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押し掛けギャルは殲滅者  作者: 青夜
Resonance : 響き合う者たち

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諜報戦

 「お疲れさまでした《セイント》」

 「存外疲れたものだな。お前もご苦労だった、マクラーレン」


 新宿の京王プラザに戻っている。

 CIAが保有しているセイフハウスの一つで、表向きは京王プラザに宿泊しているように見せかけている。

 しかし宿泊者名簿を見ても何も出てこない。

 

 「しかし、暗にですが《セイント》の名を出しても良かったのですか?」

 「構わない。むしろアメリカが本気であることを日本政府には示す必要があった。政府と言うよりも日本の本体だがな。アメリカは今後絶対にレアアースとレアメタルの供給先を確保しなければならない。国内でも多少は掘り出せるが、需要が今後高まって行くことは目に見えている。我々は日本からの供給ルートを確保する必要がある」

 「はい」

 「やはり予想通りにワダ・トレイディング・カンパニーは日本の本体と繋がっていた。《セイント》の名を出したからこそ、奴らもすんなり姿を見せたのだ。必要だったのだよ」

 「そうですね。《Dark Demon(裏鬼)》が目の前にいて緊張しましたよ」

 「あいつらも極秘部隊だからな。滅多に姿を現わさん」


 シルヴェスター・マクラーレンは《ヴァーミリオン》の士官だ。

 今回は私の補佐として一緒に付いて来た。

 情報分析に優れた才能があり、もちろん戦闘力も高い。


 「《ヴァーミリオン》とだけ知らせては不足だったと?」

 「その通りだ。最高幹部自らが交渉に来たと分からせることが重要だったのだ。アメリカの本気を伝えるためにな」

 「なるほど」

 「だが正式に申し出れば相手に足元も見られる。だから間接的に相手に伝える必要があった。カグラザカは丁度良いマスキングになった」

 「そうですね。しかし《虎部隊》のことは信じるでしょうか?」

 「どうでも良い。奴らに考えさせればいいのだ。どうせ《虎部隊》のことは誰にも掴めない。情報の確度は分からんよ」

 「なるほど」


 レンジョウとの会談では《ヴァーミリオン》と名乗りこそすれ、自分が《セイント》であることは名乗らなかった。

 あくまでもナオミ・ブレッツという名前で臨んだのだ。

 しかしカグラザカの前でマクラーレンに《セイント》と自分を呼ばせたことで、恐らく盗聴していた人間たちが気付くに違いない。

 但し、《セイント》と正式に名乗っていない限りは渡した「資料」についてのクレームはどうとでもなる。

 あの「資料」の意図は、日本を混乱させることにある。

 日本が本当に信用して《虎部隊》と敵対すれば最高だし、少なくとも《虎部隊》に対して警戒心を抱けば良いのだ。

 《虎部隊》が日本を狙っているというのは大嘘だ。

 そんな情報は我々も掴んではいない。

 そもそも《虎部隊》の動向はどこの国でも掴めない。

 だから「資料」の信憑性は誰にも確認出来ないのだ。

 

 マクラーレンはコーヒーの用意をし、ルームサービスで何かを頼むと言った。

 私は鉄火巻き3人前とビーフシチューを頼めと伝えた。

 どうも先日カグラザカと一緒に銀座で寿司を食べてから、無性に寿司が喰いたくなった。

 でも肉も喰いたいから、こんな注文になってしまう。

 マクラーレンが笑っていた。


 「最近、スシは外さないんですね」

 「うるさい」


 この特別な部屋からの注文とあり、料理はすぐに運ばれて来た。

 マクラーレンは私に合わせてビーフシチューとサンドイッチを注文していた。

 二人とも量は多い。

 二人で食べながら話した。


 「それにしても《セイント》は随分とソウザ・カグラザカを気に入られましたね」

 「まあな。何がというわけでもないのだが、気持ちの良い青年だ。それになかなか頭の回転も良い」

 「でも明らかに一般人に見えましたが」

 「それは間違いない。ただ、シンジュクのデパートで一緒にいた女は普通じゃない」

 「そうですか。自分は見ていないので何とも言えませんが」

 「偶然だったからな。もちろん私も女の実力を完全に推し量ったわけでもない。ただ、攻撃に躊躇が無いことは分かった。カグラザカのような人間の傍にいるとしては少々おかしい」

 「そういうものですか。でももうカグラザカとも会うことはないでしょう」

 「そう思うか?」

 「はい?」


 私が笑いかけるとマクラーレンは渋い顔をした。


 「お前はまだ物事の流れを感じ取る力が甘いな」

 「そういうものですか」

 「そうだ。日本人は「縁」という概念でそれを捉えるが、人と人の結びつきは一つの世界線の繋がりなのだ」

 「はい」

 「私は特別な人間だ。その私と繋がり、私が好意的に思える人間が凡庸な連中だとお前は思うか」

 「それこそ自分のような凡人には分かりませんが、《セイント》の感覚は信用しております」

 「ティム・インゴルドを読め」

 「はい」


 私はカグラザカと歩いた銀座のことを思い出した。

 《ヴァーミリオン》がニオウを襲い撃退されたあの場所。

 第二線の連中だったが、決して弱いわけではない。

 どのような兵士を相手にしようと敗退することはあり得ない。

 ニオウが誰と一緒にいたのかは不明だが、戦っていたのは三人だということは分かっている。

 ニオウと右腕の副官センドウ、そして後から来たもう一人。

 三人目がニオウと並ぶ途轍もない戦闘力であったことは分かっている。

 しかも観測員までもが途中で殺されてしまった。

 日本には相当手練れの諜報崩しの用意があるようだ。


 「銀座で狙撃された時、カグラザカが私を守ろうとしたな」

 「はい、驚きました。まるで戦闘などには不向きの人間であったはずなのに」

 「そうだな。特段勇気のある者でも無い。あれはもっと違う方面の思考だ」

 「それは?」

 

 私は大笑いした。


 「他人に対するバカみたいな親切心だよ。カグラザカのような人間は世界中でも滅多にいない。自分のことよりも常に他人が優先されるという思考だ。この私にして一瞬驚いてしまった」

 「ハハハハ、それは相当ですね」

 「あの状況で躊躇なく他人の楯になろうとする人間はいない。普通は恐怖で動けなくなる。まあ、それ以前に何が起きているのかも判断出来ないだろうな」

 「でもカグラザカは理解していたと?」

 「そうだ。私が避けて地面が弾けたのを見た瞬間に、狙撃され危険な状態だと分かったようだ。そしてそのまま私の前に立ち、私を守ろうとした」

 「お人よしにも程がありますが」

 「その通りだ。無意味に死んでいくことを惜しまない人間だ」

 「まあ、人間としては素晴らしい資質ですが、戦場では早死にしますね」

 「そうだな」


 二人で笑った。

 ホテルのそれなりの寿司のはずだが、カグラザカと銀座で食べたものとは雲泥の差だ。

 あの美味さを思い出すためだけのものだった。


 「だが私は気に入ったぞ」

 「それは《セイント》の能力の上でことですか?」

 「まだ分からない。私の能力も自由にはならないものだからな」

 「それでも感じていらっしゃるんですね」

 「その通りだ。少なくとも私がこれだけ興味を抱く人間は少ない。今日会ったジュウゾウ・レンジョウは間違いなく日本の中枢に近い場所にいる男だ。恐らくは日本の《能力者》の一人ではないかと思う」

 「私も同意です。本当に途轍もない戦闘力を有していることが感じられました」

 「カグラザカは一般人だが、なかなかどうして面白い。今後も付き合っていきたいと思わせるものがあるな」

 「分かりました。《セイント》の力に感応した者として、カグラザカとも接触を続けましょう」

 「そうしてくれ。何か進展があるやも知れん」

 「アイサー!」


 本題に戻った。


 「ところで狙撃して来た者はどうしている?」


 スナイパーは裏社会で暗殺を生業とする人間だった。

 CIAが金で雇い、自分を銀座で狙撃させるように命じた。


 「注意深く枝の付かないように移動し、今は麻布のセイフハウスの中にいます。そう時間を置かずにステーツに返すつもりですが」

 「気を付けろ。ニオウを襲撃した際にも在り得ない観測員の消去を行なって来た連中だ。もしかするともう掴んでいる可能性もある」

 「元マリーン上がりの傭兵です。万一補足されてもこちらに繋がる糸はありません」

 「だから慢心するな。日本はとんでもない対諜報戦が出来るし、あのレンジョウも決して甘い人間ではない。傭兵が捕らえられそうになった場合は即座に始末しろ」

 「アイサー!」





 事態は予想外の展開をすることになった。

 それにカグラザカが関わっていたことに、二人で驚いた。

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