連城十三
家に戻り、宗ちゃんに連城さんと会う話をした。
「え、あの時パラオの空港で会った自衛隊の人?」
「そう。あの時は教えられなかったけど《裏鬼》という自衛隊の中でも機密部隊の人」
「そうだったのか。だから真っ先にパラオに来てくれたんだね」
「うん。まだ敵勢力が来る可能性もあったし、私は宗ちゃんの傍を離れられなかったから」
「じゃあ、随分と強い人たちなんだね?」
「そうね。《能力者》ほどじゃないけど、相当に強い。戦場で10倍の規模の敵を相手に戦える猛者たちよ。だから海外では《裏鬼》が日本の《能力者》だと考えている人間も多い。もちろんそう思わせているということだけどね」
「なるほど!」
宗ちゃんは呑み込みが早い。
自分の想像外のことでも、宗ちゃんは難なく受け入れてしまう。
元々頭が悪い人ではないのだが、何でも受け入れてしまう早さはちょっと普通の人間ではない。
二か月以上宗ちゃんの傍にいて、それが《特異点》ということなのかもしれないと考えるようになった。
普通の人間ならばショックを受けて寝込むような状況でも、宗ちゃんは驚きこそすれそのまま受け入れてしまう。
前に来栖のバカが宗ちゃんの目の前で人間を切り刻んでも、宗ちゃんは大丈夫だった。
パラオでの惨状も、他の社員が動揺している中で、宗ちゃんは元気づけようとすらしていた。
でもそれは感覚が鈍いのではない。
宗ちゃんの優しさが巨大なのだ。
だからみんなが宗ちゃんを大好きになる。
私んだぞー。
「いつ来るの?」
「宗ちゃんの都合でいいよ」
「俺の都合って何にもないよー。あ、じゃあ今晩一緒に夕飯を食べるとか」
「いいの?」
あっさりと今日でいいと言う宗ちゃんにこっちが驚いた。
初めて会う人、それも精鋭の軍人に会うことに躊躇が無い。
「もちろんだよ! あ、連城さんの都合もあるだろうなー」
「アハハハハハ、そんなこと無いよ。きっと大喜びで来るって」
「そっか! じゃあ、お呼びしてよ。えーと、今日はシチューと鶏の香草焼きだ。あ、冴姫は一人前になるからね」
「おけー」
「足りなければ何か作るし」
「うん!」
宗ちゃんが夕飯の支度を始め、私は連城さんに連絡した。
もちろん喜んで来ると言っていた。
「でも夕食をご一緒にでよろしいのですか?」
「ええ、なんだか宗ちゃんも嬉しそうで」
「そうですか、それは有難い」
「では5時にお待ちしてます」
「はい宜しくお願いします」
宗ちゃんに連城さんが来ることを伝えると宗ちゃんが喜んだ。
「あ、夕飯が5時って早くないかな?」
「気にすんなし」
妙な所に引っ掛かる宗ちゃんだった。
普通は見も知らぬ軍人に会うことを心配するだろうに。
でもそれは、宗ちゃんがもう連城さんを受け入れているという証拠だと思った。
だから私は連城さんたち《裏鬼》について宗ちゃんに話した。
「多くの軍人は上からの命令で動くの」
「そうだろうね」
「うん。命の危険のある仕事だからね。命令で動く集団にならないと、軍隊として機能しないの。でもね、《裏鬼》の人たちは自分で最適な行動が出来るの。だから世界最強の軍隊なの」
「そうなんだ……」
よく理解したわけではないだろうが、凄まじい人たちだとは分かったようだった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
5時丁度に連城さんが来た。
黒の革のスーツで間違いなく特注だ。
というのも連城さんの身体が途轍もなく大きいからだ。
身長2メートル以上で、身体を覆う筋肉が尋常ではない。
仁桜姉も同じ感じだが、連城さんの方がもう少しゴツい。
しかしスーツは余裕があり、身体の動きを妨げないようになっている。
シャツは真っ白で、黒いドミニク・フランスの渋いネクタイを巻いていた。
カフスは大粒のダイヤモンドでキラキラしている。
そして嵌めている時計はロジェ・デュブイの「ドラゴン」だった!
世界限定28本の希少なもので、お値段は確か3千万円以上だ!
時計が好きなので憧れをもって覚えている。
身体は物凄いのだが、顔が非常に柔和だ。
短く刈り込んだ頭髪は、前だけ少し長めでそれを上に上げている。
眉が濃く太く精悍なのだが、瞳が綺麗でキラキラしてる。
雰囲気は恐ろしく強い人間のそれだが、俺を見る目が本当に優しい。
「あらためまして、連城十三です」
「は、はい! 神楽坂宗三です!」
連城さんはにこやかに握手しながら挨拶し、土産の明治屋のフルーツセットを渡して下さった。
部屋に案内しながら時計のことを聞くと嬉しそうに話してくれた。
「こんな自分など何の価値もないのですが、これは一目で気に入って」
「そんな、お似合いですよ!」
「そうですか。ありがとうございます」
丁寧だが物静かで優しい口調の人だった。
テーブルに座ってもらい、少しお話しした。
「今日はわざわざお時間を頂き、ありがとうございます」
「とんでもない。パラオではお世話になりました。ろくにお礼も言えずにすみませんでした」
「いいえ、自分たちの仕事ですから」
「あの、今更ですが連城さんのような方に手料理など、思い上がってました」
「アハハハハハハ! 宗三さんの手料理ならばどんな料理人のものよりも価値があります。御馳走になります」
「はい!」
本当に優しく、そして明るい人だ。
この人が世界最強の兵士だなんて、と思うがスゴイ肉体を見れば分かるが。
でもクリストフルのカトラリーを操る仕草は優雅だ。
そう言えば冴姫もそうだった。
見た目はギャルで言葉遣いもちょっと荒いが、食事は綺麗な仕草だ。
「この香草焼きは美味しいですね」
「ありがとうございます。これ、姉貴も好きなんですよ」
「え、仁桜さんが!」
姉貴のことも連城さんは知っているらしい。
まあ、姉貴は傭兵業界の有名人だから当然か。
「何度か《仁王会》とは一緒に戦いました。仁桜さんの凄まじい戦闘も間近に観ています」
「そうなんですか!」
「それにあの方は非常に部下思いだ。どんな戦場でも一人の怪我人すらない。私の理想の指揮官です」
「姉貴は昔から優しいですよ。俺も可愛がってもらいました」
「そうでしょうね。あの方は宗三さんのために《仁王会》を立ち上げたんです。宗三さんを世界中のどんな敵からも守るために」
「はい」
冴姫は口を挟まず、俺と連城さんとで話していた。
俺たちは楽しく話した。
「連城さん、それじゃ足りないでしょう。何か作りますよ」
「いえ、結構です。本当に美味しかった。ありがとうございます」
「じゃあ、ちょっと飲みませんか?」
「え?」
「いいじゃないですか。まだ連城さんとはお話ししたいんです」
「本当ですか。宜しいですか?」
連城さんは冴姫を見て聞いた。
「宗ちゃんが言ってるし。もうちょっといなし」
「はい!」
連城さんが嬉しそうに笑った。
俺はお酒の好みを聞くと、久し振りに日本酒が飲みたいと言った。
俺は菊理媛を開け、刺身の柵を切り、豆腐をカットして大葉を巻いた。
連城さんは菊理媛に喜び、大好きな酒だと言ってくれた。
周一郎兄貴も好きなので、いつも置いているものだ。
冴姫も連城さんのことを信頼しているのが分かった。
そういうのは俺は何となく感じるのだ。
俺との会話を優先しているが、冴姫が連城さんを見る目で分かる。
前からの知り合いのようだが、きっと戦場でのことだろうと思った。
だから連城さんは冷酷無比な人間ではないのだ。
冴姫は敵に容赦が無いのは知っているが、敵ではない人間には優しいことを知ってる。
だから連城さんを気に入っているということは、連城さんもそうなのだ。
俺は連城さんのグラスに酒を注いで乾杯した。




