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押し掛けギャルは殲滅者  作者: 青夜
人類最強

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39/82

仁桜の涙

 「宗ちゃん!」

 「冴姫!」


 冴姫の声だった!

 冴姫が来てくれたんだ!

 室内にいた金属蟹が見えない攻撃で爆散する。

 それを見て姉貴が俺を自分の隣に降ろした。

 俺も抵抗せずに姉貴から腕をほどく。

 俺はすぐに膝を付いて姉貴の足の怪我を見る。

 太い左の腿から血が滲んでいたが、もう出血そのものは収まりつつあるようで、拡がってはいない。

 姉貴が言った。


 「大丈夫だ、宗三。あたしの身体はすぐに傷が塞がる」

 「でも!」


 コンバットスーツが炭化して破れていた。

 俺はそこから覗く傷を確認しようとした。

 血が周囲にこびり付いているが、本当に傷は塞がり、もう赤い線だけになっていた。

 驚くべき回復力だ。

 全ての金属蟹を殲滅して、冴姫が駆け寄って来る。

 冴姫は黒いオーバーオールを着ていて、頭には黒のキャップを被っていた。

 下は長袖の白のTシャツだ。

 全体に大き目で、冴姫の印象は希薄になっている。

 みんな逃げてくれ、店内にはもう誰もいない。


 「宗ちゃん! 無事なの!」

 「あ、ああ、大丈夫だ」


 冴姫が言葉も聞かず、俺の全身を確認する。

 それを姉貴が顔を顰めて見ている。


 「冴姫、あたしがいるんだ。宗三にはかすり傷一つねぇよ」


 冴姫がそれも無視して俺の全身を調べる。

 姉貴が怒鳴った。


 「おい、聞いてんのかぁ!」


 姉貴が刀を振り上げた。

 冴姫が姉貴を睨んで言った。


 「何言ってんすか。仁桜さん、これは重大な協定違反ですよ」

 「フン!」


 姉貴は不満そうな顔をしたが、それでも日本刀を鞘に仕舞う。


 「宗ちゃんはこっちで守るって決まりましたよね? 仁桜さんにはその支援をお願いしていたはずですが」

 「お前らなんかに任せられるかよ! こないだも暴走族上がりのヘタレにやれそうになったじゃねぇか!」

 「そっちこそ今どうだったんですか? 《ヴァバーミリオン》ごときにこんなに追い込まれたのは誰ですか?」

 「てめぇ!」


 姉貴の身体がブレた。

 瞬きをする間に、姉貴は離れて倒れていた金属蟹の腹に腕を撃ち込んでいた。

 瞬間移動したようにしか見えなかった。

 そのまま姉貴は片腕で軽々と持ち上げると、金属蟹の身体が爆散した。


 「こんな連中、いつでもぶっ殺せるんだぁ!」

 「何言ってんっすか。こいつらは量産タイプですよ。それを相手にこんな手こずるようじゃ話になりません」

 「冴姫、てめぇそこまで言っといて覚悟はいいんだろうな」

 

 俺は慌てて姉貴に抱き着いた。


 「仁桜姉、そこまでにしてくれよ! もう姉貴だって分かってるじゃないか! 冴姫が来てくれて俺たち助かった

だろう!」

 「宗三、どけ! この小娘をぶっ殺す」

 「ダメだよ! 俺は姉貴には付いて行かない!」

 「宗三!」

 「俺は決めたんだ! 冴姫と一緒にいるって決めたんだよ! 仁桜姉が俺のことを思ってくれるのは本当に嬉しいよ! でも俺は決めたんだ! 姉貴、分かってくれよ!」

 「宗三、お前……」

 

 冴姫が言った。


 「仁桜さん、宗ちゃんが決めたってことはもう絶対ですよ」

 「うるせぇよ! お前は黙ってろ!」

 「そうは行きません。仁桜さんだって、宗ちゃんのことはよく知ってるでしょう」

 「チィ!」


 姉貴が俺の身体を放した。

 

 「宗三、お前は自分のことがまだよく分かってねぇ。今の言葉は取り消せ」

 「え? なんだよ? 俺は決めたんだって! 姉貴とは一緒に絶対に行かねぇ! もう二度と会えなくなってもそれでいい。俺は冴姫とずっと一緒にいるんだ!」

 「やめろ! お前が決めたなんて言うな。あたしと二度と会えないなんて言わないでくれぇ! まだお前は……」

 「え、分からないけど俺は冴姫と一緒にいるって。姉貴とじゃない、そう決めたんだ」

 「おい、やめろぉ!」

 「なんだよ、姉貴?」

 「宗ちゃん、落ち着いて……」


 どうも様子がおかしい。

 俺が頼んでいることと姉貴や冴姫の態度が微妙にズレているような気がする。

 俺はただ、姉貴に引っ込んで欲しいだけだ。

 こんな無理矢理俺を拉致するようなことは迷惑だと言っているだけだぞ。


 「おい宗三、冴姫がこの先死んだらどうする?」

 「じゃあ俺も死ぬよ」


 売り言葉に買い言葉って奴だ。

 姉貴を諦めさせるためにそう言ったまでだったのだが、姉貴がいきなり狂乱した。


 「宗三ァァァーーー!」


 姉貴が俺を物凄い力で抱き締めた。

 俺の骨が軋むほどの力を感じた。

 抵抗しようとしたが、姉貴の怪力は俺に声一つ上げさせなかった。


 「仁桜さん!」


 冴姫が慌てて叫ぶ。


 「宗三、まだ決めるな! あたしを離すなんて言うなよ! 頼むから待ってくれ!」

 「……」

 「仁桜さん、宗ちゃんを放して! 宗ちゃんが壊れる!」


 冴姫が姉貴の腕を掴んで引き剥がそうとしている。

 姉貴はやっと俺を放してくれた。

 激しく咳き込む。


 「頼む、宗三、頼むよぉ!」

 「あ、あねき……」

 「まだ待ってくれ。あたしももっと強くなるから」


 あの仁桜姉貴が泣いていた。

 大粒の涙を零していた。

 信じられない。


 「なあ、宗三、頼むから……」

 「におうねぇ……わかったよ、そこまで言うならまだ決めてない」


 あの気丈で誇り高い姉貴が大泣きして取り乱している。

 俺は姉貴のために前言を覆すしか無かった。


 「宗ちゃん……」

 「ほんとうかぁ!」

 「ああ、悪かったよ、よくは分かんないけど。俺も姉貴のことが大好きなんだ。一緒にいるのが厭ってわけじゃないんだぜ?」

 「宗三ぁ!」

 

 また姉貴に抱き締められた。

 今度は優しい抱き方だった。


 「ありがとう宗三。あたしも頑張るから」

 「姉貴、ありがとうな。まあ、ちょっとひでぇ目には遭ったけど、姉貴が本気で俺のことを思ってくれてるのは分かってるから」

 「そうだぁ! お前がこの世界で一等大事なんだぁ!」

 「分かったよ。でも今は勘弁してくれ。冴姫と一緒にいるよ」

 「そうか。そうだな。今はまだそれでいい。でも決めないでいてくれ」

 「そうするよ。姉貴の気の済むまでな。でも出来れば冴姫とはもうちょっと仲良くしてくれ」

 「……まあ、出来るだけな」

 「頼むぜ」


 姉貴はまだ泣いていた。

 あの誰にも負けない強い姉貴がここまで泣いているのは初めて見た。

 いや、泣き顔さえも初めてだ。

 幼い頃から姉貴を見て来ているが、一度も泣いたことは見ていない。

 だが姉貴の泣き顔は本当に悲しそうだった。

 泣いたことが無い人ではないのだ。

 そんな人間はいない。

 きっと、涙を知らない人間は強くはなれないのだろう。

 俺は姉貴を見ながらそう思った。





 やっぱり姉貴は強い。

 それは肉体だけの強さではない。

 心の奥底に涙を常に秘めて生きている人なのだと分かった。

 その涙は俺のために流してくれたものなのだ。

 俺は姉貴がますます大好きになった。

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