対《聖女》対策
私の話を聞いて、周一郎さんは珍しく黙っていた。
いつもは即座に指示を出す方なのだが。
それだけ繊細な判断を要する問題なのだろう。
それはもちろんそうだ。
日本の《特異点》である宗ちゃんに《聖女》が眼を付けたのだから。
何の確証も無い判断だったが、問題は宗ちゃんが《聖女》と感じたということだ。
そのことで周一郎さんは考えていた。
また「宗ちゃんが言った」のだ。
周一郎さんがやっと口を開いた。
「重要なのは宗三が何かを感じたということだ。冴姫、あいつの最近の様子についてどう考える?」
「はい。《特異点》としての能力が活性化して来ていると思います」
「やはりそうか。私も様々な事象を鑑みて同じ結論だ。「関東旧車會」を引き寄せたことから宗三の《特異点》としての能力は急激に拡大して行った」
「「関東旧車會」の件は、最初は私の判断でした。平然と人を殺す奴だと感じ、即座に処理しました」
「確かにそういう人間だったことは後からの調査でも分かっている。冴姫の判断は正しい。だが、その事象を引き寄せたのは宗三だったということだ」
「そういうことですね」
あの事件で宗ちゃんの能力を全員が感じたのだ。
日本にとって危険な反社組織であった「関東旧車會」を壊滅させる流れへとなったことだ。
「パラオの件ではもう歴然だ。和田商事があの時期に旅行に行ったことすらもが宗三の能力だ」
「数年前から発動していたということですか?」
「そういうことになるが、私は冴姫との邂逅が運命づけられたせいではないかと考えている」
「はい? どういうことでしょうか?」
周一郎さんが間を置いて私に言った。
「4年前、モザンビークでお前と仁桜が対決したことだ。あの時に、冴姫が宗三の護衛に就くことが決定された」
「!」
「宗三はお前と出会う運命が決まったことで独自の世界線に入り、自分に関わる世界線を大きく変容させたのだ。私はそう考えているし、《トリポッド》の専門家も同じ意見だ」
「私も同じです。パラオでの脱出の際にも宗ちゃんが尋常ではないことを言いました。伊刈社長がそれを読み取って適切な手を打ってくれました。その結果、日本がパラオでの海底鉱床の採掘権を実質独占することになったんです。しかも和田商事が中核となって」
「そうだな。全ては宗三を中心に回転している。そういえばあの時、アメリカのパラミリもいたのだったな」
「はい。ロシアの《ボルーチ・バロータ》に殲滅されましたが、直前にアメリカもある程度の情報は連絡を受けていたと思われます」
「それで《聖女》自らが日本に来たということだな?」
「そうですね。目的はパラオの海底鉱床の利権に絡みたいのと、パラオの大規模な崩壊の原因を究明することでしょう。明らかに日本の《能力者》が関わったと認識してますから、何かを掴みたいんでしょうね」
「ブレッツが《聖女》だとして、どのような方法で探ると思うか?」
「分かりませんが、もしかするともう気付いているのかもしれません」
「なんだと!」
それも私の勘だ。
「《聖女》の能力については全くの不明です。ですが戦闘力の他に何か特別な能力があるのでのないでしょうか?」
「どういうことだ?」
「宗ちゃんと似た力です。人間と関わる能力とでも言えばいいんですかね。ただ単に戦闘力が傑出しただけの「スターズ」がわざわざ調査に赴くでしょうか? もっと専門の人間はいそうですから」
「冴姫はどうしてそう考える?」
「宗ちゃんの能力ほどではありませんが、あの日宗ちゃんに偶然に関わったとは思えないんです。「偶然」ということで説明はついても、どれほどの天文学的な確率になるでしょうか。それと、宗ちゃんにとっての「関わり」という点では《聖女》との接触に意味のありません。でしたら、《聖女》の方に関わる理由があると考えます」
「《聖女》が宗三と引き合わせたということか」
「はい。その可能性を含めて今後の対応を考えた方が良いかと」
「宗ちゃんは《聖女》と出会ったのは「偶然だけど必然だ」と言いました。どういうことかと聞くと、「運命が魅かれ合った」と表現していました」
「「!」」
周一郎さんと闇絵さんが驚いていた。
また周一郎さんがしばし沈黙した後で口を開いた。
今回のことは周一郎さんにとっても想定外のことだったのだろう。
「うむ、分かった。だが、お前は宗三とブレッツとをこれ以上接近させたくはないのだな?」
「その通りですが、宗ちゃんも何かを感じているようなんです。伊勢丹での邂逅を「運命が魅かれ合った」んだと言ったのは、宗ちゃんが接近するべきと考えているんだと思います」
「運命が……そうか……」
「あくまでも私は反対なのですが、宗ちゃんの考えた通りに動くのが一番いいのでしょうかね」
「そうだな。冴姫、《聖女》に勝てるか?」
「もちろんです。どんな能力を持っていたとしても、必ず宗ちゃんを守ります」
「では決定だ。伊刈と榊には私から連絡する」
「私も同行させてください」
「いや、お前は接触しない方が良いだろう」
「じゃあ万一の場合に宗ちゃんを守れません!」
私は思わず叫んだ。
「落ち着け。宗三の周辺に《能力者》がいれば、《聖女》を刺激することにも成りかねない。《聖女》はもう確実に冴姫のことを警戒しているだろう」
「でも!」
「それに宗三に近づけることで、宗三が《特異点》であることを敵に除外させられる。まさか日本の《特異点》を《聖女》ほどの実力者に接近させるとは敵も考えない」
「そんな、宗ちゃんを危険な目には!」
「闇絵にガードさせる。妖魔を使えば敵には感づかれない」
「……」
「もちろんココロも常に一定の距離で配置する」
「私もやりますよ」
「分かった。でも絶対に敵に感知されるな」
「大丈夫です。超次元空間で待機します」
「私の方でも体制を整える。それに宗三の能力も何かするだろう」
「そうですね」
思い切り反対したかったが、私にも分かっていた。
宗ちゃんの《特異点》の能力が運命を回転させたのだ。
ブレッツが《聖女》だとしても、宗ちゃんがこういう展開を呼び寄せたのだ。
ならば私も従おう。
でも絶対に宗ちゃんは守る。




