都合良く
「アルマジロだったか、簡単に倒せるんだよな」
「ええ、大したことはありませんわ。私1人でも余裕に対処できます」
やる気に満ち溢れているクレア王女だが、ちょっと不安が残る。
「大丈夫か?」
「大丈夫でしょうねー」
「マリエルが言うならそうなのか」
信頼ないですわね、と呟いて拗ねてしまった。だってな、戦闘経験ほとんどないって知っているから心配になるんだよ。
「そういえばだけど、2人の戦闘スタイルはあまり知らないなあ。姫様は普通に剣使うけど、マリエルは魔法?」
「一応オールラウンダーですよー」
「聖女ってなんだよ」
シャドーボクシングの構えしなくていいから、接近戦する聖女とか見たくねえよ。それ頭に脳筋ってつく聖女だからな。
「ダーリンはすぐ顔にでるわね」
「ナニモカンガエテイマセンヨ」
「これはいわゆるところのお約束なのでしょうかー」
考え事なんだから、別に口に出してないから災い起きるのおかしいと思います!ビンタの構えしないで!
くだらない話をしながら山中を進むと地面が抉れている場所に出た。
「おっとー、痕跡ありましたねー」
「痕跡っつうか、…いや、痕跡なのか?」
普通に木々が倒れ、地面が抉れ、何か大きなものが通ったと知識がなくてもよくわかる。足跡とか専門家が見ればわかるみたいなものじゃないんだな。これなら1km先からでも痕跡見えるだろ。
「堂々としてるんだな」
「ロードローリングは敵対する相手があまりいませんし、魔物同士の争いでもあまりの硬さに相手をしようとする魔物はいません。さらにいえば、ロードローリングを倒せるような魔物はすぐに討伐対象で軍隊が動きます」
「なるほどな。面倒な魔物ってのはわかった」
「面倒すぎて冒険者たちも討伐をしたがりません」
「…通りでギルドの一番目立つところに依頼書が貼られていたわけだ」
ロードローリングの討伐依頼だけめちゃくちゃ目立つところに置いてあったのはそう言うわけか。ついでにいえば、受付のテーブルにも置かれていたし、出入口にも貼られていたな。
しつこすぎる。
どんだけ討伐して欲しいんだよ。
「被害も出るのでそのうち依頼料も値上がります。ゆえに討伐できる冒険者も値段が希望の額まで上がるのを待ったりしますね」
「人間の汚いところが見えるなあ」
「本当に被害が大きいので対処は早めにして貰いたいのですが…」
クレア王女が悲観した顔で呟く。結構被害が出るのか。
それならすぐに解決して欲しいよな。なんのための冒険者かって言いたくもなる。
「さあー、気を引き締めてくださいねー。どうやら1匹ではないみたいですー」
「結構な群がいるわね」
「ハルトくんは私が守りますのでー、王女は数を減らしてくださいねー」
「わかったわ」
なんか勝手に2人の間で会話が進んでいく。痕跡としては1つの道しかないから1匹しかいないと思っていたけど、もしかして集団行動で同じ道を通るからこんな痕跡が生まれるのか?
というか、2人が構えているってことは近くにいるのか?
「近いのか———」
「しっ」
マリエルの人差し指を口に当てられ黙らされた。
次の瞬間いきなり影が差す。
周りが暗くなると同時にマリエルが何かを呟いて上に手を掲げる。
手からひし形状の魔法陣みたいなものが展開され、影を差した物が弾かれる。
「っ!」
音もなく空から巨大なアルマジロ、ロードローリングが降ってきていた。
「もう縄張りに入っていたようです。一旦引きますよ」
「でも、まだクレアが!」
「彼女なら大丈夫でしょう」
周囲に落ちてくるロードローリングの数は両手の指でも数えられないほどいる。しかも1体1体が3mを優に超える巨大生物だ。
「焼き払うと山火事にでもなりそうですね。仕方ありません」
マリエルは呪文のようなものを唱え、上空に魔法陣を展開。そして魔法陣から白く光る無数の剣が地面に降り注いだ。巨大なロードローリングの外殻をどうにか突破してはいるが、致命傷を与えるほどではなかった。むしろ俺たちを追って再び動き出したロードローリングはその回転も相まって剣が刺さらなくなる。再び突進されそうなところでマリエルは再びシールドを展開してロードローリングの突進をいなす。
すげえ。
戦闘経験値が高すぎる。
的確な対処をしながら、魔法陣を維持して攻撃を続け、逃げるルートを見ながら後ろに目があるかのように突進を対処をしている。攻撃、防御、逃走を同時に行なっている。
一度は囲まれてしまっていたが、その集団から距離を取りつつ、着実にダメージを加算していく。そしてこちらに誘導しながら1体、また1体と倒していく。
「はあ!!!」
不意にロードローリングの集団の攻撃の中から一際大きな声が轟いた。
「クレア!」
「ハルト、大丈夫ですか?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「もう終わらせますので」
再び剣を横薙ぎに払い、その薙ぎ払いの後に炎が走り、ロードローリングを燃やしていく。外殻が燃える要素はないんだが、あまりの高温に硬すぎると言われているロードローリングの外殻が溶けている。どんどんとロードローリングの数が減っていく。
「はあ…」
「すげえ」
横でマリエルがため息をついているが、俺は舞踏のように舞いながら魔物を倒していくクレア王女に見とれてしまっていた。最後の一匹まで華麗に倒し、俺の目線に気づいて、少し気恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「姫様、お疲れ様です」
「…そんなに疲れなかったわ」
剣をしまいながら、さも余裕綽々と髪をなびかせている。クレア王女はやっぱり普通に強いんだな。俺も戦えたらなあ。
「クレア王女」
「何ですか?あいたっ!」
「私は山火事にならないように気を配っていたのですがー?」
ごんっ!
マリエルのげんこつがクレア王女の脳天に突き刺さった。
額に青筋浮かんでるぞ。ブチギレだ。
キレるのも仕方ない。確かにすぐにロードローリングは倒すことはできたが、その代償として山林と呼べるこの場が完全に火事になってる。
「私は鎮火できる術はあまりありませんのでー」
「…私もないですわ」
「どうすんねん」
もうすでにかなり広範囲に燃えている。俺たちも命の危機かもしれない。対処ができないなら逃げるほかないだろう。
「水の精霊よ!」
「ん?」
少し離れたところから声が聞こえた。
水の精霊?
すぐに小雨のような雨が降り注ぎ、時間が経てば立つほど雨脚の勢いが増していく。みるみる山火事は鎮火されていった。
「依頼を成功させるのはいいが、山火事を起こされたら、むしろその被害の方が大きいだろう?もう少し周りを考えてほしいな」
すっげえイケメンの優男が山林の中から出てきた。
「僕はテッド。君たちは…、冒険者じゃなさそうだね」
「アリアですわ」
王女速攻で偽名使ったよ。しかも部下の名前だし。手馴れすぎだろ。
「山火事になるところを止めていただきありがとうございます」
「あれくらいどうってことないよ」
なんだあの爽やか青年、イケメンくたばれ!イケメンくたばれ!
「何してるのかしらー?」
「ドーマンセーマン」
「本当に何してるのかしらー」
「悪霊退散!」
「悪霊ではないですねー」
優男、テッドはクレア王女ににこやかに話しかけている。ぶっ潰すぞこら。
クレア王女もなんだかんだ、山火事を抑えてくれたからかにこやかに対応してる。なんか様になっているなあ。俺は基本的に容姿が悪いとは思わないけど、いいとも思わないし、結局美男美女カップリングが正義とでもいのか…。
「うぅ…」
「よしよしー」
「世の中やっぱりイケメンが正義なのか…」
「そうですねー」
「否定してくれよ」
「他の条件は同じとして、容姿が良いのと悪いのならどちらがいいでしょうかー?」
「ぐふっ」
聖女にトドメを刺されたんだが?
一応、クエストは達成したので報酬を受け取るために砦に戻る。ギルドに報告して褒賞金を受け取る。これで路銀問題は解決した。
「これで旅が続けられますねー」
「元を正せばお前のせいだけどな」
「必要経費ですー」
「どんだけ金かかるんだよ、お嬢様か!」
なぜか席を分かっているクレア王女とテッドの方を見るとクレア王女が報奨金の一部を渡そうとしているが、テッドが受け取らないらしい。クレア王女も受け取ってくれなくて困っている。ここで時間を浪費するのもバカらしい。
「なあ、テッドといったよな。受け取ってくれないか。俺たちは旅を急いでて、すぐにでも出発したいんだ」
「おや、急いでいるのか、すまない。しかしやはり受け取れないよ」
「なら行こう、アリア。山火事の件は世話になった」
「いいさ。それよりそんなに急いでどこにいくんだい?」
「…要塞の街だが?」
「王都か、僕も王都に用事があるんだけど、どうかな?一緒に向かわないか?」
こいつは一体なんだ?偶然を装っているつもりだろうか?
「一緒の道中ですか、そうですね。一緒に向かいましょうか」
「アリア?」
「別に問題はないでしょう?」
問題がないとか。いや、問題しかないだろう。素性のしれない相手だし、そもそもクレア王女はテッドを知っているのだろうか。
「知り合いだったりする?」
「いえ、初対面ですわ」
どういうことだ?
こんな危険な旅の道中に素性の知れない相手と一緒に行動を共にするなんて…。
「アリアが言うなら…」
「では出発の準備をしましょう」
クレア王女が手をパンと叩いて立ち上がる。準備といってもほとんど終わっている。
「姫様は何を考えているんだ…」
「それはどちらの意味かしらー?」
「…」
マリエルの質問に口が閉ざされてしまった。
「一応言っておきますけど、クレア王女は別に精神的汚染はされていませんわー」
「精神的汚染?」
「洗脳とかの類ですー」
「そういうのあるの?」
「ええ、スキルは本当に多岐に渡ってありますからー」
「ということは洗脳とかはされていないんだな」
「正真正銘クレア王女のままですねー」
本当にクレア王女は何を考えているんだ…。
むしろ都合が良くなりました。というマリエルの呟きは俺の耳には入ってこないほど小さいものだった。




