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押し掛けギャルは殲滅者  作者: 青夜
関東旧車會

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30/82

終結

 市ヶ谷の防衛省に戻った。

 宗ちゃんもすぐに来栖が連れて来るはずだ。

 やはり宗ちゃんも襲われたことは知っている。

 そのために来栖を傍に置いたのだ。

 来栖は期待通りに殲滅してくれたようだ。

 あいつの戦闘力を疑ったことはない。

 私がいなければ、もしかしたら来栖が《殲滅者》になったかもしれない。

 来栖の《サンタ・クルス》は全ての物質を十字に斬り裂く能力だ。

 分子結合を崩壊させる攻撃で、来栖の視界に入った全てに作用する。

 私の《超次元格納》と同様に量子兵器の一つだ。

 日本の量子力学の発展は、精神領域との関わりに迫りつつある。

 それに来栖にはもっと大きな能力もある。


 ゲートの門番は私のヴォタンテを見た瞬間にゲートを開いた。

 もう連絡が行き渡っている。

 流石は周一郎さんだ。

 いつもの駐車場に停め、IDカードを持って車を降りた。

 周一郎さんの部屋のある建物へ向かう。

 丁度来栖の車も入って来た。

 プリウスにアニメのアイドルグループの絵を描いたイタ車だ。

 あいつ、宗ちゃんをこんな車に乗せやがってぇ!


 「宗ちゃん!」

 「冴姫、無事だったか!」

 「もっちろん!」

 「ココロちゃんも?」

 「全然無傷だよ」

 「あの、お、終わったのか?」

 「うん、全部片付いた。連中はココロちゃんが引き取ってこれから「手当」を受けさせる」

 「そ、そうかあ! 生きてるんだな!」


 宗ちゃんが喜んだ。

 全員死んだと思って気にしてたんだろう。

 今生きているのは5人だけで、情報を抜いたらココロちゃんが「釘打ちの刑」で殺すのだが。


 「冴姫、こっちにもやっぱ来たぞ」

 「ふーん、宗ちゃんには近づけなかったでしょうね」

 「も、もちろんだ」

 「宗ちゃん、ほんとに?」

 「うん。ナースに変装して来た人がいるけど、来栖君が目の前で……」

 

 私が来栖をぶっ飛ばした。

 イタ車にぶつかる。

 来栖は器用に身を捻ってイタ車に疵は付かない。

 あいつはこんなダサ車を大事にしてる。


 「てっめぇ! 宗ちゃんに敵を近付けたのかよぉ!」

 「ち、違う! 本物のナースが来た可能性も!」

 「宗ちゃんにお前の技を見せたのかぁ!」

 「しょうがないだろう! あいつチャカ持ってやがったんだ!」

 

 怒り狂う私を宗ちゃんが抱き締めて止めた。


 「冴姫、来栖君はちゃんとやってくれたよ。物凄い戦いだったんだ。俺は部屋にいて見なかったけど、たくさんの死体が……」

 

 私も宗ちゃんを抱き締めた。


 「そう、じゃあいいよ。来栖に任せたあたしが悪いんだ。宗ちゃん、ごめんね?」

 「い、いやいいんだよ! 来栖君は本当に頼りになるって」

 「おい、来栖、宗ちゃんに感謝しろよな」

 「ケッ! あ、宗三さん、ありがとっす!」


 三人で建物の中へ入った。




 周一郎さんが部屋で待っていた。


 「御苦労、全て終わったようだな」

 「ええ、《裏鬼》の人たちは大丈夫ですか?」

 「ああ。冴姫たちの実力は見れなかったんで残念がっていたけどな」

 「そうですか。いずれ一緒に戦うこともあるでしょう。今日は本当に助かりましたよ。お陰で随分と楽に戦えました」

 「そうか」


 《裏鬼》は周一郎さんの「特殊作戦群」に所属する隠密部隊だ。

 自衛隊の中で最優秀の人間たちで、全員が戸籍を消し極秘に海外で非正規戦闘を経験している。

 実力は間違いなく世界最強で、日本の《能力者》を《裏鬼》たちだと考えている人間も多い。


 「一応「関東旧車會」が桁外れの武装をしていると我々が掴んだという流れにしてある。もうココロがロシアとの繋がりを吐かせたから、そのストーリーで収まるだろう」

 「そうですか。ロシアはどう出ますか?」

 「まだ動かんだろうな。「関東旧車會」との関係は絶対に認めないし、あいつらは日本国内でのテロ活動の布石を喪った。それに今は北欧のウラン鉱脈の確保に手いっぱいだ。まだロシアの《能力者》は観測されていないが、正規軍の侵攻がNATO各国の反撃で難しい局面だ」

 「《能力者》が出ればすぐに観測されますよね」

 「そういうことだ。まあ、今回は偶然とは言え、「関東旧車會」を潰すことが出来た」


 私が気になっていたことを周一郎さんに質問した。

 前にも聞いたことがあるが、周一郎さんには止められたことだ。

 でも今は宗ちゃんがおり、宗ちゃん自身にも少し聞かせておきたいと思った。


 「周一郎さん、これも宗三のせいですか?」


 宗ちゃんが驚いて私を見た。

 周一郎さんも私の意図を汲んで話してくれた。


 「分からない。でもその可能性はある。宗三は他人に多大な影響を与える可能性が非常に高い。今回はそれが事象にまで及んだ可能性は否定できない」

 「おい、兄貴! それってどういうことだよ!」

 

 宗ちゃんが叫んだ。

 無理も無い。


 「分からんよ、今言った通りにな。でもお前に関わった人間、特にお前が気に入って親しくした人間は大きく変わっている」

 「あ、あの量子コンピューターの人とか?」

 「そうだ、古川教授もその一人だ。他にも大勢いる」

 「お、大勢って……」

 「お前が気にすることは無い。でも、だからお前を隔離せずにある程度自由に行動させることに決まったのだ。今後もお前が出会った人間に影響が及ぶこともあるだろうからな」

 「そんな、俺は別に……」

 「だから気にするな。その人間にとって悪いことなどは無いことは確かだ。むしろその人間を大きく飛躍させるというかな」

 「そうか、そうなのか……」


 宗ちゃんは考え込んでいたが、やがて顔を上げて笑った。


 「まあいっか! 別に俺が何かをするわけじゃないしな!」

 「そうだよ、宗ちゃん。気楽にいこ!」

 「うん!」


 宗ちゃんは純粋だ。

 昔からそうだった。

 目の前の人間を大事にしていくだけの人だ。


 でも、本人が全く考えもしない影響力を持っている。

 和田商事も今後変わっていくのだろう。

 宗ちゃんが大事にしているあの子もきっと……





 宗ちゃんと一緒に帰った。

 別れ際、来栖が宗ちゃんに抱き着こうとしたので吹っ飛ばした。

 優しい宗ちゃんは来栖に手を振って「またね」と言った。

 来栖が地面から起き上がって嬉しそうに笑いやがった。


 マンションで夕食後、宗ちゃんがベランダに出た。

 宗ちゃんはベランダに出るのが好きで、テーブルと椅子が置いてある。

 ここのベランダはちょっとだけ広い。

 もちろん常に宗ちゃんの安全は私たちが確保している。


 「宗ちゃん……」

 

 宗ちゃんは椅子に座って遠くを眺めていた。


 「冴姫、おつかれさま」

 「ううん、宗ちゃん、大丈夫?」

 「ああ、ちょっと疲れたな。まあ、大変だったのは冴姫たちなんだけどな」

 「そんなこと。宗ちゃんはいろいろとびっくりしたでしょ?」

 「そりゃそうだ! 俺、喧嘩もしたことないのにいきなり戦争だよ! 何がなんだか分からないよ!」

 「アハハハハハ!」


 宗ちゃんは確かにいろいろ大変だったけど、意外と落ち着いている。

 普通の人間であれば、ショックで寝込むこともあるだろうに。

 でも宗ちゃんはすぐに日常に戻り、いつものように過ごしている。

 やはり宗ちゃんは特別なのだ。

 顔には出さないが、私は密かにそのことを心配している。


 「俺、なんだかペットの犬かなんかみたいだよなぁ」

 「なんじゃそりゃ」


 おかしくて私が笑った。


 「だってさ、理由も分からずにあちこち連れ回されてさ! それでいて身の安全は保障されてるんだぜ」

 「アハハハハハ!」


 宗ちゃんが犬の遠吠えをした。


 「アオォォーーーーン!」



 アオォォーーーン



 どこからか犬が遠吠えするのが聞こえて来た。


 「返事が来たぁ!」

 「ギャハハハハハハハ! ウケるぅ!」

 

 「アオォォーーーーン!」



 アオォォーーーン

 アオォォーーーン

 アオォォーーーン……



 今度はマンションの幾つかの部屋から遠吠えが響き、周囲の家からも聞こえて来た。


 「宗ちゃん、これで寂しくないね!」

 「そうだな!」


 二人で笑った。

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