市内観光
ココロちゃんがお茶をゴクゴク飲みながら、ちょっと真剣な顔で言った。
「冴姫ちゃん、他にもロシア、中国、フランスとイギリスのエージェントも見掛けたの。でもアメリカが一番多いし、荒事のパラミリまで送り込んでるの。きっと何かヤルつもりなの」
「そう」
冴姫が俺のためにもうちょっと教えてくれた。
ここパラオは日本が統治していたが、第二次世界大戦以降はアメリカが君臨していたのだと。
だから今もアメリカの影響力が強く残っており、新たな鉱床を狙って積極的に動いているのだと。
今の所、日本とアメリカが優勢らしいが他の国も諦めてはいない。
何しろレアアースとレアメタルは今後の世界の趨勢を決めるほど重要な資源だということだ。
「でも俺たちには関係無いよな?」
「そう願うわよ。折角みんなで旅行に来てるんだしね」
「そうだよ」
冴姫が微笑んだ。
「でももちろん日本も欲しがっているわよ」
「日本には南鳥島のでかい鉱床があるんだろ?」
「そうよ。でも他にも欲しいの」
「どうしてだ? だって今後は輸出も可能なほどの大きな埋蔵量だって……」
冴姫が真面目な顔になった。
「宗ちゃん、日本は自国で消費する十二分な量を得たわ。でもね、他の国を必要以上に潤わせたくはないの」
「え?」
「今は各国が世界の覇権を狙っている時代なのよ」
「ああ、そういうことか」
俺にも何となくは分かって来た。
これからは経済的な発展よりも、資源確保の時代になるのだと聞いている。
周一郎兄貴からも、それを巡っての戦争が起きる可能性があるのだと言われた。
「一応ね、南鳥島は和田商事が食い込んでる。それに榊さんはここパラオの採掘権も出来れば加わりたいと考えているわ」
「じゃあ、この旅行も!」
「アハハハハハ、それは無い。純粋に偶然決まっただけだよ。二年前にはほぼ決まってたらしいし、パラオの海底埋蔵鉱床の発見は4か月前だしね」
「そうなんだ。ああ、良かった」
「この旅行は偶然だけど、安心出来るわけじゃないよ」
「え、どういうこと?」
冴姫とココロちゃんが呆れた顔で俺を見ている。
「今、わたしが言ったの」
「え、あ、ああ!」
「時々ね、宗ちゃん、トリ頭だから」
「おい!」
「CIAとかが実行部隊を送り込んでるって言ったばかりなの。ねえ、冴姫ちゃん。宗ちゃんって大丈夫なの?」
「うん、ちょっとね、カワイソウな子なんだよ」
「そういうことなの」
「おい!」
まあ言われても仕方が無い。
でも俺はこれまで戦争とか危ない事態とかって無かったんだ。
冴姫がうちに来てからなんだよ!
「まあ、宗ちゃんのことは私が絶対守るし」
「うん、よろしくお願いします!」
「私もいるの」
「ココロちゃんもよろしく!」
二人がニコニコして俺を見ていた。
この二人がいれば安心だろう。
その後、ココロちゃんが街を案内すると言って部屋を出た。
ロビーでは何度か会社の先輩たちや同期を見掛けて挨拶する。
ココロちゃんに最初に屋台の並ぶ場所に連れて行かれ、二人がバクバク喰っていた。
俺は夕飯が入らなくなるので遠慮した。
二人は歩きながらあれこれと買っては食べている。
異様なものを見た。
「おい、それなんだ?」
「フルーツで煮込んだコウモリなの」
「ゲェ!」
「美味しいよ、宗三もちょっと食べる?」
冴姫が喰い掛けのを俺に見せる。
「い、いや、いい」
食べたいのだが。
でも無理なのだが。
「そう?」
「二人共そういうのに抵抗ないんだ」
出来るだけソフトに聞いた。
国が違えば食文化は当然違うとは知っているけど。
「あー、うん。闇絵さんの鍋喰ってるからな」
「冴姫ちゃん、その話はやめるの!」
「あ、ごめん。ココロちゃんはちょっと苦手だよね」
「やめるの」
「うん、ごめんね」
なんだ?
闇絵さんって、周一郎兄貴の副官の人だよな。
お綺麗でスタイルが抜群の。
料理が上手いってこと?
まあ、後に俺も思い知るのだが……
ココロちゃんも交えて楽しく街を散策(主に喰い歩き)して、俺は目に付いた雑貨屋で貝殻を使ったアクセサリーや小物などを幾つか買った。
「宗ちゃん、もうお土産買うの?」
「着いたばっかなのにね」
「うん、このお店いいよ!」
「冴姫ちゃん、宗ちゃんは気が早いの」
「そうだよね。初日にお土産買うなんてねー」
「いいじゃんか! 俺は目に付いたらすぐに行動すんだよ!」
「宗ちゃん早そうなの」
「そーろーちゃん」
「「ギャハハハハハハハハハ!」」
「……」
まあ笑ってろ。
「ねえねえ、誰に買うの?」
「えーと、周一郎兄貴だろ、仁桜姉、来栖君、ユカリちゃん、あ、闇絵さんにも買っておこう!」
「うんいいね。でもあげる人、少ないね」
「ぎゃぁぁぁーーー」
冴姫とココロちゃんが笑っていた。
言われたからということではないが、俺は他にも幾つも買った。
ホテルのプライベートビーチにも行った。
やっと観光名所的な場所だ。
丁度夕暮れ時で、海が赤く輝いて美しい。
「綺麗だな」
「そうだね」
「こういう場所に住んだら幸せだろうな」
「宗ちゃんはそう思う?」
「うん。冴姫がいて、ココロちゃんもいたら嬉しいな」
二人が笑って俺の左右の手に絡めて来た。
「そうだよね」
「うん、そうなの」
二人が嬉しそうに俺と一緒に夕暮れの海を見ていた。
オレンジ色に染まった景色の中で、美しい水面が輝いている。
「またいつか来ようか」
「いいね」
「私も「覚えておく」の」
「うん」
暗くなるまで、そうやって三人で海を眺めた。




