銀座の視察
ブレッツさんには「影野志信」という同僚と一緒に行動すると伝え、メインの案内は俺の担当ということになった。
ココロちゃんは補佐というか、俺の護衛なのでただ一緒にいるだけとのことだった。
そして金曜日。
俺は和田商事の1階のロビーでブレッツさんたちをお待ちしていた。
時間通りにタクシーでブレッツさんたちがいらっしゃる。
「ハイ、カグラザカ!」
「ブレッツさん、こんにちは。今日はよろしくお願いします」
先輩社員から外国人の接待では必要以上にへりくだるなと言われたいた。
俺は入社3ヶ月の新入社員だが、堂々と話せと。
もちろん段取りも先輩たちが手伝ってくれた。
「こちらこそ。私の護衛を紹介するわ。スレイマンよ。ロックハートのスペシャル・サービスの人間」
「よろしく、スレイマンさん」
「よろしく」
スレイマンさんは190センチの高身長で、細見の体形だった。
しかし筋肉が極限まで引き絞られているのが服の上からも覗える。
何しろ歩いたりの動作が普通じゃない。
俺は戦闘のことなどはまるで分からないが、尋常じゃない雰囲気をそれでも感じた。
多分の精鋭なのだろう。
ココロちゃんが玄関に車を回して来た。
ベンツのマイバッハ〈Mercedes-Maybach S 680 V12 Edition〉だ。
ココロちゃんが小柄なため、マイバッハの大きなシートは目いっぱいに前に出してある。
ココロちゃんが降りて挨拶した。
黒のパンツスーツ姿だ。
「広報部の影野志信です。今日は皆さまをご案内するのです」
「……」
なんかヘンな挨拶だが、外国人にはさほど響かないだろうか。
「よろしく、ミス・カゲノ。あなたも可愛らしい日本人ね」
「ありがとうございますなの」
全員で名刺交換をし、俺も初めてブレッツさんの肩書を見た。
「ロックハート貿易」の資源開発部長ということだった。
スレイマンさんの名刺は無い。
俺は第一貿易部というだけで肩書は無く、ココロちゃんのものは広報部課長補佐だった。
こいつ、俺より上司なのかよ!
俺がドアを開き、ブレッツさん、スレイマンさんを後ろのシートに入れた。
流石にマイバッハの内装は豪華だ。
大柄なブレッツさんたちを余裕をもって座って頂ける。
俺は助手席に回り、ココロちゃんが発進させた。
12気筒エンジンなのに異常に静かに走り始め、内心で驚いていた。
さすがはマイバッハだ。
そしてココロちゃんの運転も上手い。
「まずは銀座にご案内します。今日は和光、シャネルとブルガリ、ダンヒル、それに銀座松屋、銀座三越に行こうと思います。何かご希望はありますか?」
「街を歩いてみたいのだけれど」
「分かりました。全て中央通りにありますので歩いて移動しましょう。その他はブレッツさんのご希望通りに」
「それで結構です」
一応、日本で最高の商業地区である銀座を視察したいというのがブレッツさんの希望だった。
ココロちゃんは4丁目交差点で俺たちを降ろし、車を駐車場に入れに行った。
平日の午前中だが銀座は常に人が多い。
「この少し先で、先月事件があったのですよね?」
「ご存じでしたか。テロリストが新宿方面から来て、ある有名ブランドのビルで暴れたようです。死者まで出て大変な騒ぎになりました」
「そうですか。日本は平和だと聞いていたのですが」
「平和ですよ。あのような大事件は、だからみんなが驚いています」
早速の話題の振られ方に内心驚いていた。
俺なんかに聞かれても答えられない。
まあ、実は超当事者なのだが、ブレッツさんが知るわけもない。
あの時襲って来た《ヴァーミリオン》は全て死んでいる。
あの後で徹底的に遺体を調べたが、通信機器は見つからなかった。
もちろん、誰一人としてアメリカと繋がった証拠は持っていなかった。
まあ、「ビームソード」を《ヴァーミリオン》が使うことは世界中の軍に関わる人間は知っていたが、アメリカが認めるはずもなかった。
もしかしたらあの他に観測員がいた可能性はあるが、俺は金属の覆いを掛けられ顔を見られてはいないはずだった。
もちろん新宿駅での拉致やその後の移送などで誰かに見られている可能性はあるのだが。
「カグラザカはあの事件をどう思った?」
「怖いですよ! こんな都会の真ん中で銃撃戦でしょ? しかもテロ組織だなんて、もう怖くて仕方ないです!」
「なるほど、アハハハハハハ!」
笑うとこかと思ったが、何も言わなかった。
俺は和光を案内し、そのうちにココロちゃんも合流した。
ブレッツさんは店内の様子を見て回り、流ちょうな日本語で店員にも話し掛けた。
和光の店員はみんな丁寧な応対をする。
ブレッツさんが高級そうなスーツを着ているので益々だ。
今日も黒のパンツスーツ姿だが、生地はシルク混の麻だ。
ヒールは黒のクロコダイルの一目で高級品と分かるものだった。
左腕の時計はピアジェのものか、メレダイヤの散りばめられた超高級品だと分かる。
最初に高級時計のフロアを一通り周り、宝飾なども覗いて行く。
「なるほど、日本人の好みがよく分かったわ」
「そうですか」
何を感じたのかは分からないが、ブレッツさんは満足げに微笑んだ。
そのまま歩いてシャネルのビル、ダンヒル、向かいのブルガリの順に入った。
正午を過ぎ、13時に近くなった。
「ブレッツさん、そろそろランチにしませんか?」
「オー! すみません、夢中になっていました。そうですね、どこかで食べましょう」
「近くに寿司屋がありますが如何ですか?」
「それは嬉しいです。是非ご案内下さい」
俺は電話をし、予定通りにお店に入ると告げた。
はー、ここまでは何とか順調かー。
ガンバルぞー。




