みんな無事だった
目の前の信じられない程の破壊された街を見て、呆然としていた。
「みんなが……」
ホテルにいた人たちは無事だっただろうが、同期や連れ出してくれた先輩方はどうなっただろうか。
あの凄まじい破壊の中で生きているとはとても思えなかった。
それに見知らぬパラオの人たちだって……
俺が泣いていると冴姫が優しく俺を抱き締めて、ベッドに横たえてくれた。
冴姫が俺の隣に横になった。
「ああ、宗ちゃんは会社の人たちが心配だったんだね?」
「そうだ、先輩たちが同期の御坂たちを外に連れ出したんだ」
「大丈夫だよ」
「え?」
「ココロちゃん「たち」がみんなを連れ戻してる。それに出来るだけ街の人たちの避難も」
「そうなのか!」
上半身を起こし、また涙が流れた。
冴姫も起きて俺を抱き締めてくれた。
「パラオの人の全員は無理だったけどね。襲って来た連中は、最初から全員を殺すつもりだったから」
「酷いな」
「うん。国ごと乗っ取ってしまおうって考えてたみたい」
「本当に酷いな。冴姫がやっつけてくれたのか」
「うん。まあ私は宗ちゃんを守らなきゃいけなかったしね。あいつら和田商事の人たちも狙ってたから」
「そっか、冴姫、ありがとうな!」
「うん!」
冴姫が嬉しそうに笑った。
良かった、みんな無事だったか。
俺の部屋に会社の先輩が呼びに来た。
榊常務からで、全員夕食会の会場へ集合するように言われた。
冴姫と会場へ行くと、和田商事の社員と他に宿泊客の外国人たちもいた。
伊刈社長が前に立っている。
部署ごとに集合して点呼が取られ、安否確認がされた。
人事部長が集計し、全員が無事だったことが分った。
伊刈社長たちが喜び、それを発表する。
全員が湧き立った。
「もう既に日本政府に連絡して我々の救援のために動いている。安全が確保され次第に空港へ移動する。各自30分後に荷物をまとめてまたこの部屋に集合してくれ」
榊常務が伊刈社長に替わって話し始めた。
「日本国政府が特別チャーター便を手配した。パラオが国際的なテロリストに襲撃されたらしい。既にテロリストたちは鎮圧された。我々は最速でパラオを脱出する。全員の安全はある特殊部隊が護衛してくれる。だから落ち着いて行動して欲しい。とにかくみんなが無事で良かった! さあ、荷物をまとめてくれ!」
全員で拍手し、各々の部屋へ戻った。
冴姫がずっと俺の傍にいる。
「宗ちゃん、大丈夫?」
「ああ。みんなが無事だったんだ。もうどうでもいいよ」
「そうだね」
同期の御坂が駆け寄って来た。
「おう神楽坂、お前もなんともないな?」
「ああ、お前らが外に行ってたんで心配してたんだ」
「そうか、大変だったんだぜ。でもツアーガイドの女の子がすぐに来てくれてさ」
「そうなのか」
「ちっちゃくてカワイイ子でさ。「すぐに逃げるの!」って言ってくれて、俺たちを連れ出してくれたんだ」
「おぉ!」
間違いなくココロちゃんだろう!
「すぐに爆発が始まって、本当に怖かったよ。でもその子が車を用意してて無事にホテルまで戻れた。本当に助かったよ。あの子、あの状況で俺たちを助けに来てくれたんだ。もう感謝し切れないぜ!」
「良かったな!」
他の外に出ていたらしい先輩方もこの異常事態に驚いていたのが聞こえて来た。
「ちっちゃいツアーガイドさんが助けてくれた」
「お前もか! 俺もちっちゃいカワイイ人でさー」
「俺もちっちゃい子だった!」
「ちっちゃいのに勇気あるよな!」
「そうそう! 喋り方はカワイイんだけどな!」
「なんて名前か聞きそびれた」
「帰ったらちゃんとお礼がしたいな」
「そうだな!」
今回のツアーガイドさんはみんなちっちゃい子なんだろうか?
一人はココロちゃんなんだろうが。
俺たちは日本政府の特別チャーター便が到着するまでホテルに待機となった。
幸いにもホテルと若干の周辺は何事も無かったが、電力が途切れていて水道やガスも停まっているらしい。
当然と言えば当然なのだが。
ホテルの人がありったけの懐中電灯などを集めてくれ、夕食会場となった広間がホテル内の避難所となった。
日本政府がパラオの人たちや外国人の観光客の安全確保を約束したことで、伊刈社長が今は臨時のリーダーになっていた。
外国人には第一貿易部の先輩方が中心となり、説明している。
いつでも出発出来るように荷物を準備して集まるようにと。
みんなホッとした顔をしていた。
ホテルの人たちはみんなが座れるように椅子やテーブルの準備を始め、飲み物や食べられるものも出来るだけ用意してくれるようだった。
俺は冴姫と部屋に戻った。
「あ、そうだ!」
「あー!」
冴姫が俺が運んだ夕飯の残りを見て喜んだ。
「ほら、冴姫は夕食を食べられなかったろう?」
「宗ちゃん、やっさしぃぃーー!」
「アハハハハハハハ!」
冴姫が早速食べ始めた。
俺が代わりに荷物の用意をする。
思えば来たばかりでそれほど荷物を解いていなかった。
すぐに冴姫の分もまとめられた。
「パンツみたぁー?」
「おう!」
見た見た、もちろん。
「あー、シャワーも浴びたかったなー」
「そうだな、俺もまだだよ」
「宗ちゃん、大浴場は行かなかったもんね」
「そうだな」
冴姫はまだ食べている。
俺は冷蔵庫から炭酸水を取り出してコップに入れて冴姫の前に置いた。
「やっぱやさしー!」
「アハハハハハ」
あれほどの破壊と虐殺(多分)したにも関わらず、冴姫は明るい。
もうこれが冴姫なのだと俺は妙に納得していた。
短い付き合いの中で分かったのは、冴姫は凶暴な時もあるが余りにも純粋なのだ。
俺を守るために全てのことを為してくれている。
これまでの俺の「常識」は、冴姫の「純粋」によって少しずつ変わって行った。
相変わらず血生臭いものには苦手意識もあるが、それもほんの少し和らいで来たような気がする。
自分でも不思議だ。
殴り合いの喧嘩はおろか、言い争いすらもほとんどして来なかった俺なのだが、今思えば冴姫の暴力を見ても然程驚いてはいなかった自分に気付いた。
俺はこんな世界を平然と受け入れつつある?
でもそれはきっと冴姫と出会ったからだ。
俺と冴姫は一緒なのだ。
ずっと、死ぬまで……
冴姫が夢中で食べている間、俺は窓の外の地獄のような景色を見た。
俺はどんな場所でも冴姫と二人でどこまでも行く。
そう決めた。
「宗ちゃん、これ美味しいよ! 宗ちゃんもちょっと食べれば?」
「おう!」
冴姫が輝くような笑顔を俺に向けてくれた。




