お友だち
仁桜姉貴が俺を誘拐して銀座で大規模な戦闘が起きた。
麹町大通りで攻撃ヘリが5機墜落し、地雷で道路に大きな陥没が出来た。
銀座の数寄屋橋交差点近くで銃撃戦があり、道路に面していた有名ブランドのビルで何人もの人が死んだ。
あれほどの大騒ぎだったが、報道は意外なほどに少なかった。
テレビなどのマスメディアも、またネットのニュースですらあまり扱わない。
個人のSNSも見当たらない。
恐らく、大規模な報道統制が敷かれたのだろう。
仁桜姉貴と別れ、マンションに戻って冴姫と夕飯を食べていた。
今日は魚介のパエリアと鶏の香草焼きだ。
相変わらず冴姫の食欲は旺盛だ。
「そういえばさ、銀座で警官の姿って見なかったよな?」
俺たちは救急車に乗せられて現場を離れた。
姉貴と千堂さんは多少の負傷をしていたが、俺も冴姫も無傷だ。
そして途中で別な車に乗り換えさせられ、俺と冴姫はそのままマンションに戻ったのだ。
姉貴と千堂さんがどこに連れて行かれたのかは知らないが。
「そりゃそうだよ、警察にはすぐに「指示」が行って現場に封鎖線を引かせただけ。危険なのでビルには近づかないように徹底したんだよ」
「そうなのか。でも大変な事件だろ? テレビでもっと報道されるかと思ったけど、あんましだな」
一通りの報道はあった。
銀座でテロ事件が起き、テロリストを警官隊が制圧したということになっていた。
でも麹町大通りでも数寄屋橋でも他に大勢の目撃者がいたはずだ。
「事件を見た人は全員「処置」をされたんだ」
「え、処置!」
なんだよ、コワイよ!
「記憶を操作されただけだ。宗ちゃんや仁桜さんたちを見た記憶は入れ替えられて、スマホなんかで撮影したものは消去されてる。銀座のビルの中にいた人は特にね」
「酷いことをされてないよね?」
「ああ、ちょっとした記憶の改ざんで後遺症は無い。そういう技術は日本で高度に発展しているしな」
「そうなのか……」
そうなんだろうけど、やっぱり誰かの記憶をいじるのは俺には抵抗があった。
「そうだ、千堂さんが《ヴァーミリオン》って言ってたけど、そっちは大丈夫なの?」
「ああ、周一郎さんがアメリカと話し合ったよ。もう片付いたって聞いた」
「そうか、良かった」
「仁桜さんがね、アリゾナの米軍基地を一つ壊滅させたの」
「エェ!」
「アメリカが日本の南鳥島沖のレアアースを狙っているからね。ちょっとした示威行為だったんだ。《ヴァーミリオン》の一部隊が駐留してたから」
「!」
「日本が《ヴァーミリオン》に対抗出来ると示したんだよ。でもさ、それでアメリカが怒っちゃって」
「そりゃそうだろう!」
立派な国際問題という以上に、戦争になってもおかしくない。
「もちろん《仁王会》は傭兵組織だから、直接日本には向かないよ。でもアメリカだって日本の攻撃であることは分かってるから。それで仁桜さんたちが狙われていたの」
「そういうことなのか……」
俺が考えている以上に、もう《能力者》たちの戦争は始まっているらしい。
「今ね、南鳥島沖の海底鉱床はアメリカにも流すということで話を付けた」
「そうなのか」
「もちろんこちらの許容範囲でね。アメリカもそれは分かってるけどお互いに今は矛を収めた。でもまだアメリカも諦めてないよ」
「今後また何か仕掛けて来るってこと?」
「そう。それにアメリカだけじゃない。他の国だって狙ってる」
「そうなんだ」
本当に世界は激しく回転している。
資源戦争は今後も終わることは無いのだろう。
冴姫がニコニコして言った。
「大丈夫だよ、宗ちゃんは私が絶対に守るからさ」
「ああ、それは何も心配してないよ」
「ほんとに! うれしい!」
冴姫が本当に嬉しそうに笑った。
「宗ちゃんにそう言ってくれたのが嬉しい!」
「そうか」
冴姫がニコニコしているので俺も笑った。
「このパエリア美味しいね! 香草焼きも最高!」
「ありがとう」
パエリアはカリカリしたのを好む人もいるが、俺はシットリふっくら系が好みだ。
冴姫が機嫌良さそうにしている。
夕飯を終え、冴姫が洗い物をしながら俺は横でコーヒーを淹れていた。
「そうだ、ユカリちゃんが今度ヴァイオリン・コンクールの全国大会に出るんだって」
「そうなの? あの子ヴァイオリンなんてやってたんだ」
「そうだよ。でもスゴイなー、全国大会だよ。あの子まだ8歳なのにさ」
「そうだね。まあ宗ちゃんと出会ったからね」
「え?」
冴姫が微笑んで言った。
「仁桜さんももっと強くなるよ」
「え、姉貴?」
「あの人は宗ちゃんと一緒にいてあそこまでになったんだよ。石神家も相当だけど、その中でも仁桜さんは更に次元が違う」
「そうなの?」
「ユカリちゃんもきっと凄いだろうね。宗ちゃんのお気に入りだからね」
「いや、俺は関係無いよ。ユカリちゃんの才能とあの子が頑張ってるからだよ」
「ウフフフフフ、みんなそうだよ」
「え?」
冴姫が洗い物を終え、俺はミントンのカップにコーヒーを注いだ。
「そうだ、ここのお友だちも大事にしないと!」
「友だち?」
「ほら宗ちゃん、ベランダに出て!」
「おい、なんだよ」
冴姫にベランダに押しやられた。
冴姫がコーヒーを運んで来る。
「さあ、鳴いて!」
「アハハハハハハ!」
前にやったことだ。
「アオォォーーーーン!」
アオォォーーーーン!
アオォォーーーーン!
アオォォーーーーン!
……
「ギャハハハハハハハハハ!」
「ワハハハハハハハハハハ!」
二人で大笑いした。




