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ガイア・クロニクル ~世界は、星界の旅人を待ってはくれない~  作者: またおれがっ
第二章 第二遠征団

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第十三話 試練

中庭には、それからもしばらく槌の音が響き続けた。


砕岳槌は初め、力任せに押し返そうとしていた。だが打ち合ううちに、老ブローンの槌は魔獣とはまるで勝手が違うと気づく。


魔獣は爪や牙、角、そして巨体にものを言わせ、正面から襲ってくる。対する老ドワーフは、歩き回る金床のようだった。歩幅は小さく、腰は低い。体を返すたび、砕岳槌の力を巧みに脇へ逃がしてしまう。


巨槌が空を切り、石床をかすめた。砕けた石が輪になって飛び散る。


老ブローンは柄の内側へ潜り込み、肩からぶつかると、腰めがけて斜めに槌を押し込んだ。


砕岳槌は慌てて力を抜き、身をひねって受け止める。


甲高い音が弾けた。腕が痺れ、脇腹の古傷がずきりと疼く。


「よく持ちこたえるじゃねえか」老ブローンも息を切らしていた。


「そっちこそ、ずいぶん力を盗むのが上手いな」砕岳槌は歯を食いしばる。


老ブローンの目が輝いた。


「分かったか?」


「当たり前だ。この古狸、一度だってまともに打ち合ってねえだろ!」


砕岳槌が横薙ぎに巨槌を振るう。


老ブローンは豪快に笑った。だが足は止まらない。槌頭の最も重い軌道をかわし、短槌で柄の中ほどを叩く。砕岳槌の手首が沈んだ。強引に押し返そうとした瞬間、脇腹に鋭い痛みが走る。


動きが、ほんの半拍遅れた。


老ブローンの槌が、胸元で止まっていた。振り下ろされることはなかった。


砕岳槌は胸前の槌を見下ろし、次いで痛む脇腹へ目をやった。やがて荒い息を吐きながら、巨槌の柄を石床へ突く。


「分かった」


老ブローンが眉を上げた。「何がだ?」


「俺の負けだ」砕岳槌は脇腹を押さえ、苦い顔をした。「あと二、三発もらったら、本当に傷が開く」


中庭が一瞬、静まり返る。直後、見物していた近所のドワーフたちから囃し立てる声が上がった。


老ブローンは勝ち誇るように立っていたが、額は汗にまみれ、髭の下では胸が大きく上下していた。短槌を肩に担ぎ、何食わぬ顔で歩き出そうとする。だが最初の一歩で、膝がわずかに折れた。


「親父」ブローンがすぐに声をかける。


「黙れ。お前に支えられるほど老いちゃいねえ」


老ブローンは息子を睨みつけた。それを見た砕岳槌が、にやりと笑う。


「あんたも、もう力が残ってないんだろ」


「お前を地べたに這わせる程度は残ってる」


「じゃあ、どうして打たなかった?」


「お前がさっさと負けを認めたからだ」


二人はしばし睨み合い――不意に、揃って大笑いした。


老ブローンは短槌を金床の脇へ戻す。


「悪くない槌だ。ただし、せっかちすぎる。腰を痛めているくせに意地を張りやがって。馬鹿め」


砕岳槌は脇腹をさすった。


「あんたも悪くなかったぜ。小さいくせに、ずしりと重い」


周は静かに目を閉じた。砕岳槌の物言いを正すのは、もう諦めるしかない。


ところが老ブローンは腹を立てるどころか、褒め言葉でも聞いたように満足げだった。


「重けりゃ十分だ。鍛冶も喧嘩も同じよ。見栄えだけの技なんざ役に立たん」


「そいつは同感だ」


周はブローンを見る。「ドワーフって、みんなこうなのか?」


ブローンはため息をついた。「うちは特にひどい」


実のところ、二本の槌が派手にぶつかり合っている間に、ブローン家にはもう一人、客が訪れていた。


かなり年配のドワーフだった。髭は老ブローンよりずっと丁寧に梳かされ、濃色の上着をまとい、腰には鍵と小さな鉄札の束を下げている。止めに入るでも、声をかけるでもなく、中庭の入口に立って、のんびり勝負を眺めていた。


彼に気づいた途端、ブローンの表情がいくらか引き締まった。


「ムーレン叔父さん」


周も振り向く。ムーレンと呼ばれたドワーフは、周へ軽く頷いた。


「お前さんたちが、第二遠征団の者か?」


「はい。山中帝国にまつわる伝承について、お話を伺いたくて来ました」


「ブローンから聞いている。この中庭からも、たっぷり聞かされたがな」


周は返す言葉に詰まった。


ブローンが小声で補足する。「ムーレン叔父さんは、一族の差配役の一人だ。普段は外の店と、一族の文書を取り仕切ってる」


ムーレンは軍師にも、山中帝国についても、すぐには何も尋ねなかった。


老ブローンと砕岳槌がようやく手を止めるまで待った。砕岳槌が腰を押さえて負けを認め、老ブローンが口では罵りながらも満足げな目をする、その一部始終を見届けてから、ようやく頃合いが来たというように口を開く。


「では、試練の段取りをつけよう」


周は目を瞬いた。「もうですか?」


「早くはない。そこの大槌持ちは、もう済んだ」


砕岳槌が顔を上げる。「俺が?」


「お前だ。老ブローンがあれだけ長く相手をして、追い出しもしなかった。それだけ気に入ったということだ。アンヴィル一族は回りくどい真似を好まん。槌で話がついたのなら、それで話はついている」


砕岳槌は少し考え、納得したように頷いた。


「あんたらの一族、案外話が分かるな」


周は危うく咳き込むところだった。


ムーレンの視線が、今度は彼へ向く。「だが、お前さんは別だ」


「俺ですか?」周は自分を指差した。


「お前さんは、まだ合格していない。さっきからずっと『話せば分かる』と横で言っていたな。間違っちゃいないが、口当たりのいいことを言うだけでは族老に会わせられん」


周は口を開きかけた。どうにも納得がいかない。


ムーレンはすでに背を向け、外へ歩き出していた。


「ついてこい。上層にちょうどいい場所がある。今日は非番の者もいるからな」


背後から老ブローンが叫ぶ。「うちの中庭をこれ以上壊すなよ!」


「親父、もうだいぶ壊れてるぞ」


ブローンが小声で指摘すると、老ブローンはたちまち息子を睨みつけた。


一行はムーレンに続き、上層へ向かった。


鉄山砦の道は山の内部を幾重にも巡っている。上へ行くほど風が強まり、炉から噴き出す熱気は背後へ遠ざかっていった。代わって山稜の隙間から、冷たい風が吹き下ろしてくる。


石段を次々と上り、途中の広場を横切るたび、眼下に折り重なる街区や吊り橋、鉱車の軌道、絶えず昇降する巨大な台座が見えた。


さらに上ると、急に視界が開ける。ムーレンは一行をそこで待たせ、自ら族老へ話を通しに行った。


片側は山壁に接し、反対側には腰ほどの高さの石柵が築かれている。その縁から見下ろせば、鉄山砦は山そのものに埋め込まれた鋼鉄の都だった。道も、炉も、倉庫も、吊り橋も、昇降機も、灰黒い岩壁の間に幾層にも積み重なり、そこかしこで炎が明滅している。


山風に体が冷え始めた頃、ようやくムーレンが戻り、彼らを屋外の広場へ案内した。


中央には、平らな石板を敷き詰めた円がある。


日除けの下では、呆れるほど長い髭を蓄えた老ドワーフたちが腰掛けていた。目の前には木杯と煙管、焼いた木の実を盛った小皿が並んでいる。ムーレンが一行を連れてきても、億劫そうに目を上げただけだった。


その周囲には、すでに大勢の若いドワーフが集まっていた。見世物が始まるという噂は、一族の中を恐ろしく速く駆け巡ったらしい。


「大槌のほうは、もうよいのだな?」


ムーレンが頷く。「老ブローンが見ました」


「なら、そこの剣と盾の若造だ」老ドワーフが言った。「五番勝負。若い者を順に出す。円から出れば負け。致命傷になりうる攻撃を放っても負けだ。星界の旅人は我らを傷つけられず、我らもそやつを傷つけられんが、規則は規則だからな」


話を聞き終えた周は、ゆっくり砕岳槌へ顔を向けた。


砕岳槌は傍らで巨槌を抱え、壁にもたれている。腰にはまだ包帯が巻かれていた。


「何で俺を見る?」


「お前は一人と殴り合っただけで合格したのに、俺は五人とやるのか?」


砕岳槌は少し考えた。「俺のほうが好かれる性格なんだろ」


周は深く息を吸った。しばらく、こいつのことは無視しよう。


一人目の若いドワーフが、石板の円へ進み出た。


周と同じく、剣と盾を持っている。盾は円形。剣は人間が使うものより短く、幅広で分厚い。近間で相手を押し込むのに向いた造りだった。


若者は盾を掲げ、周へ一礼する。


周も盾を腕に締め直し、腰の剣を抜いた。


二人の間を、広場の風が吹き抜ける。


日除けの下で、老ドワーフの一人が木杯をこつりと叩いた。


「始め」

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