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押し掛けギャルは殲滅者  作者: 青夜
人類最強

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31/83

仁桜

 出勤のためマンションを出ると、離れた場所から呼ばれた。

 女性の声だ。


 「宗三!」


 姿は見えなかったが、その声は随分と遠くからだということは分かった。

 冴姫がすぐに周囲を警戒する。


 「宗三!」


 二度目に呼ばれ、その時、俺は聞き覚えのある声だと気付いた。

 それを思い出した瞬間、突然誰かに後ろから抱き上げられる。

 冴姫が反応しなかったので驚いた。

 誰であっても、俺に対してそんなことを冴姫がさせるわけがない。

 俺が慌てて抵抗しようとすると、顔中にキスをされた。

 冴姫が呆れた声で言う。


 「仁桜におうさん、おふざけが過ぎますよ」

 「冴姫じゃん、やっぱお前が本当に宗三のガードに就いてるんだな?」

 「ええ、そうです」

 

 真っ赤なジーンズに大き目のカラフルなペイズリー柄のシルクのブラウス、その上に赤の薄手の革ジャンを着ている。

 そして物騒なことに腰に日本刀を提げていた。

 俺は抱きかかえられながら言った。


 「仁桜姉!」

 「よう、宗三、久し振り!」


 俺の姉貴だった。

 周一郎兄貴、仁桜姉貴、そして俺だ。

 三人兄弟の末っ子が俺だった。

 仁桜姉は剣術の達人で、今は傭兵会社を設立して世界中の戦場を駆け巡っている。

 しかも仁桜姉貴は銃火器を使わずに、日本刀で戦うのだと聞いている。

 俺もよくは知らないが、軍関係の業界では相当恐れられている存在だそうだ。

 まあ、聞いたのは本人からなので実際は知らないのだが。

 でも以前に見せてもらった姉貴の剣技は、50メートル離れたトラックを両断していた。

 どういう理屈かさっぱり分からん。


 「冴姫、しっかり宗三を守れよ!」

 「すいません。仁桜さんだと分かってましたので」

 「誤魔化すんじゃねぇ! 万一敵だったらどうすんだよ!」

 「絶対に宗三は守ります」

 「ふん! 口だけなら何とでも言えるぜ!」


 姉貴が冴姫と知り合いなのは知らなかったが、姉貴も裏稼業と言ってもいい仕事だ。

 何らかの接点があったのだろう。

 周一郎兄も二人の共通点だし。

 姉貴は俺の身体を地面に降ろして、改めて抱き着いて来た。

 身長2メートル10センチの巨漢で、筋肉の発達が凄まじい。

 体重は聞いたことが無いが、優に100キロを超えているだろう。

 仁桜姉の大きな胸の中に顔が埋まり、太い両手で背中や顔を撫でられまくる。

 そしてまた顔中にキスをされ、唇から舌を入れられる。

 俺のファーストキスは、とっくに仁桜姉に奪われている。


 「ちょ、ちょっと姉貴、勘弁してくれぇ!」

 「なんだよ、恥ずかしがるなよ! 兄弟じゃねぇか!」

 「だから不味いんだろうがぁ!」


 まあ、ひ弱な俺に抵抗出来るわけもなく、いつも姉貴のされるがままだった。

 数分も姉貴にいいようにされ、ようやく話が出来た。


 「姉貴、日本に戻ってたんだ」

 「ああ、周一郎兄から聞いてな。やっぱり宗三がとんでもないことになったんだな」

 「うん、そうらしいよ」


 《特異点》という単語は使われなかった。

 当然姉貴も分かっているのだろう。


 「だからあたしが来た。それに先週は「関東旧車會」とモメたんだろ?」


 あれは世間には出回っていない事件だ。

 中野坂上の激しい戦闘も、単にテロ組織が事件を起こしたということになっている。

 テロ組織については現在調査中だと。

 公表ではもう全員が捕まり、もう安全だと言われている。

 でも姉貴は正確な情報を掴んでいるようだ。


 「よく知ってるな。でも大丈夫だよ。冴姫たちが万事片付けてくれた」

 「他にもあったら言えよ。速攻でぶっ潰してやる」

 「いや、別にねぇから!」


 姉貴は冴姫に向いて言った。


 「おめぇ、宗三を危険な目に遭わせたんだってな?」


 そんなことまで知っているのか。


 「申し訳ありません」

 「違うよ! ちゃんと冴姫の仲間が助けに来てくれたって! ココロちゃんに俺は助けられたんだよ!」

 「こころ? ああ、あの気味の悪い不死身の化け物か。まあ、あいつが幾ら死んでも問題ねぇけどな。でも宗三を守れなければ意味はねぇ」

 「おい、仁桜姉貴! ココロちゃんは命懸けで俺を守ってくれたんだぞ!」

 「ふん、まあいい。あたしはお前が無事ならそれでいいからな。冴姫がトロいことやってるから、あたしがお前を連れて行くぜ!」

 「待てよ、姉貴!」


 出社の時間が迫っている。


 「とにかく俺は大丈夫だから。姉貴はいつまで日本にいられるの?」

 「まあ1週間だな。ちょっと用事を片付けてその後は宗三、あたしと一緒に来い」

 「えぇ!」

 「あたしがこれからずっとお前を守ってやる。絶対だ、安心しろ」

 「おい!」


 慌てて俺は冴姫を見た。

 冴姫は平然としている。

 てっきり冴姫が爆発するかと心配したが。


 「姉貴、俺は冴姫と一緒にいるんだよ。何言ってんだ」

 「こんなわけの分からん奴に大事なお前を任せられねぇよ」

 「何言ってんだ。この件は周一郎兄貴からも言われてるんだぞ!」

 「周兄はあたしが説得する。うちの《仁王会》に来れば誰も手が出せねぇよ」

 「無茶苦茶だぜ!」


 姉貴は笑っている。

 この人は昔から決めたら動かない。

 そして堅い意志もあるが、実行力も十二分にある人だ。


 「仁桜さん、勝手は困りますよ」

 「あ? お前、口出すんじゃねぇよ」


 姉貴が恐ろしい顔をして冴姫に言った。

 物凄い威圧で、向けられていない俺まで身体が強張る。


 「宗三のことに関しちゃ黙ってられません。私が宗三を守るって決めてるんで」

 「お前何言ってんだ? おい、誰にもの言ってんだよ!」


 姉貴の雰囲気が変わった。

 瞬間に刀が抜かれ、俺が気付いた時には冴姫の首に刃先が伸びていた。

 何故かちょっと鼓膜が痛んで耳を押さえた。



 ガシャンカシャン



 日本刀が粉砕して破片が地面に落ちた。


 「仁桜さん、じゃあ、これから会社に行くんで失礼します」

 「……」


 冴姫が何もなかったかのような顔で、俺の手を引いて歩き出した。

 姉貴を振り返ると右手を押さえて黙って立っていた。

 そのまま冴姫に連れられ離れて行く。





 「おい、大丈夫なのか!」

 「うん、手加減はしたよ。宗ちゃんのお姉さんだからね」

 「そうじゃねぇよ、冴姫のことだ!」

 「え? あ、ああ、私は大丈夫。超震動で対処したからね。仁桜さんの剣技はあんなものじゃないけど、あの人も手加減してくれたんだよ」

 「姉貴の剣技は化け物じみてるからな。気を付けてくれ」

 「うん、ありがと!」


 姉貴は追っては来なかった。

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