第四話 賦役――魔獣狩り
調査は、第二遠征団が考えていたより、はるかに速く進んだ。
星界会館の別室で、執行隊は村人の訴状、倉庫の不足品一覧、夜番の老人の証言、村長の陳述を一つずつ並べた。
一行が去ったあとに見つかった足跡や、箱の蓋をこじ開けた傷まで、簡潔な記録になっている。
周は数枚の紙を前に、何も言えなかった。
従来のゲームでいう「箱からアイテムを取る」行為ではない。
一つの事件として記録され、土地の秩序に認識され、現実の結果を伴っていた。
士官は記録を読み終え、Atlasを見た。
「賠償金は別途支払ってもらう。倉庫の備蓄、夜間の騒擾、村人の仕事を妨げた分を含め、被害を受けた村へ銀貨で支払え」
文書を机の中央へ押し出す。
「罰金は鉄山砦領が一時的に立て替えられる。ただし、諸君の債務として記録する」
「金額は?」
士官が数字を読み上げた。
別室が、数秒間静まり返る。
ゲームを始めたばかりの彼らに、払える額ではなかった。
鈴音が素早く計算する。その顔も険しくなった。全員の初期資金を集め、すぐ売れそうな素材を足しても、到底届かない。
Atlasは低い声で言った。
「分割で支払いたい」
「認められる。ただし信用問題が解決するまで、星界会館はギルドの設立を承認しない。正式なギルド依頼、拠点申請、団体保証の権限も開放されない」
罰金より、その言葉のほうが重かった。
団員たちが一斉にざわめく。
「ギルドを作れない?」
「干し肉を少し取っただけだろ?」
「いくら何でも大げさじゃないか」
鈴音が鋭く振り向いた。
「黙りなさい」
例の前衛は、顔を赤くした。
「誰に怒鳴ってる? 昨夜、弁償するって言っただろ。踏み倒す気なんてない!」
士官は男を一度見ただけで、穏やかな口調を崩さなかった。
「諸君は現在、支払い能力を持たず、降臨したばかりの星界の旅人でもある。前線地域の臨時条例に基づき、債務者には強制賦役を課す」
別の任務書が、机へ置かれた。
「巨獣の森の外縁にある巡林拠点へ向かえ。近頃、周辺で魔獣が頻繁に現れ、街道と村々へ影響が出ている」
士官は一行を見回す。
「D級魔獣を三十体以上、C級魔獣を五体以上討伐すれば、賦役を完了したものとする。討伐で得た指定素材は徴収し、罰金へ充当する」
晴れ晴れが尋ねた。
「村への賠償金は?」
書記が答える。
「賠償金は充当の対象外です。別に銀貨を稼ぎ、被害を受けた村へ直接支払ってください。あれは村人が受け取る金です。守備隊の判断で消すことはできません」
部屋はさらに静かになった。
Atlasは任務書を取った。
場所、対象、監督者、達成条件、失敗時の処分。
紙に並ぶ文字は、どれも冗談ではなかった。
それでも前衛は虚勢を張った。腕を組み、鼻で笑う。
「払わなかったら何だっていうんだ。本当に俺たちを捕まえるのか?」
Atlasの目が、一瞬で険しくなる。
だが彼が口を開く前に、執行隊の士官が淡々と答えた。
「支払わないことはできる」
男は虚を突かれた。
「処罰と賠償を拒否すれば、鉄山砦領の指名手配名簿へ載る。以後、砦への入城を禁ずる。星界会館の登録、依頼、取引も利用できない。領地は執行を専門とする星界の旅人へ、諸君の追跡と拘束を依頼する」
士官は言葉を切り、続けた。
「捕縛された場合、債務、罰金、賦役期間は加算される。望むなら、今ここで拒否を選んでもいい」
前衛は口を開いた。
顔色が青くなり、次に白くなる。だが結局、一言も返せなかった。
他の団員も黙り込んだ。
プレイヤーには、確かに支払いを拒む自由がある。
そして、この世界にも彼らを指名手配する自由があった。
Atlasは深く息を吸い、胸の怒りを押し込めた。
「処罰を受け入れます」
士官は頷いた。
その瞬間、前衛の眼前にシステム表示が現れた。
男は目を見開く。
直後、その顔は何とも言えない表情になった。
「どうした?」
誰かが尋ねる。
男は数秒黙っていた。恥ずかしいのか、馬鹿げていると思ったのか。やがて歯を食いしばって答えた。
「イベントの評価だ」
【イベント評価:A】
【称号獲得:無礼な星界の旅人】
【称号効果:すべてのNPCから受ける第一印象が低下する。】
続いて、冷静で腹の立つシステム音声が流れた。
「ならず者としては、お客様の振る舞いは確かにA評価に値します。残念ながら、Aが常に称賛を意味するとは限りません」
誰かが、堪えきれず吹き出した。
前衛が勢いよく振り向く。
「今、笑ったのは誰だ?」
誰も名乗らなかった。
その直後、第二遠征団の全員へ新たな任務が表示された。
【賦役:魔獣狩り】
【任務目標:巨獣の森の奥にある巡林拠点へ向かい、近頃頻繁に出現する魔獣の掃討に協力する。】
【達成条件:D級魔獣三十体以上、C級魔獣五体以上を討伐する。】
【特記事項:任務中に獲得した指定魔獣素材は、罰金への充当のため鉄山砦領が徴収する。村への賠償金は別途支払うこと。】
【失敗時:賦役期間の延長、鉄山砦領における信用の低下、関連サービスの制限拡大。】
周は任務欄を見つめた。
このゲームは、少々現実的すぎる。
隣では鈴音が、表示された項目をすでに小声で読み上げながら書き留めていた。
Atlasは、すぐには指示を出さなかった。
システム画面を開き、ログアウトを選択する。その前に、一度だけ全員を見た。
「少し落ちる」
「団長?」
周が驚く。
Atlasの顔は険しかった。
「軍師を連れてくる」
誰も何も言わなかった。
もはや「金を払えば済む」程度の問題ではない。進行経路、信用、ギルド設立、前線での計画。そのすべてが、昨夜軽く考えた行為につまずいていた。
ここから先は、軍師なしでは進めない。
Atlasの姿が、淡い光となって消えた。
現実では五分ほどの時間だったが、この別室ではひどく長く感じられた。
前衛は隅に座り、険しい顔で口を閉ざしている。鈴音は一度もそちらを見ず、任務条項を何度も確認していた。晴れ晴れは入口で、被害を受けた村への賠償手続きを執行隊へ尋ねている。
周は壁にもたれ、石窓の外を眺めた。
鉄山砦は変わらず騒がしい。
プレイヤーは列に並び、値段をめぐって言い争い、スタンピードと前線について興奮した声で話している。鉱車が軌道を轟音とともに走り、遠くからドワーフの槌音が一打ずつ届く。
第二遠征団が立ち止まっても、世界は半歩も待ってくれなかった。
十五分後、Atlasが再び現れた。
「軍師は今夜来る」
それだけ告げ、すぐ続ける。
「それまでに編成をやり直す。魔獣戦の準備を始めろ」
執行隊も、それ以上の時間は与えなかった。
二人のドワーフ兵が印章付きの任務書をAtlasへ渡し、別の人間兵が一行へついてくるよう合図する。
部屋を出る前、鈴音は足を止め、受付の案内係へ向き直った。
「鉄山砦の魔獣図鑑はありますか。任務へ持ち出せるものを、二冊」
案内係は少し迷った。
だが魔獣討伐を疎かにするわけにもいかない。この一団も、全員が無法者には見えなかった。少なくとも団長のAtlasには話が通じる。
結局、案内係は頷き、受付の下から二冊の綴じ本を取り出した。
表紙は硬い牛皮紙で、角を薄い鉄板が覆っている。星界会館と守備隊、二つの印章が押されていた。
「前線用の共通版です。重くても我慢してください。鉄山砦は魔獣によって生計を立て、魔獣から身を守って生きています。確認済みの種は、ほとんど載っています。D級からA級まで。S級も古い記録だけはあります」
案内係は本を差し出しながら、念を押す。
「ただし、何十年も現れていないものや、過去の大氾濫で不完全な記録しか残らなかったものもあります。すべてを現在の戦術として鵜呑みにはしないでください。それから、図鑑も安くありません。代金は債務へ加算します。きちんと務めを果たしてくださいね」
「承知しました。ありがとうございます」
鈴音は受け取った一冊をAtlasへ渡し、もう一冊を自分の書類かばんへ収めた。
第二遠征団が星界会館から出ると、まだ多くの視線が向けられていた。
何があったのか、小声で尋ねるプレイヤーもいる。執行隊の制服と、一行の険しい顔から事情を察した者もいるだろう。
決して気分のいいものではなかった。
前線ギルドとして堂々と鉄山砦へ入るつもりだった彼らには、なおさらだ。
一行は混雑した通りを抜け、守備隊員に引き渡されると、中心街から斜め下へ延びる石道を進んだ。
やがて道は、奥深い隧道へ入る。
砦の喧騒が少しずつ遠ざかり、炉の赤い光も背後へ消えていく。
前方に見える出口の光は、目が痛くなるほど明るかった。
冷たい山風が隧道へ吹き込み、湿った土の匂いを運んできた。




