閑話 おかえり
『ガチャ』
『フローライト・オンライン』からログアウトして僕が地下室で安楽椅子に座りながら、コーヒーを嗜んでいるとドアノブが動く音がする。
『コツコツ』
一定の音が聞こえる。警報が鳴っていないことからも、この家に入れる限られた人間であることに違いはなく。加えて、彼女以外の人間であれば事前に連絡を取ることからも彼女であることがわかる。そして、地下室のドアが開く。奥から入る彼女を、僕は当たり前の言葉で労う。
「おかえり。イシス。」
「__________ただいま!」
「ああ。」
三十年ぶりに娘が帰ってきた。なかなかどうして嬉しいことだ。
(やはり、当たり前の日常というものは素晴らしいとこう言う時は表すのかな?正直言って、代わり映えしない日常というものは嫌いな方だが、こういう時だけはいいものだと思えるね。)
「随分と、遅くに帰ってきたものだね。仕事はどう?うまくいってるかな?」
「はい、やっぱり仕事というものは大変で…ですが、それ以上に楽しくもあります。あなたがたどってきた道のりの難しさを理解することもできる。まあ…仕事の引き継ぎなどで少々手間取ってしまいましたが。それはそれとして、ソロモンさん、一つ質問をしていいですか?」
「構わないよ。」
元々予想はできていたことだ。これまで彼女に内緒にしてきたこと、それをいつかは言わなくてはいけなくなってしまうであろうことも。
「では、単刀直入に聞きます。私の名前に与えた意味。それはなんですか?」
「いきなり本題に入るね。まあ、いいだろう。僕が、君の名前であるイシスに込めた思い。それは、困難に屈さないほどの強い意志と気高く誇り高い『優雅さ』そして、最後に太陽のような優しさを持った女性になってほしい。そう言った思いで、僕は君にイシスという名前を渡した。」
「それが…私の名前の意味。」
僕の言葉に、イシスは噛み締めるかのような表情で手を見る。いったい何を考えているのか。それは僕には知る由もない。なぜなら、僕は全知ではないのだから。だけど、今考えていることが彼女に良い影響を与えることを願おう。
「さて、他に何か質問はあるかな?」
「……一つだけあります。なぜ、『コロッセオ』に実況として参加なされたのですか?貴方であれば、見る必要もなかったと思うのですが。」
「そうだね、理由は二つ。君と会話をしておきたかったのと、現時点での最上位のプレイヤーたちの実力。それを確認しておく必要があった。」
「何故?貴方ほどの力があれば、確認する必要もなかったと思うのですが。」
その言葉に少し僕は言葉が詰まる
(これって言っていいのかなーなんかネタバレになりそうだから、正直言ってよくわかんない状況なんだよね。まいっか。)
「『フローライト・オンライン』には一つの『目標』がある。いや、行うべき『メインクエスト』というべきかな?その『メインクエスト』は合計24体のボスを倒すことによって解放される。だが、現時点で僕とベロボーグたちで倒せると踏んでいるのは二名。そして、討伐できたのは一体。あまりにも人数も、実力も足りていない状況だ。だからこそ確認しておくべきだったんだよ。」
「初耳ですね。正直言ってそんな相手がいるだなんて予想外もいいところですよ。」
「だろうね。まあ、確認することが必要だったかどうかは別にどうでもいい。結局のところ重要なのは、『変世機』の位階が『超越』に至れるかどうかだ。」
「それで、どう変わるんですか?」
「僕の予想では、その下の位階と出せる出力が千倍近く違うだろう。あくまで予測だから、上下する可能性もあるしね。」
「……なるほど。ところで、今のところ位階を上げるのはどう言った状態なのですか?」
「まあ、至るまでにまだ時間はかかるだろうね。だけどそれでいい。僕も幾つか構想を練ってはいる。だけど、あくまで構想に過ぎないから確証はないけどね。」
そう言い終えると、僕はイシスに対して質問をし始めた。職場で楽しいことはなかったのか、ここ30年間でどんなことを行ってきたのかなどをコーヒーを片手に楽しんだ。久しぶりに、楽しい夜だった。
そして、イシスは寝る前に一つだけ質問をしてきた。
「現時点で、ソロモンさんが討伐できたのはなんという名前なんですか?」
「それを聞くかい?まあいいか。それは、かつて天を覆った竜の王。それは地に伏せし原初の竜。原典でいえば、巨大な魚。名を『バハムート』『絶対皇龍バハムート』だ。」
「……成る程、ありがとうございます。それでは、おやすみなさい。」
「ああ、今日はもう夜が遅い。おやすみ。」
そう言って、僕は自室に戻りベッドに寝転んだ。
えー今回の話はイシスが家に帰ってくるお話でした。ちなみに、『バハムート』はまあアホほど物理耐性と魔法耐性もっててそれでいてアホみたいな火力で空に浮かびながらぶちかますとか言う化け物スペックをしております。(まあソロモンの奥の手で倒されたけど)
さて、この作品が面白いと思ったのならば、評価などもよろしくお願いします。




