錯綜する状況
宗ちゃんが隣で見たことも無い顔をして困ってる。
それにしても、また宗ちゃんの「あの力」か。
恐らく《聖女》を日本へ引き寄せたことからして、宗ちゃんの力だ。
南鳥島沖の海底鉱床の発見の後で、パラオ沖にも海底鉱床が見つかった。
そしてパラオであの戦闘が起きた。
アメリカのCIAのケースオフィサーのスノーマンがパラミリを派遣しており、最初から恐らく何らかの破壊工作を企んでいた。
CIAの子飼いのパラミリは、これまでにも何度も破壊工作を各地で行なって来たからだ。
他の国の諜報機関もいて互いに牽制し合って一応の均衡を保っていたが、あのままではCIAのパラミリが行動を起こしていた可能性は高い。
あいつらは「仁王会」がいたせいで作戦行動を取らなかったのだろうが、和田商事の社員旅行と入れ違いに「仁王会」がいなくなったことで最大戦力になったと思い上がったのだろう。
CIAのスノーマンはやり手のケースオフィサーだ。
非常に知能が高く、彼の立案する作戦は度々世界情勢に大きな変化をもたらして来た。
今回もパラオの海底鉱床を巡って各国の諜報機関が集まる中で、思いも寄らない作戦行動を展開していたのではないだろうか。
一応CIAには事前に和田商事が社員旅行で入国したことは伝えていた。
完全にバカンスであり、パラオの海底鉱床への関与ではないのだと承知させていたのだが。
CAIの目算が外れたのは、ロシアが突然を投入して来たことだ。
本当に想定外のことで、まさかあのタイミングでロシアが一気にパラオの占領を始めるとは誰も想定していたかった。
CIAのスノーマンが、即座に《ボルーチ・バロータ》へ日本の《能力者》がいることを密告する形でパラミリたちの脱出の時間を稼ごうとした。
同時に海底鉱床の奪い合いに関わるであろう和田商事の社員全員を始末しようとしたのだろう。
あの野郎はあたしたちをエサにしたのだ。
しかしまたその目論見が外れた。
それに《ボルーチ・バロータ》はスノーマンのディス・インフォメーションに左右されずにCIAのパラミリたちを襲い始めた。
むしろ、全ての人間を殺すつもりで行動を始めたのだ。
そして《ボルーチ・バロータ》にとっての誤算は、本当にあたしやココロちゃんたちがそこにいたことだ。
伊刈社長がココロちゃんから情報を得て、即座に《トリポッド》に連絡し、事態は急激に動いた。
《ボルーチ・バロータ》は確実な敵であるCIAのパラミリたちを殲滅させた後でパラオ政府の人間を襲撃して行った。
その合間に手当たり次第に町の人間を襲い、パラオは大惨事に陥った。
あたしが宗ちゃんを守るために出撃し、《ボルーチ・バロータ》を殲滅したが、結果パラオの街は大破。
生き残ったパラオの人を日本が逸早く救援し、日本政府がパラオの治安維持の名目で外国人の入国を禁じた。
もちろんパラオ市民の総意を得てのことだ。
結果的に日本がパラオの実質支配をすることとなり、その流れで海底鉱床の独占採掘権を得た。
国際社会は当然反発したが、パラオ人の意向で日本は確固とした立場を得たのだ。
それらのことを極短期間で終えたのは《トリポッド》の力だが。
パラオの国防を担っていたはずのアメリカの反発が最も大きかったが、事態がそこまで至っては取り返しが付かなかった。
すぐに強大な軍事力を有する各国の代表者が名を連ねる《賢人会議》が開かれ、日本のパラオ独占が決まった。
《賢人会議》は表向きの国連などの国際機関、会合とは別次元の、実質的な現代の強国同士の調整機関だ。
既にパラオに那智を派遣し、第七艦隊を撃退したことでアメリカも他の国も納得せざるを得なかったのだ。
無理にパラオに侵攻すれば日本の桁外れの《能力者》との戦闘になると分かったためだ。
《賢人会議》で日本は中国が独占していたレアアースとレアメタルの国際的な安定供給に尽力すると約束した。
だからアメリカは日本に接近し始めたのだ。
今回の「スターズ」が日本へ来たのも、アメリカの本気を示す目論見があったのだろう。
つまり、場合によっては全面戦争をも辞さないというアメリカの決意だ。
しかも「スターズ」の中でもネームドの《聖女》を派遣してきた。
《聖女》の能力は全くの未知数だが、実力者揃いの「スターズ」の中にあって最高峰の人物の一人だと言われている。
本来は存在を秘匿するために顔も隠されるはずが、堂々と乗り込んで来た。
それも日本にアメリカの並々ならぬ決意を示す更なる材料となる。
もちろん日本の《トリポッド》もそうした意向を汲んでいた。
アメリカは表向きは和田商事への直接交渉という立場で接近していたが、ここまで来れば和田商事を通して《トリポッド》と話し合いたいという意向は明白だった。
和田商事が《トリポッド》と繋がっているという予想は、南鳥島沖とパラオの海底鉱床の採掘とに和田商事が両方とも関わっていたために確信しているだろう。
それにパラオでの襲撃事件の際に和田商事の本社の人間がそこにおり、尚且つ救助活動に尽力していたことからも予想出来るだろう。
更に、《ボルーチ・バロータ》を殲滅したのも日本の《能力者》であることは確実であり、日本がパラオに対して先んじて乗り込んでいたという結論に至ったことは間違いない。
実を言えば全くの偶然なのだが、アメリカは絶対にそうは考えないだろう。
しかしパラオに日本の《能力者》がいたことを不思議に思っていたことも間違いない。
CIAの敏腕のケースオフィサーであるスノーマンは、和田商事の社員たちについて何重にもチェックしたはずだ。
日本有数の商社ではあるが、《能力者》が同行するとは到底考えられないだろう。
つまり、最初からパラオ征服のために全てが偽装されていたのだと結論付けた。
それは間違いなのだが、本質的にはその通りであることが重要だ。
要は「宗ちゃん」の存在だ。
宗ちゃんが全ての事象を引き寄せて回転させたのだ。
アメリカも《ボルーチ・バロータ》の急襲までは偶然と思っていただろうが、それさえも宗ちゃんの引き寄せたことなのだろう。
あそこで大規模な襲撃に対する迎撃があったからこそ、日本がパラオの海底鉱床を独占する流れになったのだ。
しかも宗ちゃんは伊刈社長に「海底鉱床はどうなるのか」と進言めいた発言をした。
そのことで伊刈社長は20名の社員をパラオに残し、和田商事が直接救援活動に関わるように指示した。
もちろん残った社員たちは救援活動をしながらも「和田商事」の名前を各所に浸透させ、和田商事はパラオの海底鉱床採掘における最優先の権益を得ることになったのだ。
やっぱり宗ちゃんの影響力は凄い。
そして《聖女》がついに正体を明かし、本格的に日本に接近して来た。
それも間違いなく宗ちゃんの能力だろう。
宗ちゃんの前で《セイント》というコードネームをわざと漏らし、宗ちゃんから《トリポッド》にその情報が伝わるようた演技した。
流石に《聖女》も宗ちゃんが《特異点》であることは想像外だろうが。
まさか日本の最重要人物を《ヴァーミリオン》と目されているに違いない自分の傍に置くとは考えるはずがない。
これから《トリポッド》は《聖女》と二カ所の海底鉱床についての話し合いを持つ。
私の手から問題は離れたと思っていた。
宗ちゃんの護衛である私は、《聖女》が直接交渉に乗り出したことでいつも通りに戻るはずだった。
しかしそうはならなかった。
《聖女》が、思いもしなかった言葉を口にしたのだ。
やっぱり《ヴァーミリオン》は一筋縄では行かない相手だった。
「ところで、ワダ・トレイディング・カンパニーのカグラザカという青年を大変気に入りました。彼は「特別な」人間と感じました」
《聖女》は笑顔でそう言ったそうだ。




