アメリカの混乱
ペンタゴン作戦統合本部。
《オペレーション・リゲイン》の作戦を統括していた我々の司令本部は大混乱していた。
原子力潜水艦「アナポリス」からパラオへの核攻撃を始めるという通信が最後になり、それ以降は一切の状況が分からなくなっていた。
「第七艦隊からも通信が途絶えました!」
「監視衛星からの通信も遮断!」
衛星の通信が太陽風などの影響で一時的に通じなくなることはある。
しかし幾重にも保安装置がある監視衛星の遮断などはあり得ない。
破壊されたにしても、地上から監視衛星を攻撃する手段などどこの国も持ち得ていないのだ。
更に、その攻撃法もまるで分からない。
「何が起きた!」
「監視衛星の最後の映像です! アンノウンの空中戦艦が現われた模様!」
「空中戦艦だと!」
「はい、突然パラオの島の上空に出現! 第七艦隊は一切の抵抗をしませんでした! その直後に監視衛星からの通信も断絶! 現在の状況は不明です!」
私は本作戦の総括の立場にあり、まさに作戦発動の瞬間を見守っていた。
監視衛星からの情報では順調にパラオ沖に第七艦隊が到達したところまで把握している。
原潜3隻からの核攻撃の影響を受けない距離を保っていた。
第七艦隊からも常時通信が繋がっており、作戦発動の連絡までは届いていた。
それが突然に一切途絶えたのだ!
「グアムの空軍に連絡! 「ドラゴン・レディ」を発進させろ!」
「アイサー!」
高高度で偵察を行なえる「ドラゴン・レディ」を使わせた。
4時間後後、「ドラゴン・レディ」が持ち帰ったのは、一切が消えた海上だけだった。
第七艦隊はおろか、撃沈された様子も漂流物の欠片ですら発見出来なかった。
《オペレーション・リゲイン》は失敗したのだ。
しかも全く何が起きたのかすら分からない状況で。
混乱している間に我々はMP(軍警察)の集団によって即時拘束された。
その事態すらも全く理解出来なかったが、その後日本から正式な抗議声明があったことを知らされ、アメリカの真の支配者たちが動いたことを知った。
《ヴァーミリオン》まで派兵したことを日本は把握しており、そのことがこれから重大な国際問題に発展することが確実だった。
どうしてこうなった……
我々は絶対の勝利しか考えていなかったのに。
原子力潜水艦3隻からの同時核攻撃は誰にも回避出来ないはずだった。
その確信があったからこそ、パラオを奪還しようとする人間たちがこの作戦を発動したのだ。
最初から非人道的な侵攻作戦とは分かっていたが、一旦手に入れれば何とでもなる。
アメリカは絶対にレアアースとレアメタルの海底鉱床が必要だったのだ。
だからこそ、オーバーキルにもなる核攻撃を決断した。
更に日本からの奪還作戦を阻むために、《ヴァーミリオン》の一個中隊が派遣されたのだ。
それが悉く失敗した。
それに、大統領が作戦を許可し、何人もの軍の高官たちも同意していたはずが、失敗と同時に全員が捕らえられた。
それは大統領よりも上の人間たちが動いたことを示していた。
後日、《ヴァーミリオン》の司令部から正式な抗議があり、一個中隊を司令部の許可無く動かしたことが致命的な問題となった。
我々は恐らく軍法会議で極刑に処されるだろう。
我々に命じた者たちも同様だ。
大統領が加担し、その他もアメリカ有数の権力者たちであったからこそ、極秘部隊の《ヴァーミリオン》の一部を動かせたのだ。
だが、その上の人間たちが粛清に動いたようだった。
しかも非常に執拗に調査され、作戦に関わった人間たちを全員拘束したのだ。
作戦総司令官であった拘留中の私に、《ヴァーミリオン》の《聖女》が面会に来た。
私も機密に満ちた《聖女》に直接会うのは初めてだった。
だからこそ、自分の運命を悟った。
私は間もなく殺されるのだ。
「お前たちはとんでもないことをしでかしてくれたな」
「申し訳ありません」
「この作戦に関わった全ての人間を処断する。覚悟は出来ているな?」
「はい」
「一つだけ聞きたい。お前たちは本当にあの作戦が成功すると思っていたのか?」
「もちろんです。アメリカの国益のために私たちは立ち上がりました。絶対に負けるはずのない戦闘でした」
「お前たちは世界の真の状況を理解していない」
「はい?」
「もう軍事力とは《能力者》のことなのだ。《能力者》の優越が今後の国際状況を左右していく」
「それは……」
「日本の《能力者》は中でも桁違いだ。今回のことで私たちも思い知った」
「そうですか……」
《聖女》が一瞬微笑んだように見えた。
「だが光明はある。私はある日本人と友愛を結ぶことに成功した」
「その日本人は《能力者》なのですか?」
「そうではない。いや、そんなものではないと言った方がいいか」
「はい?」
「お前たちのせいで危うく日本と全面戦争になり、恐らくはアメリカは負けていただろうよ」
「そんな! あなた方がいるではありませんか!」
「我々もそれなりの能力はある。だが、恐らく日本の《能力者》は次元が違う。あの第七艦隊を一瞬で破片も残さずに消し去ることは、我々にも出来ない。監視衛星までも破壊されたのだろう」
「それは……」
《聖女》は私を見ていた。
「結果的にだがな、お前たちの無謀のお陰で納まるべき所へ納まることが出来た。まあ、全ては新たな友人のお陰だがな」
「その方は一体……」
「まだ私にも分からない。だが《ヴァーミリオン》の最高幹部の私が確信したのだ。今後は《ヴァーミリオン》は一切日本に敵対しない。そればかりか日本の、いや、友人の下に就くことになるだろう」
「そんな! あなた方はアメリカの!」
「その通りだ。アメリカのために我々もそうするのだ。多分中国の《虎部隊》とも協調する」
「え、《虎部隊》!」
《聖女》は私を見降ろしたままで言った。
「お前はバカな真似をした。だがその無謀が結実したのだ。だから最期に私がここに来た」
「……」
「怒りもあるが感謝する部分もある。それでいいな?」
「はい……」
「ではお前は永遠に沈黙する。御苦労だった」
「はい」
胸に一瞬痛みを感じ、すぐに思考が途絶えた。




