第十四話 五番勝負
一番目の勝負は、すぐに終わった。
若いドワーフは盾を前に突進した。短剣は盾の陰に隠し、足運びも悪くない。
周は正面から受けなかった。半歩だけ身をかわし、剣先で相手の盾の縁に軽く触れて、その力を測る。直後、自分の盾を円盾の外側へ沿わせ、勢いよく打ちつけた。
鈍い音が響く。相手の盾が、わずかにずれた。
それで十分だった。
周の剣が隙間を抜け、若者の喉元でぴたりと止まる。
若いドワーフは目を見開き、すぐに後ろへ下がった。「俺の負けだ」
二人目は、両手斧を携えて現れた。
最初の若者より、はるかに荒々しい。始まるや否や、連続する斬撃で周を押し潰そうとする。斧刃が盾を打つたび、その重さが増していった。
周は三歩退いた。四歩目では、退かなかった。
盾を斜め上へ突き上げ、斧の柄を盾の縁と肩当ての間に挟み込む。
ドワーフは力任せに引き抜こうとした。周はその動きに合わせて、一歩踏み込む。
盾が胸を打った。
相手は足をもつれさせ、石の円の縁を踏み越える。場外だった。
周囲から、どっと囃す声が上がる。
周は剣を引き、相手に軽く一礼した。「どうも」
三人目は、少々手こずった。
若いドワーフの得物は短槍と小盾。足がよく動き、周の盾の外側ばかりを狙ってくる。正面からはぶつからず、一撃ごとにすぐ離れる。槍の穂先が啄木鳥のように、肩、膝、手首をせわしなく窺った。
周の最初の反撃は空を切った。二度目は小盾に阻まれる。
三度目、周は槍先を追うのをやめ、相手の足だけを見た。
短槍がまた突き出される。今度は完全には防がず、穂先を盾の表面で滑らせた。相手が槍を引く一瞬を狙い、鋭く前へ出る。
盾で小盾を弾き飛ばし、剣の腹を肩へ叩きつけた。実戦なら、肩の骨が外れていただろう。
若いドワーフは動きを止め、自分の肩を見下ろしてから、歯を見せて笑った。
「速いな」
「そっちも」
三人目も突破した。
周を見る若いドワーフたちの目に、少しばかり違う色が宿る。
ようやく安堵した周は、いささか得意にもなっていた。剣を引くと、四方へ向けて軽く頭を下げる。
「いや、お恥ずかしい」
傍らの砕岳槌が白い目を向けた。「けっ、何を格好つけてやがる」
周は聞こえなかったふりをした。
実際、第二遠征団の中でも、周の戦闘力はかなり上位に入る。
普段は小隊長や仲間のまとめ役を務め、剣と盾で足りない場所を埋め、危険な位置へ出た仲間を引き戻すことに慣れていた。そのため皆が抱く印象は、頼りになって、腕も立つが、派手さはない――というものだった。
だが周が本当に得意とするのは、盾の陰に籠もることではない。長剣で攻めることだった。
『ガイア・クロニクル』へ来てから、密かにいろいろと試してもいた。
術者たちが感知の訓練をしているときには、周も面白半分で混ざった。最初こそ晴れ晴れに「剣盾戦士が魔力を探ってどうするの」と笑われたが、やがて周にも、わずかな感覚が掴めるようになった。
元素とは違う。
炎もない。水気も、土石の応えも、風の動きもなかった。
むしろ一瞬だけ、体内に散らばっていた何かが、ひとつに絞り込まれるような感覚だった。
呼吸が短くなる。視界が澄む。
足元の距離。相手の肩の動き。剣の柄から伝わる振動。そのすべてが、不意に手に取るように分かる。
ただし、訪れは不安定で、消えるのも早い。何度か試してはみたものの、術者のように目に見える現象を引き起こせたわけでもなく、ひとまず棚上げにしていた。
四人目の若いドワーフが円へ入ろうとしたとき、横から伸びた手がその肩を押さえた。
「どけ」
低いが、重みのある声だった。
広場の脇を通りかかったドワーフの古参兵が、前へ出てくる。
巡回用の古びた鎧をまだ身につけ、肩当ての縁には何度も直した痕が残っていた。髭は若者たちよりずっと長いが、日除けの下に座る老人たちほど大仰ではない。非番でたまたま通りかかったらしく、片手には食べかけの黒パンまで握っていた。
古参兵は周を見据える。「お恥ずかしい、だと?」
周は目を瞬いた。「ただの謙遜ですよ」
「そうは聞こえなかったがな」
古参兵は黒パンを傍らの若者へ押しつけ、使い込まれた盾と短斧を手に取った。「俺が相手をしよう」
日除けの下の老ドワーフたちは止めなかった。それどころか、一人が愉快そうに笑う。
「ほう、ドゥエンまで血が騒いだか」
周の胸に芽生えていた得意気な気分が、たちまち萎んだ。
古参兵が石の円へ足を踏み入れた瞬間、空気が一変する。
前の三人のように先手を取ろうとはしない。ただ腰を据えて盾を掲げ、短斧をその脇へ垂らしていた。
周が探るように半歩出る。剣先が動いたときには、もう古参兵の盾が迫っていた。
速い。
若さゆえの速さではない。
こちらが何をするか知っていて、先にその場所で待っている者の速さだった。
周は剣を引き、盾で短斧を受ける。金属音が鳴った。恐ろしく重い。
続けて二撃目、三撃目が来る。
古参兵の動きには、ひとつとして飾りがなかった。盾で押し、斧を打ち込み、肩をぶつけ、足で位置を塞ぐ。周が何度回り込もうとしても、短い歩幅で先を塞がれた。
広場の石円は大きくない。しかも外へ出れば負けだ。動ける場所が、少しずつ削られていく。
傍らの砕岳槌も、もう笑ってはいなかった。「あの爺さん、やるじゃねえか」
ブローンが声を落とす。「ドゥエン叔父さんは昔、北の山道を守ってた。斬った魔獣の数なんて、誰も覚えちゃいない」
その言葉は、周には聞こえなかった。ただ、圧力が増していくのを感じていた。
古参兵の経験が、あまりにも深い。
盾は壁。短斧は、扉の隙間から伸びる鉄の鉤だった。反撃へ移ろうとするたび、その鉤に引っかけられ、守りへ戻される。
このままでは駄目だ。
周は石円の縁まで下がった。古参兵が踏み込む。短斧が盾の脇へ振り下ろされた。
周は、不意に手を放した。
盾が石板へ落ちる。周囲がどよめいた。
右手には剣。左手は空いた。体が半分ほど軽くなったように感じる。
古参兵の短斧が空を切り、そのまま盾が押し寄せてきた。
周は退かない。盾の表面に沿って、内側へ潜り込んだ。
剣閃が下から跳ね上がる。
古参兵の反応も速かった。短斧を引き戻し、剣を真っ向から受け止める。
激しい音が弾けた。周の手首が痺れる。
だが、感覚を掴んだ。
この間合いだ。
盾を捨てた途端、動きがまっすぐに、速くなった。剣はもう盾の陰から覗くものではない。古参兵の手首、肩口、盾の縁へ、立て続けに襲いかかる。
相手は一瞬だけ戸惑ったが、すぐに盾と短斧の連携を固め、周の連撃を一つずつ受け切っていった。
二人は石円の中央から縁へ、縁から再び中央へと打ち合いながら巡る。
周の呼吸が、どんどん短くなった。音が遠ざかっていく。
日除けの下の囁きも、若いドワーフの歓声も、砕岳槌の叫びも、すべて風に押し流されたようだった。
見えるのは、古参兵の肩。足。盾の縁。短斧を引き戻す直前に生まれる、わずかな隙間。
――来た。
周が踏み込む。
自分の体に引っ張られたと錯覚するほど、鋭い一歩だった。足元で石板が震える。長剣で短斧を押さえ、左手で相手の盾の縁を掴み、その力を借りて一気に懐へ入る。
古参兵の目が変わった。肩で周を突き放そうとする。
周は膝を上げ、盾の下端を蹴りつけた。
鈍い音。
古参兵は、盾ごと後ろへ滑った。
靴の踵が石円の縁をこする。踏みとどまろうとしたが、半歩遅い。
場外。
広場が、しんと静まり返った。
周はその場に立ち、激しく胸を上下させていた。先ほどの研ぎ澄まされた感覚が、まだ視界の奥に残っている。引き潮の直前にきらめく、最後の冷たい光のように。
ドゥエンは自分の足元を見下ろし、それから周へ目を戻した。
しばらくして、髭を撫でながら笑う。
「やるじゃないか、若造」
周はようやく剣を下ろした。
「どうも」




