第七艦隊消滅
「《セイント》! 大変です!」
「どうした?」
マクラーレンが慌てて部屋に入って来た。
ノックもしないなど、初めてのことだった。
「パラオに向かっていた第七艦隊が全滅しました!」
「なんだと!」
第七艦隊がパラオに向かっているなど、私は何も聞いていない!
しかしどこかのアホウ共が手柄を先走って仕向けたことは一瞬で理解した。
「詳しく説明しろ!」
「はい! どうやらペンタゴン(※アメリカ国防総省)の一部の人間がNSA(※アメリカ国家安全保障局)の人間と協力して発動した作戦のようです。大統領も加担していましたが、我々には何も知らされませんでした」
「あいつら、何を勝手なことを!」
日本との交渉は私に一任されていたはずだった。
しかしアメリカも一枚岩とは言えず、常に内部で権力闘争が行なわれている。
それが最悪の形で表われてしまったのだ。
マクラーレンの報告によると、第七艦隊はパラオに強襲を仕掛け、駐屯している日本の自衛隊を全て排除するつもりだった。
しかも原潜からの核ミサイルの攻撃により、一切の抵抗も許さずに消滅させる戦略だったのだ。
その後海上の第七艦隊からも一斉攻撃し、力づくでパラオの海底鉱床を奪い取る作戦であったようだ。
その結果、日本は最初の核攻撃で全て終わるはずだった。
絶対に失敗するはずのない強襲作戦だったのだ。
また私の知らない所でその作戦には《ヴァーミリオン》も200人も加わっており、そのうちの12名は士官クラスの精鋭だった。
日本の《裏鬼》がいたとしても、原子力潜水艦からの核攻撃は回避出来るはずもなく、また《ヴァーミリオン》のその数に対応出来る他国の《能力者》は少ないはずだ。
日本は我々の強襲に抗議するだろうが、《ヴァーミリオン》と第七艦隊が駐留する場所への反撃は難しい。
《裏鬼》がどれだけいるのかは分からないが、本気で取り戻そうとすれば互いに大きな被害が出ることは間違いない。
恐らくそのタイミングで私は日本との交渉から外されていただろう。
《ヴァーミリオン》の所属する国防総省の機密部署がその作戦の失敗を知り、慌てて事態の収拾に奔走しているようだった。
《ヴァーミリオン》に関わる軍の高官は、大統領命令で動かされたと弁明しているようだが、《ヴァーミリオン》も組織内の腐敗があったのだ。
マクラーレンにも連絡が入り、今私に報告をしている。
今国内はとんでもない混乱状態で、絶対に成功する作戦が破綻し、日本との全面戦争も在り得る状態だ。
だが、そんなことは今はどうでもいい。
「全滅とはどういうことだ?」
「不明です。突然連絡が断たれ、全ての通信も沈黙したようです。衛星からの映像で、第七艦隊がパラオ近海に向けて航行中に突然消滅。監視していたその衛星も攻撃され、以降は一切何も分かりません」
「衛星の映像はどこまである?」
「パラオの海上に巨大な戦艦のようなものが……その直後に衛星は破壊されました」
「戦艦だと……」
パラオは常にアメリカの監視衛星で見張られていた。
日本にそんな巨大戦艦などは無かったはずだ。
もちろんパラオにも。
一体何が……
「《ヴァーミリオン》はどうなった?」
「分かりません。グアム基地から「ドラゴン・レディ(※超高高度偵察機:U2の愛称)」が飛びましたが、第七艦隊の消息は不明。全て撃沈されたようですが、海上には一切の漂流物はおろか、燃料の漏れ跡すらありませんでした」
「何があったのだ……いや、日本の《能力者》の仕業だな」
「考えにくいのですが、超絶的な《能力者》がいたとしか考えられません」
「第七艦隊に何の反撃も許さないほどのな」
「通信すらさせませんでした。あ、EMP攻撃(※電磁波攻撃)ですか!」
「それもあるだろうが、各艦には対EMPの準備があったはずだぞ。核戦争でも作戦行動を続けられる装備だったはずだ。しかも艦隊そのものを消滅させるほどの激甚な破壊力とはなんだ!」
「申し訳ありません。全くの想定外です」
「それに士官クラスの《ヴァーミリオン》がいたのだろう! あいつらは核兵器にも対応出来る《能力者》だったはずだぞ!」
「それも不明です。現状では全く何もかもが分かりません」
「そうだな……」
私もマクラーレンと同じだ。
幹部士官の私はICBM(※大陸間弾道ミサイル)を含めたあらゆる攻撃に対応出来る。
士官クラスの《ヴァーミリオン》はそれに準ずる能力を持っていたはずなのだ。
それがどのような攻撃かは不明だが、何の抵抗も出来ずに瞬時にやられた。
我々は日本の《能力者》を甘く考えていた。
それに日本はもうアメリカの第七艦隊による強襲は理解しているはずだ。
これは明らかに重大な国際問題に発展する。
バカ共のせいで、私が出向いて築いた交渉の全てが崩壊したのだ。
「ファック! この私は何のために日本へ来たのだ!」
「お怒りは御尤もです。折角が《裏鬼》との直接交渉まで漕ぎ着けたのに、あいつら何てことを」
マクラーレンも怒っている。
私の交渉は上手く行っていたのだ。
それを台無しにしやがった。
「とにかくレンジョウと話し合おう。第七艦隊のことはアメリカの一部のバカがやったことだと話さねばならん」
「会ってもらえるでしょうか?」
「絶対にだ! これはパラオとミナミトリシマの海底鉱床だけのことではない。全面戦争にもなりかねない非常事態だぞ!」
「分かりました!」
マクラーレンがレンジョウとの秘密回線に連絡し、とにかく一度会談の場を設けて欲しいと必死に頼んだ。
しかしレンジョウは当然だが今は交渉は中断したいと言っていた。
仕方なく私は本国へ戻り仕切り直すことにした。
第七艦隊の強襲が外交問題でどのように処理されるのか、そして改めて日本と交渉するにはアメリカは相当な譲歩をしなければならないだろう。
それでも何が何でもレアアースとレアメタルの供給は必要なのだ。
まあ、その前に日本との全面戦争を回避しなければならないのだが。
本国でももう対応が検討されているだろうが、私も至急帰国した方がいいだろう。
その時、私のスマホが鳴った。
見ると相手は、あのソウザ・カグラザカだった。
この局面で一体なんだ!
私は仕方なく電話に出た。
驚くべき提案だった。
カグラザカは私に食事の招待を申し込み、しかも《虎部隊》の人間が同席すると言っていた。
あまりにも事態が混乱している。
アメリカの危機的状況の中で、今度は《虎部隊》だ。
一体何が起こっているというのか……
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ブレッツさんに連絡し、虎蘭さんと一緒に食事会に招くと大層驚かれた。
「《虎部隊》の人間とか!」
「その部隊は知りませんが、虎蘭林さんというお綺麗な女性です」
「良いのですか、私などが同席しても!」
「はい、虎蘭さんにも許可は取りますが、先にブレッツさんの御意向を確認しておこうかと」
「是非お願いする!」
「そうですか。ではまた連絡しますね?」
「待っている! 日時はいつでも良い! ああ、それから本当にありがとう!」
「いいえ、とんでもない?」
なんかブレッツさんはやけに前のめりだった。
なんだろ?
虎蘭さんの方は全く問題も驚きもなく、快く引き受けてくれた。
「ソウザさんの手料理ですか!」
「ええ、拙い腕前ですが、宜しければ。それと最近知り合ったアメリカ人のナオミ・ブレッツさんという方と一緒なのですが」
「構いません。楽しみにしておりますね!」
「はい!」
ブレッツさんとは対照的に、なんか全然緊張感が無い。
周一郎兄貴に連絡すると、最高の食材を手配してくれた。
さあ、がんばるぞー!




