謎の女と「スターズ」
宗ちゃんが眠り、私は外に出て同じフロアのココロちゃんを訪ねた。
ココロちゃんがこの同じマンションにいることを宗ちゃんはまだ知らない。
来栖は下の部屋で待機しているが、あいつはカバーの仕事も忙しく出掛けていることも多い。
私が宗ちゃんのガードを頼めばいつでも来てくれるが。
「今日、金髪の白人と会った」
「うん、見てたの」
「ナオミ・ブレッツと名乗ったけど、絶対偽名。動きで格闘技をしてるのは分かった。殺気をぶつけたけど、微動だにしなかった」
「冴姫ちゃんが本気だったら絶対反撃したと思うの。サーモで筋肉の動きを見てたけど、右手が当たる寸前に全身の筋肉が反応したの」
「うん、私も分かった。あいつ、試そうとしたね」
「うんなの」
「こっちの正体を知ってた?」
「それは無いの。あの後も見張ってたけど、普通に買い物をして帰ったの。ヤサは新宿の京王プラザホテルだったの」
「調べた?」
「うんなの。ちゃんと入国の記録にあったの。ナオミ・ブレッツ、2週間前にアメリカから入国したの。ロックハートの貿易部門の人間で、仕事で日本に来たようなの」
「ロックハート?」
世界中で活動する巨大財閥だ。
銀行、重工業、不動産、マスメディア、多くの産業部門を持つコングロマリットだ。
アメリカの軍産複合体の大きな一角であり、間違いなくアメリカの《能力者》と繋がりがある。
「ロックハートの中での立場は?」
「まだ不明なの。でも非常に高い地位の人間だと思うの」
「どうして?」
「向こうのエージェントがブレッツの個人情報を掴めないからなの」
ロックハートは様々な産業を抱えており、機密の多いことと敵も多くなることから一部の人間の個人情報を完全にシャットダウンしている。
その人間たちに万一のことがあれば多大なダメージを負うからだ。
「ココロちゃんはあの女が《ヴァーミリオン》に関係してると思う?」
「まだ確信は無いの。でも注意するの」
「分かった」
《ヴァーミリオン》の「スターズ」が国内に来たことは分かっている。
だが、それは実は諜報で掴んだ情報ではない。
百家の託宣の予言なのだ。
どうして日本に来たのかは明白だ。
あのパラオでの海底鉱床を日本が独占する流れになったことへの何らかの活動だろう。
それと銀座での仁桜さんとの戦闘のこともあるかもしれない。
仁桜さんは裏社会で知られた人物だが、もしかするとどこかで戦闘を観測していた人間がいてもおかしくない。
そうなると私の突入も察知している可能性が高い。
「私もお鍋、食べたかったの」
「美味しかったよー!」
「やめてなの。冴姫ちゃんが羨ましいの」
「ごめんごめん。今度一緒に宗ちゃんの夕飯を食べようよ」
「絶対なの!」
「分かった、アハハハハハハハ!」
こないだ闇絵さんの鍋を頂いたが、ココロちゃんは本来お鍋が大好きだった。
闇絵さんも普段は普通の食事を作ってくれていた。
特別な日に、あの「闇絵鍋」になるだけだ。
他にも不気味な食材が出ることはたまにあったが。
私は「学園」を出てから闇絵さん、ココロちゃん、来栖と一緒に2年間暮らした。
世田谷の閑静な住宅地で、一軒家に住んでいた。
私たちが料理が出来ないので、闇絵さんがいつも作ってくれた。
そのうちに来栖も上手くなって、闇絵さんがいない時には来栖に作らせた。
鍋が多かったが、それはココロちゃんが一番喜んだからだ。
みんなで一つのお鍋をつつくのが、ココロちゃんには嬉しかったらしい。
そういう優しい子だ。
「「スターズ」の能力は何か掴めた?」
「あまりよくは分からないの。生体強化戦士の分野は陸軍の特殊戦略部門が独占してて、極秘になってるの」
「そうだろうね」
「薬物と人体改造で強靭な兵士を生み出すのは分かってるけど、それだけでは通常の兵士よりも強くはなっても限界があるのずなの」
「うん」
「だからきっと何かあるの。日本の《能力者》ほどではないと思うけど、絶対に油断できない能力があるの」
「銀座では「ビームソード」も厄介だった。あの時の射程は10メートルだったけど、それ以上の威力のものもあると思うわ」
「そうなの。それに別の強力な武器もあると思うの。でもどういうものかは分からないの」
「ビームソード」が厄介なのは遮蔽物も効かない点だ。
金属も斬り裂く威力があり、何よりも高熱を発することが問題だ。
照射を続ければ周囲の空間が高熱を帯びる。
あいつらは金属を貼り付けた戦闘服を着込んで、顔には特殊な暗視装置を装着していた。
接収したものを調べたら、赤外線や紫外線、X線まで視認出来、視界は270度まで見えるとんでもないものだった。
飛び出した構造から狭い視野かと思っていたが、まるで違うらしい。
「ビームソード」のレーザーは3000度の高温で金属も蒸発させながら切断する。
仁桜さんが腿を斬られたが、あの人は何かの剣技で防御したのだろう。
多分敵の威力を感じたかったに違いない。
仁桜さんも怪物だ。
宗ちゃんを守りながら、銀座の人混みでの戦闘は厳しかっただろう。
もちろんいざとなれば、それも構わずに撃退しただろうが。
私が間に合わなくても、仁桜さんならば絶対に宗ちゃんを傷つけずに脱出したに違いない。
でも、あれは量産タイプだった。
《ヴァーミリオン》の量産タイプは、幾つかの戦場で知られている。
人間を遙かに上回る高速の動きで戦場を駆け回る。
普通の兵士では銃の照準が間に合わない速さで、基本的に銃弾は無効だ。
機銃での面制圧で何とかなるだろうが、《ヴァーミリオン》をそこまで追い詰めるのは至難の業だ。
実際、たった一人の《ヴァーミリオン》が一個大隊を壊滅させたことがある。
その時も「ビームソード」が使われた。
量産タイプですらその戦力があるため、実質アメリカは通常の戦場では負けることが無くなった。
迎撃出来るのは各国の《能力者》だけだ。
でもまだ《ヴァーミリオン》の精鋭部隊は戦場に現われていない。
だから量産タイプが《ヴァーミリオン》と認識している国も多い。
だが、日本ではあれを遙かに上回る精鋭部隊がいると確信していた。
そしてやっと「スターズ」の存在の情報を得た。
やはり《ヴァーミリオン》には恐ろしい《能力者》たちがいるのだ。
人体を極限まで強化し、更に「何か」を埋め込んだ化け物たち。
その化け物が日本に入って来やがった。




