《ヴァーミリオン》
「姉御、不味いです、アメリカの《ヴァーミリオン》が来ました」
「来やがったか」
「《ヴァーミリオン》?」
インカムで報せを受けたらしい千堂さんが姉貴に叫んだ。
そしてすぐに事情を分かっていない俺に手早く説明してくれた。
姉貴や他の兵士の方はもちろん分かっているのだろう。
《ヴァーミリオン》とはアメリカが開発している生体強化人間のことであり、薬品と改造手術のせいで驚異的な戦闘力を持っているのだと。
それに武装も特殊で、これまで戦場で用いられていない強力な武器があるそうだ。
千堂さんが俺に金属製のシートをかぶせた。
どういうものかは分からないが、多分防護のためのものだろう。
俺はその隙間から外を見ると、車に並走して走る人間がいた!
リムジンは時速80キロを超えて走っているのに!
そいつが腰から何か棒状のものを抜いたのが見えた。
すぐに千堂さんがライフルを連射している。
それをどういうわけか相手は全部回避していた。
驚異的な反応速度だ。
千堂さんが兵士として一流なのは何となく分かるが、敵はそれ以上なのだ。
姉貴はシートに座ったままでいるが、慌てている様子は無い。
リムジンは有楽町駅の近くまで来ている。
「硬い連中だ! 千堂、グレネードを使え! 狙いはいいからとにかく地面を破壊しろ! 10メートルの距離を取れ!」
「アイサー!」
千堂さんがシートの下から大きなリングが付いた銃を持ち出した。
見たことが無い、回転弾倉部分に太いパイプが幾つも付いたようなライフル(※グレネードランチャー ミルコーMGL)。
それを連射する。
ポン、ポン、ポン、ポン……
直後に爆発音が幾つも響き、リムジンの周囲が土煙で見えなくなっていく。
先ほどまで並走していた《ヴァーミリオン》が後方に下がったのが分かった。
たちまち土煙の向こうに見えなくなる。
その土煙が赤く光った。
なんだろう?
「ビームソードだ! 左に逃げろ!」
リムジンが姉貴の指示で迷わず左のビルに突っ込んで行く。
道などではなく、有名なブランドの路面店だ。
リムジンが巨大なガラスを突き破って室内に入って停まった。
ガラスの破片が降り注いだが、俺の被された金属シートが全て防いでくれた。
すぐに全員車外に出て、千堂さんが俺の背後に立った。
店の中にいた客と従業員たちが悲鳴を上げた。
人間と展示物が次々に切れて行く。
赤い光が走って、運転していた男性の首がヘッドレストと一緒に落ちた。
俺たちにも赤い光が迫ったが、金属シートは貫通しなかった。
「!」
室内が何か所も一瞬赤く光り、途端に気温が上がった。
俺は姉貴に抱えられて凄い速さで移動した。
千堂さんも俺の背後で金属シートを広げながら付いて来る。
壁に赤い線が走り、内装を切り刻んで行く。
店の中の人々は車で突っ込んだ俺たちに注目し、筒を持った《ヴァーミリオン》が何なのか分からずに無視していた。
だから逃げることも無く何人もが赤い線に両断された。
そこでようやく悲鳴が上がる。
やっと何人かが逃げ始めた。
「なんだよ、あれは!」
「レーザー兵器だ。高出力のレーザーのブレードで何でも斬る」
「!」
実際にそういう光景を今目の前で見ていた。
あんな武器があるなんて知らない。
付近はもうもうと土埃と内装が燃えた煙が混じって視界が悪い。
その中を赤い光が拡縮しながら動いて行く。
空気中に舞った煙や粉塵にレーザーが当たって乱反射しているのだと理解した。
煙や粉塵の濃い部分で赤い光が乱反射で膨らんで見えているのだ。
レーザーは空気中の分子でも減衰するのだろう。
今は煙や埃が舞い上がっているのでますますだ。
「あれは見通しの良い場所で10メートルが射程限界だ。それ以上は急激に減衰する」
姉貴が説明してくれる。
姉貴と千堂さんは敵と煙などの塊を敵との間に挟んで移動しているので致命傷は負わない。
千堂さんが再び金属シートを俺に被せてくれる。
「頭を低くしていて下さい」
「はい!」
千堂さんが言いながら筒の多い銃を連射しているので敵も近づかない。
しかし店内にいた他の人間は何人も身体を両断されて行く。
姉貴が腰の刀を抜いて振るった。
敵の一人が爆発したようにバラバラになり吹っ飛ぶ。
それを見て、ますます敵は近づかない。
姉貴は他の敵を次々に倒していく。
千堂さんが赤い光に触れ、床に倒れた。
腹部から煙が上がっていた。
俺は慌てて棚から飾られていた服を取り、千堂さんの腹にかけて火を消した。
幸い煙を通過した後の光だったせいか、他の人間のように両断はされなかった。
俺は千堂さんの持っていた奇妙な銃を拾った。
姉貴たちは移動するのが危険と判断したか、広い店内のディスプレイ台の陰に身を潜めた。
千堂さんも引きずられて入る。
残っていた店員や客たちは何が起きているのか分からないままにビームソードに斬られて床に倒れて行く。
本当に現状が分からないので、避難することすらまだ始めていない人がまだいる。
「みんな逃げて!」
俺が叫ぶとようやく何人かが動き出し、すぐに雪崩のように部屋を出て行こうとした。
破壊されたウィンドウから、ゆっくりと誰かが入って来た。
両手に40センチほどの棒状のものを握っている。
あれがビームソードなのだろうか。
全身を黒い金属のようなものが多く付着し、頭部も金属製の仮面のようなもので覆われていた。
目の部分は蟹のように長く突き出ている。
姉貴が立ち上がって刀を振った。
金属蟹が高速で動く。
金属蟹がいた空間ごとが粉砕される。
同時に姉貴の方にもあのビームソードが伸び、姉貴の肩から煙が上がった。
姉貴は直撃は受けていないがかすったのだ。
姉貴はそれを無視している。
金属蟹たちの動きは恐ろしく速い。
まるで瞬間移動しているかのように、物陰に隠れながら攻撃して来る。
「姉貴!」
「来るな!」
破壊されたウィンドウから、また金属蟹が何体も入って来る。
姉貴が攻撃し、姉貴もまた攻撃を受ける。
一体の金属蟹が両断されたが、姉貴も足に攻撃を受けてよろめいた。
俺が飛び出して身体を支えて床に転がった。
姉貴の上に覆いかぶさる。
「宗三、どけ!」
どくわけがない。
姉貴が足の負傷をものともせずに俺に抱き着かせたまま立ち上がった。
姉貴が奇妙な動きをして剣を振ると、柱の向こうに隠れた金属蟹が柱ごと吹っ飛んだ。
だが、その瞬間に他の3体の金属蟹が一斉に動いた。
その時、金属蟹たちが霧散した。




