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押し掛けギャルは殲滅者  作者: 青夜
《Thousand Schutzstaffel(サウザンド・シュッツシュタッフェル)》

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ファンクラブのお知らせ ⇒ 一方的(いつもそう)

 部屋に入ると榊常務が笑顔で俺を迎え、隣で冴姫が仏頂面で立っていた。


 「おはようございます!」

 「ああ、おはよう。もう騒ぎは知っているかな?」

 「なんですか、あれは!」

 「まあまあ。伊刈社長からのアイデアなんだ」

 「え?」

 

 俺はソファに座るように言われた。

 秘書(冴姫じゃない)の人がコーヒーを淹れてきてくれた。

 俺が頭を下げて礼を言うと、ニッコリと微笑んで離れて行った。


 「神楽坂君、君は非常に大きな功績を挙げたのだ」

 「そんなものはありませんよ!」

 「いや、パラオでは君の進言のお陰で、我社はほとんど独占的にパラオでの海底鉱床の採掘権を得たのだ」

 「それは伊刈社長や他の方々の御判断でしょう」

 「そうではない。あの時に我々は自分たちの身の安全のみを考えていた。あの状況で他のことに気を回す余裕は無かったのだ。しかし、君は違った。君だけがあの千載一遇の機会を見据えていた」

 「そんなんじゃないですよー!」


 本当に冗談じゃない!


 「君の進言で我々は初めて気付かされた。だからああして即座に行動出来たのだ。《トリポッド》が我々の連絡で即座に反応して自衛隊と《黒鬼》を派遣した。そうしてパラオの人々に日本、そして和田商事の名前が刻まれた」

 「私、関係ありませんよね?」

 「そんなことはない! まさしく神楽坂君の発言だったのだ。そして君のお蔭で和田商事は世界的な商社になることが決定付けられた!」


 なんか、何を言っても無駄なようだ。

 榊常務は俺が《特異点》だと知るごく僅かな人間の一人だ。

 だからこそ、あの時の俺の言葉を必要以上に重く考えているのだろう。

 そんなんじゃないのにー!


 「だが君はまだ新入社員であり、あの場での発言も具体的にパラオでの救助活動を提案したものではない」

 「その通りです! 私は何も関係ありません!」

 「だから伊刈社長や他の重役たちとも話したのだ。君に会社として特別な褒章を与えれば誤解を生じる可能性もあると」

 「誤解ですからぁ!」

 「でも、間違いなく神楽坂君の提案があったからこそなのだ。そこで褒章ではなく、自発的な社員の活動を認めることにした」

 「自発的?」

 「そうだ。神楽坂君、君は君の想像以上に君のことを気にしている社員が多いのだ」

 「はい?」

 「君と親しくなりたい、君のことをもっと知りたい、そうした社員の要望を正式に認め、君のファンクラブの結成を許可したのだ」

 「おかしいですよね、それ!」

 「まあ、我々もそれほどの数にはならないと思っていたよ。10人も集ればとね。そのメンバーたちとプライベートで楽しんでもらい、それなりの活動費は会社で出そうということになったのだ」

 「あのですね!」

 「しかしなぁ、実際に動いてみると予想外の応募があるようなんだよ」

 「あの、聞いてます?」

 「まいったなぁ。君の話を知った他の支店の人間も応募したいと言って来た。それだけじゃない、どこから聞きつけたか全くの外部からも応募の問い合わせがあるんだ。いやあ、驚いた」

 「私はもっとですよ!」


 榊常務は全然俺の話を聞いてくれなかった。

 一方的に話されるだけだった。

 この人、いつもそうだよなー。


 「恐らく現時点でも百人を超える規模になりそうだ。神楽坂君、人気者だね」

 「だから困りますってぇ!」

 「当然だが、女性だけではなく男性の会員も入会出来る。うちは男女平等だし、今はジェンダーに気を遣うべき時代だしね」

 「困るんですよ!」

 「具体的な活動方針は総務部の竹ノ塚課長がやってくれる。なかなか優秀な人間だよ。今度話してみるといい」

 「私は断固反対します!」

 「じゃあ業務もあるだろうからもう行って良い」


 そう言って榊常務は立ち上がり、自分のデスクへ戻った。

 仕方なく俺も部屋を辞した。

 冴姫がドアを開き、俺を送り出す。


 「おい、昼に話し合うかんな!」

 「うん」

 「覚悟しとけ」

 「!」


 冴姫もファンクラブの話は聞いていたようだが、予想以上に規模が大きくなったため戸惑っているのだろう。

 それに多分名目だけのものだったんじゃないだろうか。

 冴姫の口ぶりではそんな感じがした。

 それが本格的に誰かがファンクラブを創ろうとしているようなのだ。

 午前中は何も手に付かなかった。

 まあ、単純なデータ入力作業だったので何とかなったが。

 先輩方はいつものようにあちこちと連絡を取りしきりに調整をしている。

 全員が集中して仕事をしていた。

 いつも通りの光景だ。

 俺も気を取り直してデータ入力に集中しようとしたが、やはり無理だった。

 俺なんかがファンクラブなんて冗談じゃない。

 そもそも俺に何の功績も無いのだ。


 やっと昼になり冴姫と一緒に会社に近いワシントンホテルのレストランに向かった。

 イタリアンレストランだ。

 俺は魚介のタラコパスタを頼み、冴姫は渡り蟹のトマトクリームのパスタ、生ハムとルッコラピッツァを頼む。

 デザートはカボチャのタルトをそれぞれに。


 「宗ちゃん、どうすんの!」


 勢いよく食べながら冴姫が早速文句を言う。


 「そんなこと言ったってさ、榊常務、俺の話全然聞かないじゃん」

 「だから宗ちゃんはどうしたいのかって話! 宗ちゃんが嫌なら私が何とかするし!」

 「うーん、でもどうすんの?」

 「全員ぶっ飛ばす!」

 「おい!」


 本気でやりそうで怖い。

 逆に俺が冴姫に聞いてみた。


 「大体さ、ファンクラブって何すんの?」

 「あ?」

 「芸能人とかならさ、会費取ってファンと時々交流するとか、何か会員限定のグッズとかあるけどさ。普段は会えない芸能人だからファンも嬉しいよな?」

 「あー、うん」

 「俺の場合交流って別に会社の人とは時々飲みにも行くしさ」

 「そーだね」

 「うちって結構飲み会あるじゃん。大人数でやることも多いし」

 「うん」


 和田商事は酒飲みが多い。

 強要は無い代わりに、お酒が飲めない人も強くない人も気軽に参加できる気風がある。

 社員同士の仲が良いのだ。

 事前に計画される飲み会もあるし、突然に飲みに行こうという場合もある。

 掲示板に日時と場所を貼り出し、希望者を募ることもある。

 ファンクラブなど無くとも、俺を誘って飲み会を開けばそれでいいのではないか?

 休日にどこかへ出掛けるとかでも同じだ。

 大体俺なんかは会社でいつでも話し掛けられる。


 「これまでだって誘われたらあんまり断らないし、俺自身みんなと交流はしたいからね」

 「宗ちゃんってそうだよね」

 「な!」

 「うん!」


 そうなのだ。

 俺は会社の人たちとは誘われたら大体飲みに行くし、休日に遊びに行くこともある。

 まあ、忙しい人たちなので遊びに行ったのは一度きりだが、バーベキューに行った。

 反対に同期の連中とはみんなバラバラに忙しくて集まる機会はパラオが久し振りだったのだ。

 第一貿易部の先輩たちやその繋がりで他部署の方々とも飲みに行った。

 第一貿易部の方々は流石に人間関係の取り方が抜群で、社内でもいろいろな人たちと仲良くしているのだ。

 だから俺も見習って頑張っていろんな人と交流しているということだ。


 「ファンだなんて言われると逆に遠慮したくなるけど、普通に飲みに行こうとか遊びに行こうって誘われたら行くぜ?」

 「そういえば宗ちゃんって、そうだよなー」

 「な!」

 

 ということで、ファンクラブなんて何すんの?


 「とにかくさ、総務部の竹ノ塚課長に聞いてみようよ」

 「そういうことになるなー」


 冴姫はまだ不満そうだが、何とか説得出来たようだ。

 冴姫がまた「喰い」に戻る。

 

 会社に戻り、内線で総務部の竹ノ塚課長に終業後に会いたいと言うと、簡単に了承された。

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