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タバコの火から一刻も目線を離すことなく、裏返った声になってルカ・レーリオは必死に言い募った。
「――俺は、ただ……アイブリーで仕事がしたかっただけで…――」
サンデルスはタバコの火をチラつかせながらそれを遮り、一言ずつ区切るように命じた。
「紙幣のことを、話せ」
「ごめんなさい。こんなことになるなんて知らなかったんだ。本当にごめんなさい」
すっかり怯え切ったレーリオは、終に泣き声になって語り出した。
「義兄の紹介で引き合わされた男からカバンを手渡された。〝これをアールーズの『メシュヴィツ』という店に渡せ〟と。……それで200FCr貰える約束だったんだ」
ベアタの目線が落ちる。
ここまで聞けば、もう結論は出たようなものだった。
ベアタは居たたまれなくなり、皆まで聞かずにドアを鳴らして部屋を出た。
暗い廊下の壁に身を預け、ベアタは気持ちの悪さに耐えながら向かいの白い壁を見やっていた。
程なくしてドアが開き姿を現したサンデルスに、ベアタは確認のために声をあげた。
「ただの運び屋だわ」
サンデルスも、黙って肯いて返した。
それから無造作に腕を振り、何かを廊下のゴミ箱へと放った。――握りつぶされたそれは、たった1本減っただけのタバコの箱だった。
ベアタとサンデルスが〝サローノからの越境者〟を尋問していた頃、二人の上司であるジェンマ・バンデーラは〝新しいお友だち〟――ジーン・ラッピン――と対面していた。
バスの爆破事件の後、彼女の身柄は支局に移され幾つかある資料室の一つに押し込められていた。バンデーラが病院で治療を受けていた間も〝政府のバッジ〟をかざして騒ぎたてるようなこともなく、部屋の中でおとなしくしていたという。
「……〝電話一本〟で出られるんじゃなかったの」
部屋のドアを開けて最初に浴びせたこの嫌味に、ラッピンは簡易寝台の上に身を起こすと真っ直ぐに視線を上げ、首を左右に振って、こう静かに返してきた。
「大丈夫?」
優しい声だった。
「ええ、もう……。まだ少し、耳鳴りがするけど」
バンデーラは寝台の端までいって腰を下ろすと、両手を広げて言った。
「わからないことがたくさんある。協力、してくれるんでしょう?」
ラッピンは、何気のない感じにこう応じた。
「お腹が減った」
方眉を上げ真意を探るような表情になったバンデーラに、ラッピンは目の表情だけで微笑んで続けた。
「食べながらでいい?」
それで二人は資料室を出て、バンデーラの行きつけの軽食を出す店に場所を移した。
「最初に言っておく」
入口の近い窓際の席に腰を落ち着けると、注文する前にラッピンは口を開いた。
「〝話せること〟と〝話せないこと〟がある」
それが彼女なりの誠意であることに理解を示し、バンデーラは頷いてみせた。……同じ立場であったら、自分も同じように言えたろうかと自問しながら。バンデーラとて、彼女同様に公僕、似たような境遇である。
合挽きのウインナーに煮込んだミンチと玉ねぎのみじん切りをトッピングしたホットドッグとフレンチポテト、それにコーヒーを2つずつ注文した後、ラッピンは語り出した。
「この3月――3年前のアンディユ鉱山(※)の連邦軍兵舎の爆破を指示したと思しき人物を突き止めたわ」
(※フェルタ最大の希土類鉱山。ここで産出した希土資源は現地で精錬された後に地球圏に運ばれており、地球経済の重要な生命線である。)
ここで注文した料理を運んできたウェイターにチップを渡し、コーヒーを啜ってから、ラッピンは続けた。
「8月、彼はファテュへ向かう途中、拉致された」
「拉致?」 バンデーラもカップを手に取りラッピンを見た。「誰に?」
「…………」
ラッピンはゆっくりとカップを置いて、黙って小さく首を横に振った。
――なるほど……。
それでバンデーラは〝わかって〟しまった。
ラッピンはそんなバンデーラに小さく肯くと、ホットドッグを一口齧ってから言葉を継いだ。




