宗三 誘拐計画
仁桜姉と再会した3日後の金曜日。
「宗ちゃんゴメン、「組織」から呼ばれた。今日は一人で会社に行って」
「うん、分かった」
「一応来栖を近くにいさせる。ココロちゃんもいるから安全なはず」
「えーと、来栖君かぁー」
ちょっと来栖君は苦手だ。
俺のことを本気で守ろうとしてくれるのはありがたいが、ちょっと愛情が重い。
「じゃあ、あいつはちょっと離しておくね。気持ち悪いもんね」
「いや、そういうんじゃないけど。まあ、頼むよ」
「了解。私もすぐに戻るしー」
「うん、冴姫も気を付けて」
冴姫は先にマンションを出て、ヴォタンテで出掛けた。
少し後で俺は会社に向かう。
来栖君は近くにいるのだろうが、俺などには姿を見せない。
四谷駅でいつものようにユカリちゃんが上の改札口で待っていて、手を繋いで一緒にホームに降りた。
「今日は冴姫さんはいないんですね?」
「うん、ちょっと用事があって先に出たんだ」
「じゃあ、私と二人きりですね!」
「そうですね!」
ユカリちゃんはご機嫌で俺の手をブンブンして笑っていた。
丸の内線に乗って新宿三丁目駅まで楽しくお喋りし、ユカリちゃんと別れた。
次の新宿駅に降りると、突然目の前が真っ暗になった。
周囲の人間も何人か倒れるのが垣間見えた。
俺も立っていることが出来ずにくずおれ、誰かに腕を支えられた。
気分が悪い。
意識も曖昧になって物凄く眠い。
「大丈夫ですか?」
「すいません、急に眩暈が」
「こちらへ、病院へ運びましょう。用意してますから」
「すいません、ご迷惑を……」
思考能力も鈍ったようで、会話の不自然さにも気付かなかった。
突然大きな悲鳴が聞こえた。
人々が慌てて走る音がする。
「宗三さん!」
来栖君の声が聞こえた。
そこで意識が途切れた。
気が付くと大きなリムジンの中にいた。
隣の身体の大きな男性が俺の腕から注射器を抜いたのが見えた。
たった今意識を取り戻したことと、それが注射で薬物を入れられたせいだということを察した。
「宗三」
仁桜姉貴が目の前に座っていた。
特別製のリムジンらしく、身体の大きな姉貴が余裕でソファに腰掛けていた。
「姉貴……」
まだ気分が悪かった。
視界が歪む感覚がある。
「大丈夫だ、すぐに気分は良くなる」
「どうして……」
「お前を連れて行く」
「え?」
「あんな連中にお前を任せてはおけない。私がお前を守ってやる」
「何言ってんだ?」
姉貴が俺の隣に移動した。
入れ替わりに俺の隣にいた大男が前に移動する。
狭い車内で流れるような動作だった。
姉貴の2メートル10センチの巨体が華麗に俺の隣に収まる。
「お前の近くにいた男は一撃で沈黙した。死んだかもしれん。ココロは姿を見せないが、あんなゴキブリには何も出来ない」
「え、来栖君が!」
「あいつは姿の見えない相手には攻撃出来ない。所詮は三流だ」
「何やってんだよ、姉貴!」
姉貴が俺を抱き締めた。
その時、さっきまで俺の隣にいた大きな男が叫んだ。
「姐御、追手が来ます! アパッチ・ガーディアン編隊5機。2分で追いつきます」
「その辺で停めろ」
「アイサー!」
姉貴が俺の耳元で言った。
「宗三、済まない。あたしの敵だ。こないだアメリカと揉めた。度々刺客を送って来やがる。どうやらあたしが何かの作戦行動中だと勘違いしたんだろう」
「おい、大丈夫なのかよ!」
「たかが戦闘ヘリの5機だ。秒で始末してやる」
「!」
姉貴が車の外に出た。
その瞬間、姉貴が叫んだ。
「千堂、車を出せ! 急げ!」
姉貴を置いたまま、車が急発進した。
一度も姉貴に誰も問い質さなかった。
後ろで激しい爆発音が響いた。
最初に俺の隣にいた大男が言った。
「ミサイル攻撃です。あいつら、本気で市街戦をするつもりですね」
「姉貴は大丈夫なんですか!」
「アハハハハ! もちろんです。あの方を殺せる人間はこの世界にはいません」
「でも!」
その時、リムジンに衝撃があり、突然横転した。
ウィンドウが全て割れ、ルーフがひしゃげながら路面を回転していく。
だがある程度の歪み以上は変形せずに、俺は回転する中を大柄の男性に抱きかかえられた。
そのお陰で俺には怪我は無かった。
やっと車が引っ繰り返って止まり、大柄の男性は足でドアを蹴って無理矢理こじ開けた。
「宗三さん、ここから出てください」
「はい!」
俺は言われるままに這いつくばって車外へ出て行った。
リムジンの後方の路面に大きな穴が空いている。
リムジンはあれほど転がったのに、大して潰れてはいなかった。
俺は大柄の男に身体を倒された。
地面に顔をぶつける手前で、また太い腕に支えられる。
いつの間にか、大柄の男は手にライフルを持っていた。
運転席からももう一人這い出して、こちら側に回って来る。
その人もライフルを手に持っている。
「頭を低くして下さい。まだ攻撃が来ます」
「!」
「自分は千堂です。仁桜様の副官をしてます」
大柄の人が言った。
「そうですか!」
「宗三さんは必ずお守りします」
「はい!」
すぐに銃撃された。
何台かの車が少し離れた場所に停まっており、その脇から撃たれているようだ。
二人が車体の両端から応戦していく。
こちらの車体は弾が貫通しないが、千堂さんたちの弾はどんどん相手の車体を貫いて行く。
特別な銃と弾丸のようだった。
数分で銃撃は止んだ。
二人共優秀な兵士だと分かった。
「宗三さん、しばらくはここに。すぐに仁桜様が戻って来られます」
「あの、仁桜姉は! さっきものすごい爆発音がありましたけど!」
「大丈夫です。仁桜様を殺せる人間は地球上にいません。《人類最強》と言われている方です」
「でも!」
「先ほどの爆発はミサイルの撃破と同時に5機の攻撃ヘリを破壊したものです。仁桜様はもうこちらへ向かっています」
「でしたら迎えに行きましょうよ!」
「はい?」
「この車、まだ走れるんじゃないですか?」
「……」
「早く仁桜姉と合流した方が安心でしょう。ね?」
二人が笑った。
「流石は仁桜様の弟さんだ。その発想はありませんでしたね。確かにここいいては敵にまた囲まれる可能性もあります」
「試してみましょう。確かにこいつは頑丈に作られてます。パンクも無いようですしね」
「はい!」
二人が横転した車体の片側を持ち上げた。
相当な重さのはずだが、案外と簡単に倒れた。
物凄い力だ。
運転席にもう一人の人が入り、千堂さんという人が俺の身体の前に立って周囲を警戒した。
エンジン音がする。
「おい、本当に動くぞ!」
「でかい地雷だったけどな。奇跡だ、パンクもしてない。さあ、宗三さん乗って下さい」
俺も入ってリムジンは発進した。
路面の穴を迂回して、元来た道を戻って行く。
すぐに前方から物凄い速さで走って来る姉貴が見えた。
リムジンが停車する。
「おい、どうして戻った!」
「はい、宗三さんが姐御を迎えに行こうと」
「なんだと!」
「姐御のお傍が一番安全だろうと。我々も同意しました」
「ワハハハハハ! そうか! おい、全員頭を下げろ!」
俺は千堂さんに頭を押さえられた。
リムジンのルーフが落ちた。
姉貴が刀を鞘に収めるのが見えた。
「!」
姉貴が入って来て俺の隣にまた座った。
「宗三、無事か」
「う、うん」
「こっちも攻撃されたんだな」
「はい、地雷を使われました。ひっくり返ったんですが、エンジンは生きてました」
「そうか」
リムジンは走ってはいたが異音がする。
シャフトが曲がったか何かで金属同士がぶつかっている音だ。
「まだ来るぞ」
「はい」
姉貴が立ち上がり、刀を抜いた。
しばらくするとヘリコプターの音がする。
「今度はプレッシャーがでかい。《ヴァーミリオン》かもしれん」
「なんですと!」
なんだ?
急速にヘリの音が大きくなり、真上に来た。
姉貴が刀を振った。
ヘリが爆散する。
「来るぞ!」
爆発するヘリから何かが幾つも空中に飛び出して行くのが見えた。
姉貴がまた刀を振り、周囲の道路が陥没していく。
リムジンとその進路以外の路面が爆発するように粉砕して行く。
まだまだ戦闘は続くようだ。




