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押し掛けギャルは殲滅者  作者: 青夜
人類最強

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32/83

《人類最強》

 四年前。


 「神楽坂群長、「仁王会」の方が群長に面会を求めています」

 「分かった、通してくれ」


 自衛隊特殊作戦群は習志野に本部を持つが、群長である私は市ヶ谷の防衛省にいることが多い。

 そのことを知る人間も限られているが、仁桜はその数少ない人間の一人だ。

 神楽坂家の三人の子供の長女、私の妹であり、世界屈指の傭兵派遣会社「仁王会PMC」のオーナーだ。


 「周一郎兄貴、お久し振りです」

 「ああ、お前の活躍はよく耳にしているよ」

 

 私はソファに座らせ、紅茶を用意させた。

 仁桜は副官の千堂響を連れている。

 千堂はIQ200超えの作戦立案の天才であり、仁桜の右腕だ。

 身長が2メートルを超す巨体の仁桜が二人掛けのソファに座り、千堂はその後ろに立った。

 仁桜が腰を下ろすと、ソファにもう余裕が無くなる。

 私は向かいに座って、部下が運んで来た紅茶を勧めた。


 「ふーん、マリアージュフレールのSFTGFOP(※最高級品)か。随分と良いものを飲んでいるのね」

 「特別な来客用だよ」

 「あら、嬉しいわ」


 仁桜は香りを嗅いだ後で一口含み、笑顔を見せる。

 今は黒のレースのブラウスにベージュのパンツを履いている。

 ブラウスは半袖で、そこから疵が無数についた逞しい腕が見えている。

 カップを持つほんの僅かな動きで、腕の筋肉が凶悪に動くのが分かる。

 太い指が小さなカップを器用に扱っている。

 恐ろしい猛獣の雰囲気の中で、仁桜は美しい所作をする。


 「兄貴、宗三を預かるわ」


 仁桜が宗三を溺愛していることは分かっている。

 だから、今日も私にそういうことを言いに来たとも予想していた。


 「待て、まだ宗三がアレだと決まったわけではない」

 「もうほとんど決定でしょう。それにそうじゃなくても宗三は私が保護するよ」

 「それはダメだ。宗三は日本で生活させる。これは《トリポッド》の決定事項だ」

 

 仁桜も《トリポッド》に関わっているので宗三の情報を持っているのは分かっている。

 しかも宗三のことは積極的に集めていることも知っている。

 こいつは昔から宗三のことを可愛がって、《特異点》の可能性が高いことを知ってからは宗三を護衛することに執心してきた。

 「仁王会PMC」を立ち上げたのも、その目的のためだ。

 世界最強の軍隊を持ち、宗三を守るためなのだ。

 実際に「仁王会」は軍隊相手であれば、どんな状況でも宗三を守り抜くだろう。


 「あたし以上に宗三を守れる奴はいないわ」

 「そんなことはない。そのための準備も進められている」

 「無理よ。あたしならどんな敵でも撃破する」

 「分かっている」


 仁桜の実力は私も疑ってはいない。

 仁桜は剣術の遣い手であり、その戦闘力は銃火器をはるかに凌駕する。

 東北のある特殊な剣術家の家系の直系であり、幼い頃から天才的な才能を発揮してきた。

 むしろその天才は自らの成長にあり、戦車はおろか航空機をも撃破する実力にまで技を高めて来ている。

 その壮絶な攻撃力だけではない。

 仁桜は更に索敵能力も防御力も優れている。

 ワンマンアーミーどころか、仁桜を斃せる人間は存在しない。



 《人類最強》



 それが仁桜だった。


 「あたしが神楽坂家に入ったのも、宗三を守るためだよ」

 「知っている。確かにお前はその才能を見込まれて宗三のために神楽坂の養子に入った。だが状況が変わったのだ」

 「何言ってるの! 宗三は私のもんだよ!」

 「《能力者》の進化が著しい。それも宗三の力によって目覚めたのだ」

 「無駄だよ! あたしが一番強い! 誰もあたしには敵わない!」


 仁桜が激高している。

 無理も無いことだが、私はリアリストだ。


 「一人突出した戦闘力を持った者がいる。将来的にはお前をも遙かに凌駕する可能性がある」

 「そんな奴いるわけがねぇ!」


 仁桜がソーサーに置かれたティスプーンを一閃させた。

 分厚い欅の応接テーブルが両断される。

 断面は磨き上げられたもののように滑らかだ。

 刃物ではないのだ。

 仁桜の剣技はどんな得物でも凄まじい威力を発揮する。


 「兄貴のことは尊敬してるし信頼もしてる。でも、宗三のことに関してだけは絶対に退かない。あたしが宗三を引き取るよ」

 「冴姫という子供だ」


 私は仁桜の言葉を無視して言った。


 「サキ?」

 「冴えわたる姫だ。《トリポッド》が開発した超兵器を高速で扱い、それを格納して自在に出現させる」

 「あの《超次元格納》とかって能力? 実際に使える奴が出て来たの?」

 「そうだ。冴姫がいれば宗三は安全だ。仁桜、お前といるよりもな」

 「それは無ぇんだよ!」


 仁桜が立ち上がって叫んだ。


 「あたしにそいつと勝負させろ! 兄貴の目の前でぶっ潰して引きずって来てやる!」

 「分かった」

 「!」


 私があっさりと認めたので、逆に仁桜が驚いていた。

 だが仁桜を納得させるのは、それが一番いいだろうと私は考えていた。

 《人類最強》の仁桜は誰にも止められない。

 

 「モザンビークの天然ガスを巡ってイタリアと中東の幾つかの国が侵攻を企んでいる。日本は正式に落札してプラント事業に参画しているので、そいつらを排除しなければならない」

 「知ってる。中央建設が関わっている件だね。イタリアのサインパー社が独占したいのかな?」

 

 仁桜は最強の戦闘力を有しているが、それは高度な知性が裏付けしているものとも言える。

 だから世界史にも詳しいし、現在の世界情勢にも通じている。

 その知性でもって新興の「仁王会PMC」は名だたる同業の傭兵派遣会社に肩を並べるのに数年も掛からなかったのだ。

 もちろん仁桜の超絶の戦闘力があってのことでもあるのだが。


 「詳細は追って連絡する。冴姫も向かわせるので、お前自身で確認しろ」

 「それはぶっ殺してもいいってことか?」



 「もちろんだ」



 俺が言うと、仁桜が獰猛に笑って部屋を出て行った。

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