最後の試練
「あ、そうだ! みんな七味はいるかな? こないだちょっと美味しいのを実家から送って貰ったの!」
『い、いただきます!』
全員が返事する。
あのミミズを喰わないという選択肢は無い。
ならば、もうこうなっては辛さの刺激で逃げるしかねぇ!
「そう、じゃあ持って来るね!」
闇絵さんがニコニコして部屋を出て行った。
すぐに冴姫が立ち上がって仕切る。
「いいかみんな、絶対に喰えよ! もうここまで来たんだ。最後に台無しにすんな!」
『オウ!』
「それと、言っとくがウドンを頼んだあたしを恨むな! 雑炊ん時は明らかにウジ虫だったぁ!」
「「「「「!」」」」」
ココロちゃんと来栖君が大きくうなずいている。
ウジとミミズのどっちが良いかだが、冴姫はミミズは知らなかったのだろう。
冴姫と来栖君たちの顔を見ていると、どっちもどっちという感じだ。
「とにかく喰える! それに味も悪くない! それはみんな分かったと思う!」
廊下を歩く足音が聞こえた。
「では健闘を祈る!」
『オウ!』
「みんなおまたせー!」
闇絵さんが入って来て、みんなでニコニコする。
闇絵さんの手には大きな広口瓶が抱えられており、中身を見てみんなまた驚いた。
想像外のワケの分からんものが入っている。
テニスボール大の人間の顔(乾燥)
明らかにチンコ(乾燥)
双頭のヘビ(乾燥)
螺旋状のヒモ(乾燥)
絶対ゴキブリ(乾燥/黄色・ちょっと厚め)
絶対ゴキブリ(乾燥/ピンク・相当厚め)
分からないけど虫だと思う(乾燥/ゲジゲジに似てるが40センチ)
闇絵さんが広口瓶をキッチンに持って行って、すり鉢にぶちまけて擦り出した。
ゴリゴリゴリゴリ……
「あー、いい香り!」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
「ヒィグッ」
ココロちゃんが突然泣き出した。
必死に口を押えているが、目から大粒の涙が零れ落ちるのは止められないでいる。
「どうしたの、ココロちゃん?」
闇絵さんが心配そうに言った。
「な、なんでもないの! 大丈夫なの!」
「なんで泣いてるの? 具合が悪いの?」
「ち、ちがうの! 湯気が目に染みただけなの!」
「ココロちゃん、顔を洗いにいこ!」
「う、うんなの!」
冴姫がココロちゃんを支えて立たせた。
部屋を出て行く。
二人を闇絵さんと俺たちは見送った。
闇絵さん以外が呆然と見ていた。
無理も無い、みんな出て行きたいのだ。
「ねえみんな、あたしのお料理、気に喰わない?」
闇絵さんが静かに言った。
先ほどまでとは違う、恐ろしく低い声音だった。
確実に部屋の温度が下がって来た。
みんな慌てて闇絵さんに向く。
「そんなことありません! 絶対にありませんよ、闇絵さん!」
来栖君が必死に叫んだ。
全員の背後にあの黒いクルミ口が現われた。
カチカチカチカチカチカチ……
「闇絵さん、ちょっと落ち着いてぇ!」
来栖君が大騒ぎだ。
他の子たちも動揺して顔を見合わせている。
「来栖、これどうすればいいんだ!」
「待て、何もすんな! もっとスゴイ奴が来るぞ!」
「なんだとぉー!」
闇絵さんの表情から感情が消えた。
「そっか、みんな美味しくなかったんだ……」
「いえ、美味しかったですよ(見た目は酷いです)!」
「そうです、満腹です(もう喰えないって)!」
「こんな美味しいの食べたことありません(見たことねぇよ)!」
「拙者、感服つかまつりましてござる(食べた自分に)!」
みんな慌てて口々に言う。
でも闇絵さんの耳には届いていないようだ。
だから俺は立ち上がって闇絵さんの隣に行った。
「闇絵さん、本当に美味しかったですよ?」
「?」
闇絵さんが言った俺に向いた。
目が死んでる。
「特にあの十字の貝、あれは美味しかったなー」
「宗三君、ほんとう?」
「本当ですよ、当たり前でしょう! ちょっと見たことが無い食材でびっくりしましたけど、どれも口に入れると美味しくって」
「そう?」
闇絵さんの瞳に光が戻って来た!
俺がニコニコしていると、元々の柔和に微笑む顔になって来た。
闇絵さんの笑顔は温かい。
「そうです。最初の一口でもう確信しましたってぇ。それにしても変わった食材でしたね」
「そうなの! もう、本当に苦労したんだからぁ。あの十字貝は「悪魔殺し」と言ってね、北極の氷の下でしか育たないの。特別な水妖を使って獲らせたのよ!」
「そうなんですか! それは貴重なんだなぁ(獲らないでいいです。それに「悪魔殺し」ってなに!)!」
「ほら、人間の顔に似てる奴あったでしょ?」
「はい(人間の顔じゃないの?)!」
「あれは「千年翁」(せんねんおきな)っていうキノコの一種なの」
「えぇ、キノコぉ(ぜってぇちげぇ)!」
「もちろんただのキノコじゃないよ? うちの実家の栽培室で特殊な作り方をするの!」
「うわぁー、そりゃスゴイ(なんで作ろうと思ったぁ!)!」
「それと見た目はキノコの目のある奴あったじゃない!」
「はいはい(食べようとしたら目が開いた)!」
「実はアレさー、あっちはキノコじゃないんだなー」
「それはビックリ(じゃあなんなんだよ!)!」
闇絵さんが一生懸命に食材の説明をしてくれた。
みんな呆気に取られていたが、やがて強張った顔でニコニコし始めた。
冴姫がココロちゃんと戻って来た。
来栖君の耳元で冴姫が囁くのが聞こえた。
(交代して来たから)
(無理もねぇや)
ん?
まあいいか。
黒いクルミ口はいつの間にかいなくなっていた。
やがて鍋の蓋が持ち上げられ、闇絵さんが締めのミミズをみんなによそって行った。
「七味」の加減を聞かれたが、みんな「辛いのは苦手」とちょっとずつ振りかけてもらった。
やっぱりミミズも美味しかったし、「七味」も絶妙だった。




