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ガイア・クロニクル ~世界は、星界の旅人を待ってはくれない~  作者: またおれがっ
第二章 第二遠征団

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第二十二話 全滅

翌朝、周はアンヴィル一族の客室にある石床で目を覚ました。


硬い。


昨夜どれだけ飲んだかより先に、客室とは倉庫から平らな石を選んだだけではないかと疑った。


隣室から砕岳槌の呻きが聞こえる。


「一晩中、ドワーフに槌で殴られてた気がする」


周は起き上がり、額を押さえた。


「三人と飲み比べをしてたからな」


「勝ったか?」


「知らん。最後は四人とも潰れて、バロン大師が卓の勝ちだと宣言した」


顔を洗い、部屋を出ると、軍師も別室から出てきた。服も髪も整い、普段より顔が白い以外、昨夜ドワーフを抱えて仲間を罵っていた男には見えない。


問題は一つだけ。


背後の寝台に、美しい人間の娘が眠っていた。


周の足が止まる。後ろから顔を出した砕岳槌も固まった。


娘はまだ眠り、薄掛けへ半ば顔を埋め、白い肩だけが覗いている。


周の記憶は曖昧だった。バロンが軍師の肩を叩き、「会談も酒も悪くなかった。客を手ぶらで帰すわけにはいかん」と誰かへ手配を命じていた気はする。その頃、周自身も酒杯との難交渉に入っていた。


砕岳槌が口を開く前に、軍師は扉を静かに閉めた。


「働いたあとは休む。当然だろう」


あまりに堂々としていて、二人とも言葉を失った。


軍師は何事もなかったように契約書と経路札を受け取り、持ち帰る文書を確認した。


「半刻後に出る。事務所で保存し、前線へ伝書を送る」


砕岳槌はどうにか一言だけ絞り出した。


「お前、怖いな」


「昨夜バロン大師の槌を抱いて、実の兄弟より俺を分かっている、と言ったお前よりか?」


砕岳槌が凍りつく。周は半歩下がり、宿酔い同士の傷つけ合いから離脱した。


その頃、巡林拠点には昨夜の気楽さなど欠片もなかった。


『ガイア・クロニクル』へ入って以来、初の死亡事件が前日の正午に起きていた。


正確には、第二遠征団初の全滅だった。


会談中、Bladeと斥候二人も不在だった。当面は森の奥へ進まず、高台周辺の伐採と木材輸送、仮設野営地の整備が中心だったため、Atlasは短い斥候不在を問題視しなかった。


拠点周辺は何度も掃討している。旧猟道、渓谷外縁、倒木坂近辺。どこに何が出たか、鈴音の記録には幾つもの版があった。


だが『ガイア・クロニクル』の最も厄介な点は、プレイヤーが「調べ終えた」と思っても、世界が静止してはくれないことだ。


正午、大盾は新人五人を連れ、候補地近くで木を伐っていた。


戦闘職もいたが実戦経験は乏しい。採集・鍛造志望もいる。白桃ソーダも同行していた。


正確には、彼は木を伐っていない。


後に「傷ついた魂の彷徨者」として戻った新人によれば、「頑張って」「今の斧、格好いい」「大盾さんの背中、安心します」と声援を送っていた。


大盾も最初は働けと言った。だが斧の構えが術より危険だと分かり、応援を続けさせた。


前触れはなかった。


風が吹き、渓谷から水音が聞こえ、遠い野営地では木材の置き場を叫ぶ声がした。大盾が最後の数撃で木を倒し、新人へ下がれと声をかける。樹冠の落ちる轟音が消えないうちに、灰黒い影が枝葉の裏から飛び出した。


最初に死んだのは採集・鍛造職だった。


斧を上げる暇もなく弾き飛ばされ、胸当てが大きく陥没した。


次は後衛の新人弓兵。


魔獣は着地と同時に地を蹴り、折れた弩矢のように跳んで、弓兵を木の根へ押し潰した。


三人目が白桃ソーダだった。


反応は遅くない。少なくとも術を使おうとはした。


掌に水の光が薄く集まる。だが焦りで火の元素まで跳ね、二つがぶつかって音を立て、蒸気へ弾けた。


白霧が上がった時には、魔獣が目の前にいた。


白桃ソーダは短く「あ」と言った。


そして消えた。


残る者たちは、大盾の怒声でようやく動いた。


大盾が盾を上げ、もう一人の剣盾役が側面を埋め、新人槍兵が震える穂先を下げる。歪な小隊陣形だった。爪と盾がぶつかり、濡れた木を槌で打つような音が響く。


大盾は一撃目を止めた。


二撃目は止めきれなかった。


力が強いだけではない。ボーンバック・ハウンドやマッドシェル・トードとは、力の通し方が違った。全身の重量を一度の飛びかかりへ注ぎ、爪には魔力の流れを引き裂くような痺れがある。


盾は割れなかった。


だが腕が先に痺れた。


三度目、新人剣盾役の位置が半拍遅れ、側面が開いた。魔獣は隙間を抜け、槍兵の肩を半ば噛み千切った。


陣形が崩れた。


あとは一方的だった。


大盾が最後に倒れた。盾を魔獣の前脚へ叩きつけ、仲間を逃がそうとしたが、もう逃げられる者はいなかった。


死亡ペナルティは即座に適用された。


所持品を全損し、ゲーム内時間で七十二時間復活不能。六人は次々と「傷ついた魂の彷徨者」となって拠点へ戻り、誰もが無言だった。


白桃ソーダだけは、戻るなり叫んだ。


「私の可愛い顔が台無しです!」


木材配分表を整理していた鈴音の筆が、長く止まった。


「死ぬまでの経緯を、三回繰り返して」


白桃ソーダはすぐに黙った。


最も完全な報告をしたのは大盾だ。


図鑑に記載されたB級魔獣の可能性が高い。「B級に近いかもしれない」危険個体ではなく、明確にC級の境を越えた存在だった。


新人たちはD級とすらろくに戦っていない。大盾は頼れる前衛だが、五人の初心者を連れてB級を受け止めるのは無理がある。


報告を聞いたAtlasは、拠点の木壁の前で長く黙った。


レイモンドも来ていた。地面に描かれた遭遇地点を見て、いつも以上に険しい顔をする。


「あの高台は掃討した」Atlasが言う。


「一度掃討した場所へ、二度と何も来ないわけじゃない。スタンピードの前後は、外縁の魔獣も荒れる。ここへ拠点を置くなら、まずそれを理解しろ」


Atlasは反論しない。


理解していることと、自分の団員が候補地近くで初めて全滅したことは別だった。


しかも主戦力が欠けている。軍師、周、砕岳槌は鉄山砦。Bladeと斥候二人は鉱脈と経路の調査中。新人は多く、訓練は追いつかず、野営地整備も始まったばかりだ。


このタイミングで現れたB級魔獣は、第二遠征団の最も薄い部分へ牙を立てた。


Atlasは地図の遭遇地点を指で叩いた。


一度、また一度。


「周たちの帰りを待つべきよ」鈴音が低く言った。


Atlasは答えず、西渓谷南側の林線を見る。


午後の光に樹冠が揺れ、葉が細かな光を返している。昨日までは、晴れ晴れが景色のいい場所だと選んだ、第二遠征団が受刑者の集まりから本物の駐屯隊へ進むための土地だった。


今、そこには団員を殺したB級魔獣がいる。


Atlasの視界へ重剣が入った。


そして彼は笑った。


鈴音の胸が嫌な音を立てる。


「団長」


「分かっている」


「分かってない。その顔は、また面白くなってきたと思ってる顔よ」


Atlasは武器掛けから重剣を取った。幅広い刃が冷たく光る。片手で持ち上げただけで、新人たちが半歩下がった。


「新人に木ばかり伐らせるわけにもいかない。候補地へ来たB級魔獣なら、ちょうどいい実戦訓練になる」


鈴音の顔がさらに冷える。


「実戦訓練?」


「俺が率いる。二班十人。深追いせず、活動範囲を確認する。戦えるなら戦い、無理なら退く」


レイモンドも眉を寄せた。


「本気か?」


「本気だ」


Atlasは重剣を肩へ担ぎ、人を選び始めた。


第一班は周の代わりに終焉の竜槍使いを入れる。


名を呼ばれた彼は槍を地へ突き立てた。


「ついに我が竜槍が、運命の闇帳を引き裂く時か」


団員たちはもう慣れ、誰も相手にしなかった。


第二班は砕岳槌の代わりにAtlas自身が入る。大盾は魂の姿で漂うしかないため、新人の剣盾役を補充した。


その新人の掌は汗で濡れていた。


Atlasが肩を叩く。


「大盾の代わりになろうとするな。立つべき場所へ立ち、指示を聞き、勝手に下がらなければいい」


新人は力強く頷いた。


名簿を持つ鈴音の筆圧は重い。


「団長。軍師は出発前に、団員をまとめて死なせるなと言ったわ」


Atlasはすでに重鎧を着込んでいた。甲片を留めるたび、鈍い金属音が響く。手甲を締めて顔を上げると、興奮は落ち着いた笑みに押し込められていた。


「大丈夫だ」


胸甲を叩く。


「俺がいる」


十人の隊は、ほどなく巡林拠点を出発した。

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