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ガイア・クロニクル ~世界は、星界の旅人を待ってはくれない~  作者: またおれがっ
第二章 第二遠征団

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第九話 駐屯方針

その日の巡林拠点は、日が暮れるまで騒がしかった。


新たに加わった団員の登録、軍備の搬入と旧装備の再配分、駐留隊との巡回経路の調整。書記官が届けた命令書は二部写され、一部をレイモンドが、もう一部を鈴音が第二遠征団の文書箱へ収めた。鉄山砦から来た兵士もすぐには帰らず、引き継ぎを手伝いながら、輸送中に軍備が紛失していないか確認している。


周は初め、その疑い方は少々失礼ではないかと思った。


直後、予備の円盾を何食わぬ顔で背負おうとする砕岳槌を見つけた。


鈴音は帳面から目も上げない。


「それは備品です」


砕岳槌の手が止まった。


「重さを確かめてるだけだ」


「確認が済んだら戻してください」


「……ちっ」


夕方になって、ようやく拠点はひとまずの形に落ち着いた。


新参団員は二棟の兵舎と急ごしらえの油布小屋へ振り分けられ、軍備箱は道具小屋脇に空けた一角へ積まれた。術師たちは井戸端の静かな場所を陣取って感知の練習を続け、弓手は新たに届いた弩を囲み、引き具合を試している。


Bladeは到着してからほとんど口を開かなかった。新たに加わった二人の斥候だけを呼び寄せ、低い声で何かを伝えると、そのまま二人を連れて拠点の外の影へ消えていった。


全員がだいたい落ち着いたところで、Atlasは第二遠征団を空き地へ集め直した。


レイモンドと駐留兵たちは、少し離れた場所から面白半分に眺めていた。だがAtlasが話し始めると、単なる団内の打ち合わせではないことにすぐ気づいた。


「今日から、俺たちは賦役に駆り出された臨時部隊ではない」


Atlasは木箱の脇に立った。背後には搬入されたばかりの軍備が並び、鉄山砦領の旗が夕風にはためいている。


「鉄山砦は俺たちに立場を与えた。“雇用”と“監督”という但し書きはついているが、少なくとも一つ、はっきりしたことがある。ここを、第二遠征団が本当の意味で前線へ進出する足掛かりにできるということだ」


声を潜めることも、レイモンドたちを遠ざけることもしなかった。


「短期目標は三つ。第一に、巡林拠点と協力して外縁部の巡回路を安定させる。第二に、偵察記録を整備し、魔獣の活動変化を把握する。第三に、新編成を鍛え、全員を『ガイア・クロニクル』の戦い方に慣らす」


人垣の中にいた周は、レイモンドの隣の若い槍兵が目を丸くして聞き入っているのに気づいた。


「中期目標は、鉄山砦前線における第二遠征団の影響力を広げることだ。俺たちは処罰で送られた厄介者ではなく、外縁部の負担を長期的に引き受けられる部隊だと守備隊へ示す。戦績と名声を積み上げた後で、正式なギルド資格、駐屯地の使用権、より独立した行動権限を申請する」


そこで言葉を切り、笑う。


「簡単に言えば、まず鉄山砦のために働いて足場を固める。大きくなってから、独り立ちする方法を考えればいい」


駐留兵の視線が、一斉にレイモンドへ集まった。


――それを俺たちの前で言っていいのか。


どの顔にも、そうありありと浮かんでいた。


レイモンドは腕を組んだまま黙り込み、やがて呆れたように首を振った。


「最後の一言は聞かなかったことにしよう」


Atlasは笑顔で頷く。


「助かります」


周が隣で囁いた。


「団長、わざと言っただろ」


「どう思う?」


「絶対そうだ」


Atlasは答えず、そのまま編成の調整へ移った。


Bladeと、彼が連れてきた二人の新人。


その三人によって、第二遠征団に最も欠けていた役割がようやく埋まった。


斥候だ。


これまで外縁部を掃討する際には、身軽な弓手や経験のある小隊長――周のような者――さらには正面戦闘も満足にできない術師まで交代で先行させていた。役に立たないわけではない。だが何かあるたびに、隊全体へ緊張が走った。


術師は魔力を探りながら足跡や折れた枝まで見分けなければならない。数日もすると、晴れ晴れは「治療役ではなく、荒野へ薬草を探しに行かされる不運な見習いみたいだ」と何度もこぼしていた。


それも、ようやく終わる。


第二遠征団は第三戦闘班を新設した。


各班は暫定五名。前衛二名、斥候一名、遠距離攻撃役一名、術師一名。


Atlasは術師を拠点へ置いていくつもりもなかった。


「まだ自在に術を使えない。それは全員分かっている。だが、部屋に籠もって本を読むだけでは、魔法は身につかない。これからは各班に術師を一人ずつ入れる。見栄えのする術を求めはしない。まず戦場で踏みとどまり、感じ取り、判断することを覚えろ。味方を吹き飛ばすな」


土の元素を扱う術師が小声で抗議した。


「最後の一言、要ります?」


晴れ晴れが隣でため息をつく。


「本当にやりかねないからね」


それから、日々は着実に流れていった。


第二遠征団は拠点の周囲を回るだけではなく、さらに森の奥へ踏み込むようになった。初めは古い獣道の終点まで。次には谷川沿いを半日。やがて斥候は、倒木坂の南へ新たな目印を残し始めた。


どの経路も鈴音の文書へ記録された。魔獣を発見した場所、種類、数、逃走方向。それらはレイモンド側の巡回記録とも照合されていく。


駐留兵にとって、星界の旅人は当初、厄介だが役には立つ余所者でしかなかった。


だが付き合いが長くなるにつれ、少しずつ様子が変わった。


「星界の旅人なら回復も早いだろ」と周が木杭運びへ呼び出される。晴れ晴れは治療術で腰痛も治せるのかと尋ねられる。若い槍兵は頻繁に弓手のそばへ寄っていき、弦の調整を覗き込んだ。


ドワーフ兵は第二遠征団の武具の手入れを酷評した。二度ほど怒鳴った末、とうとう前衛たちを捕まえ、鎧の拭き方、刃の研ぎ方、留め具の点検方法まで教え始める。


砕岳槌は、初めこそ相変わらず斜に構えていた。


「NPCってのは細かいな」


ドワーフ兵に籠手を締め直されながら、小声でぼやいた。


兵士が目だけを上げた。


「左の留め具が指一本分ほど緩んでいた。魔獣の爪が引っかかれば、籠手ごと持っていかれるぞ」


砕岳槌は眉をひそめる。


「大げさだろ」


ドワーフ兵は答えず、左腕の古傷を見せた。


手首から肘まで伸びる、引きつれた傷。何かに力任せに引き裂かれたように、縁がひどく歪んでいる。


砕岳槌は二秒ほど見つめ、口を閉じた。


「……分かったよ。やってくれ」


腕を差し出す。


その後も口の悪さは変わらず、何かにつけて“NPC”と呼んでいた。それでも周は一度、砕岳槌が余った干し肉をそのドワーフ兵へ投げ渡すところを見た。


「食い切れない。捨てるのももったいないからな」


受け取ったドワーフ兵は、鼻を鳴らした。


「次からは自分で留め具を締めろ」


「分かった、分かった」

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