証明できない
ノースランドの首都、要塞の街の道中最後の砦に到着した。今日も20kmくらい歩いたのかな?装備も結構重いし、真夏の暑さが和らいできたとはいえ、汗でベタベタになった体を洗い流していく。同行するテッドの行動は別段変わったところはないが、時折視線を感じることがある。俺たち3人の中で美女2人とフツメン1人、さらには戦闘できるのも美女2人でフツメンはお荷物でしかない。どう考えても歪な存在だろう。特に口に出したりはしないが、疑いの視線を感じることがしばしば起きる。隣のシャワー室でテッドも汗を流しているのだろうが、一足先に出る。
「ハルト!」
「え?」
急に声をかけられたら見知った顔であった。お抱え商人と化しているロイドだ。
「ロイドか、久しぶりだな」
「いや、お前外に出てて大丈夫なのかよ」
「あー、そのことなんだが…」
勇者の再侵攻が起きて、まったく歯が立たないのでダンジョンコアをワイズちゃんに守らせて、俺は逃げていること。ついでに謎の青年が同行してて偽名を使ったやりとりをしていること。
「それで使う偽名がカイトかよ」
「ルパンの方の偽名が封じられててな、とっさに出たのがカイトだった」
王子と同じ名前の同年代は多いらしいから違和感なく偽名として使えた。アリアも少なくない名前らしいから大丈夫とのこと。
「まあ、それよりどうなんだ?」
「それよりって、結構やばい話だろうに」
「どこに耳があるかわからないからな。この手の話題はさっさと終わらせることに尽きる」
「そういうことか、それで、どうとはどういうことだ?」
「エアコンの売れ行き」
「ああ、それならかなり売れている。というか完売だ。王都に店を構えてすぐだったぞ。たが、カイトの予想通りにガキのたまり場とかしてな。しかもほとんどが貴族の坊ちゃんときたもんだ」
「うわあ…」
「だから夜逃げしてきた」
「アホか」
「それは嘘だけど。完売で在庫増やすのに一旦戻らないとな。それとあのガキども相手にすんのが面倒なのもあったけど」
「立地を間違えたか?王都のことについてはすべて姫様が主体となって決めていたからな」
「だから貴族の多い場所なのか」
「いや、もともと売る相手が貴族なんだから、子供のたまり場になるのもどの階級の子かわかるだろ。立地正解じゃねーか」
「………言われてみれば、やっぱり貧乏くじじゃねーか」
これは結構なストレス溜まってんな。
「儲けたからいいだろ」
「…儲けたけど」
「それなら俺たちに同行してくれないか」
「なんで?」
「在庫補充したいだろ?」
「あー、なるほどそういうことか」
「ついでみたいなものだな」
ロイドの目線の動きと、細かいジェスチャーで俺の背後に誰かが聞き耳を立てているらしい。
「何者だ?」
「さあ?」
「アリアさんは何を考えているのやら」
「俺が聞きたいよ」
「…」
ロイドはため息を吐いてから座っていたテーブルから立ち上がる。
「いろいろ積もる話もあるだろうが、今は目の前のことに集中したほうがいいみたいだな。俺も協力するぜ」
「頼りにしている」
「へっ、今のお前なら猫でも頼りになるよな」
帰ったら覚えてろ、カタログ購入のスキルが使えればロイドなんて軽くけちょんけちょんにしてやるぜ。それまでは酒にタバスコ混ぜ込む程度で済ませてやる。
それにしてもロイドが同行してくれるのは心強いな。2人だった旅路にマリエルが加わり、謎の青年テッドが加わり、そしてロイドが加わった。なんだろうな。RPGでもこんな速度で仲間は増えねえぞ。それより、ロイドが旅に加わることをパーティメンバーに伝えなければならないな。
「ハルトくんー」
「カイトです」
「カイトくんー」
「なんでしょうか?」
「この人は誰でしょうー?」
面識なかったか。
「お抱え商人のロイドです」
「ハルトくんが敬称使わないなんて珍しいですねー、しかも結構歳離れているのにー」
「カイトです」
ロイドの希望で呼び捨てを強要されたからな。初対面こそ商人に舐められるわけにもいかないために高圧的に接したが、ロイドはさすが商人と言えるやりとりのうまさがある。
友人というステータスだ。
友人は普通はフランクな間柄に落ち着く、つまりロイドはわざと公私を混合させ、俺の友人兼右腕になる代わりに金儲けに一枚噛ませろという立場を取得した。公私混合はよくないと認識はしていたが、これが癒着かと戦慄したものだ。ロイドは最悪な第一印象に引っ張られることなく、自分の出世をしつつ、友人を獲得するという俺には考えられない離れ業を使ってきたわけだ。どんなコミュニケーション能力しているんだよ。コミュ力おばけか?
「友人でもありますよ。それにしても聖女マリエル様に出会えるなんて光栄です」
「あらー、私に様付けなんて必要ありませんよー」
「いえ、子供の頃から憧れの方ですので」
………。
おい、コミュ力どうした。完全に地雷踏み抜いたぞ。
「憧れだなんて嬉しいですー」
青筋立ってるから、怖いから、マリエルさん怖いから。
戸締りしとこ。
「30年前と変わらずお美しい———」
やっぱりロイド解雇しようかな…。
どかっ、ばこっとか、鈍い音するけど大丈夫だろうか?
「ひどい目にあった…」
「自業自得だろ」
「本当のことなのに…」
「口は災いの元だ」
「笑顔のまま拳を振り抜いてくるマリエル様は美しかった」
「頭の病院行こうか」
砦に常駐している厨房のおばさんがドン引きでこっちを見ていて気まずいので、食堂から談話室へ移動する。後ろからニコニコ顔でついてくるマリエルが怖いです。
「アリア」
「あら、どうかしましたか?」
談話室で読書に耽っているクレア王女に話しかける。その近くにはテッドの姿もあった。
「おかえり、どこか行っていたのかい?」
すっとぼけちゃって、さっき背後にいたこと知っているんだからな。スキルで確認とかはできないんだけど。
「旅の道連れにロイドを加えようとな。すぐ別れることになるけど」
「王都までですね。わかりました」
「初めまして、短い期間だけどよろしく」
「おう、よろしくな」
「大所帯になりましたねー」
ロイドは普通にテッドと会話しているな。これが腹の探り方というやつか?
「アリア、ちょっといいか」
「むぅ」
なんで不機嫌?ジェスチャーで2人きりで話したいと談話室から出る。そのまま砦の上階に登っていき、屋上へと出ることになった。常駐する兵士に途中止められたが、クレア王女と知る上司らしき人物の介入もあって屋上へ通してくれた。
空を見て綺麗に輝く星々を見る。地球で、いや、日本じゃ見ることができないほどに輝く空だ。
「テッドは何か言っていましたか?」
「特に何も」
「…どうしてテッドを旅に入れるなんてことを、明らかに怪しいでしょうに」
「そうでしょうね」
「………俺には姫様が何を考えているかわかりません」
「っ…」
クレア王女がきつく目を閉じている。何かを抑え込んでいるかのように…。
「テッドに何か言われたのですか?」
「彼は何も言っていないわ」
「なら姫様に何が起きているのですか?」
「ハルトには関係のないことです!」
こちらに目をくれることもなく、クレア王女は屋上を後にしてしまう。
頭を掻き毟って掻き毟って、答えを出すなら1つだけあったかもしれない。確証は何一つない。
ただ、クレア王女はここ最近、常に俺と行動を共にしていた。なら彼女に干渉できる人物は限られてくる。
「マリエル…、お前か?」




