闇絵さんの鍋
闇絵さんを先頭にみんなで廊下を歩いて行き、冴姫が俺の手を引いて一番後ろになった。
「宗ちゃん」
みんなが廊下を曲がった後で俺を引き留めた。
非常に小声で俺の耳元に囁く。
「なんだ」
俺も小声になる。
「あのね、時間無いから一つだけ注意しておく」
「うん?」
「絶対に闇絵さんのお料理に不味そうな顔はすんな」
「ん?」
「大丈夫、全部食べられるから。それに大体美味しいから」
「はい?」
「不味そうな顔をすると、とんでもないことになっから」
「え?」
「いいから約束して!」
「は、はい!」
なんなんだ。
そうこうしているうちに闇絵さんが部屋にみんなを入れた。
食堂のようで何十人も入れる広さだった。
対面の大きなキッチンもある。
ただし、俺たちの他には誰もいない。
「さあみんな入って。みんなが来るんで今朝から頑張ってたんだ」
「闇絵さん、ありがとうございます」
「わざわざすみません」
などとみんながお礼を言っていく。
冴姫、ココロちゃん、来栖君もニコニコしてお礼を言っているが、三人の顔は引きつっている。
「さあ座って。宗ちゃんはここね」
「はい」
俺はテーブルの真ん中に座り、冴姫と来栖君が両脇に来た。
他のメンバーも座り、闇絵さんが真っ黒いエプロンを付けて見たことも無いくらい大きな鍋を持って来る。
テーブルにあったでかいコンロの上に鍋を置き、火を点けた。
「お鍋ですか!」
「久しぶりです!」
みんな嬉しそうだ。
冴姫たち3人を除いて。
闇絵さんが鍋の蓋を取った。
いい匂いがする。
鍋が大きいので、座った位置からでは中が見えないがまだ昆布で出汁を取っているところのようだ。
闇絵さんがキッチンに入ったので手伝おうと俺も行こうとした。
冴姫に手を引かれて止まる。
「宗ちゃん、座ってて」
「いや、俺も手伝うよ、料理は多少出来るし」
「いいからマジ座ってろって」
「う、うん」
何だか様子がおかしいが、冴姫が強い口調で言うので座った。
闇絵さんが大きなバットを持ってキッチンから言った。
「誰か食材を運ぶの手伝ってぇー!」
「「はい!」」
冴姫と来栖君が立ち上がって向かった。
ココロちゃんは今にも倒れそうなほど震えて涙目になっている。
「ココロちゃん、大丈夫?」
「宗ちゃん、私が死んでも泣くなし」
「なにぃ!」
闇絵さんと冴姫たちが食材を運んでくる。
多くの材料はもう闇絵さんがカットしていたらしく、あとは鍋の準備が出来たら食材を入れるだけのようだ。
鍋に入れる野菜などが大量に運ばれて来る。
冴姫と来栖君が大きなバットやカゴで定番のネギや春菊、シイタケ、豆腐などと魚やエビなどを運んだ。
でもあの闇絵さんが持って来るアノ食材……
アニコレ?
「このメインの食材は寸前でカットするからね!」
闇絵さんがニコニコして言う。
他の全員はその「メインの食材」を見て真っ青になっている。
「み、みんな! 闇絵さんの手作りだぁ! ありがたく頂くぞー!」
冴姫が叫んだ。
来栖君が手早く飲み物を注いで回る。
冴姫は真っ先に闇絵さんのグラスに瓶ビールを傾ける。
エビスビールで、グラスは大きめのワイングラスだった。
ちゃんとラベルを上に向け、瓶をグラスから離して注いでいる。
あいつ、社会人のマナーもあったのかー。
今日初めて会った子たちは「メインの食材」を見て動揺していた。
闇絵さんがキッチンに行った。
(おい、これが噂の「闇絵さん鍋」か)
(落ち着け、死ぬことはないそうだよ)
(これ喰って死なないってあるのか?)
(冴姫たちは何度も食べてるって)
(あれって……)
(ヘンな臭いが……)
(もう黙れ!)
なんか小声で相談してる。
全員が以前から何か聞いて知っているらしい。
それでも驚いているのは無理もない。
闇絵さんがニコニコ顔で戻って来た。
全く悪意が無いことはその笑顔で分かるのだが。
メインの食材。
細い手足の生えた黒い魚(?)
直径30センチほどの白い円盤の下に無数の5センチの人間の指のような触手(指にはちゃんと爪あり)
直径8センチで全体に太い血管の走っている眼球
十字に閉じている貝(ゲラゲラ笑ってるが……)
人体そっくりな何かの根(顔もついてる……目は閉じてる)
極彩色の芋のようなもの(他のに比べてまとも)
絶対に目玉が付いているキノコ(キョロキョロしてる……)
青銀の尖った葉っぱ(一番まとも)
明らかに人間の顔面!
その他おぞましい食材(なのかぁ!)が幾つも出て来る。
「あ、いけない! これは食べたら死ぬやつだったぁ!」
闇絵さんが青銀の葉っぱを取り除いてどこかに仕舞いに行った。
部屋を出たのでみんなが冴姫に聞く。
「冴姫! これは大丈夫なのかよ!」
「うん、死ぬことはない」
「信じられるかぁ!」
今まさに闇絵さんが「死ぬやつ」と言って出てったじゃねぇか!
「大丈夫、大体あたしたちも見たことあるから、ね、ココロちゃん?」
「う、うんなの」
「ココロ、お前、蒼ざめてるじゃねぇか!」
「そ、そんなことないの」
「待てよ、喰わないと本当に大変なんだろ?」
「拙者は少食の故……」
「そんなこと言ってられるかぁ!」
「そうだよ、闇絵さんの能力が暴走すっから」
「あれかよ!」
「ヤバいよ!」
廊下を歩く音が聞こえて来た。
「とにかく笑いながら喰うんだぞ! まちがっても戻すんじゃねぇ!」
「分かったよ」
「僕の勘が危ないけど大丈夫って言ってる」
「弖彪の勘は当たるからな」
「でも危ないって言ってっぞ!」
ガチャリ
闇絵さんが戻って来た。
全員がニコニコしている。
流石は《能力者》だー。
「みんなお待たせ! さーて、すぐに用意するねー!」




