは?」と訊くと、ジーンは首を振り、肩を竦めて返した。詳しい場所は、この時点ではオッレにも知らされておらず、〝当日正午の1時間前〟に電源を入れるよう指示された携帯に連絡が入るとの手筈だった。
E班の面々の視線がオッレに集まる。
オッレはジャケットの懐から〝真新しい〟プリペイド携帯を取り出して見せた。……電源は入っていないのだろう。
一同の顔に〝さて、信じてよいものか〟という表情が浮かんだそのとき、フロアの入り口から〝ボス〟の声がした。皆の目線がそちらを向く。
「犯人に辿り着ける〝手掛かり〟は、それ、唯一つよ」 皆の視線に肯いて返す。「ええそう、これは賭け…――」
言って彼らの表情を窺ったジェンマは、満足したふうに続けた。
「――でも、この事件は最初から我々のものだということは、はっきりしてる。サッサと仕事に取り掛かるわよ」
ジェンマは掌を叩くと、部下に仕事に取り掛かるよう嗾けた。




