大暴落
阿鼻叫喚が響きわたる一週間だった。
7月2日。日経平均株価が一日で2,216円もの下げは、下げ幅としては歴代二位だとか。
その前日も1,000円近く下げた。
7月11日に4万2224円の史上最高値をつけてからの3万5909円だから、二十日ほどで6,300円、実に15%ほど下げたことになる。
後輩男子の銀縁眼鏡は、
「売ってください、売ってください、全部売ってください」
と大騒ぎ。顧問が「落ち着きなさい」と一喝したものの、騒ぎ続けたので、顧問も諦めたのか、言うとおり全てを成行で売っ払ってしまった。相当の損が実現したようで、スマホを凝視しながら「なんでもっと早く売らなかったんだろう」などと愚痴愚痴言っている。
のっぽの後輩女子は恬然としたもので、ひとつには先日のTOBで現金化して、手元資金が膨らんでいるからだろう。むしろ下がった株価をひとつひとつ見ながら、投資対象を物色している。どこまで下がるかわからないなどと売った後も落ちつかない男とは対照的だ。
わたしは。
2024年8月2日現在 わたしのポートフォリオ
・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 2,000株 買値319.8円 株価376.1円 時価752,200円 含み益112,600円
・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価2,076.5円 時価415,300円 含み益109,300円
・3445 RS Technologies 200株 買値3,200円 株価2,975円 時価595,000円 含み益▲45,000円
・5888 DAIWA CYCLE 200株 買値1,800円 株価2,858円 時価571,600円 含み益211,600円
・7134 アップガレージグループ 800株 買値835円 株価965円 時価772,000円 含み益104,000円
・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,516円 時価606,400円 含み益179,600円
現金 28,699円
時価総額 3,741,199円 含み益741,199円 含み益率25%
先週末の含み益がちょうど100万円ほどだったので、含み益が25%減ったことになる。資産全体では6.5%程の減少だ。
個人的に意外だったのは、三菱UFJフィナンシャルグループまで下がったこと。7月2日の一日だけで12%も下がっている。日経平均株価の下げが5.8%だから、下げ率は遥かに大きい。
今回の暴落のきっかけは、日銀が利上げを決定したことと言われる。
銀行は預金金利を上げることを決め、住宅ローン金利も上げる。米国が利下げを示唆したこともあり、為替は円高になった。これで、輸出企業の業績悪化が懸念され、円安で潤っていたインバウンド需要の減退が意識され、さらには米国の景気後退懸念まで加味されて・・・と悪材料が連鎖した模様だ。とは言え、日銀の利上げが遠からず実施されることは想定内だったし、インフレ対策や行き過ぎた円安を是正するためにも利上げは必要とも言われていた。日銀の財政引き締めが株安を齎したというのもどうなんだろう。高校生のわたしには不思議な印象しかない。
普通に考えれば、利上げは銀行の収益を改善させるから、銀行の株価にはプラス要因のはずだが、景気が後退すれば元の木阿弥と言わんばかりの展開だ。パニックになって換金を急ぐ人たちには利益が膨らんだ銀行株が損失の穴埋めに最適だったのかもしれません、とは顧問の弁。
「この先、どうなるの?」
かわいい人が顧問に聞く。
「どうなるんでしょうねえ」
未来のことなど誰にもわからないが口癖の顧問にそんなことを聞いても、と感じたが、顧問は意外なことを言った。
「どうなるにせよ、あなたたちはラッキーですよ」
「ラッキー? なにが?」
「暴落はそうそう起こるものではないですから。前回は2020年の3月でしたっけ。コロナウイルスが世界中に蔓延して、移動制限で経済がボロボロになったとき以来になるかもしれません」
「それのなにがラッキーなの?」
「投資はうまくゆくことばかりではないですから。痛い目に遭えば、色々な気づきがあるでしょう。それに暴落したときが買いのチャンスでもあるわけで。味噌もクソも一緒に下がりますからね」
「味噌って銀行株のこと?」
「それを判断するのは人それぞれです。なにが正解かなんて、誰にもわかりませんから」
ふたりのやり取りを聞きながら、こういうときに投資できる余力があればと思った。
フルインベストメントのわたしの場合、味噌を買うことができない。
こういうときにカネがないのは辛いな、と思った。
この先、株価は反転するのか、さらに下落するのか知らないが、安値で仕入れることができない。
一定額は相場が崩れたときの軍資金としてキープする必要性を感じる。
「ダブルインバース買っとけばよかったかな」
かわいい人は、そうも呟いた。
インバースとは、株価指数が下がれば逆に上がる金融商品で、ダブルインバースだと下がった分の二倍上がってくれる。
結果を知れば、買っておけばよかったと思うのは投資の常で、ダブルインバースを買って、株価上昇が続けば逆に大損することになるから、なかなか難しい。株価下落に対するヘッジぐらいに考え、7月頭の急騰時に買って、今回のような暴落で処分すればいいのだろうが、短期のタイミング勝負の取引は口で言うほど簡単ではないと思われる。
顧問の言う味噌もクソも一緒に下がるを、わたしなりに考える味噌で言えば、
6861 キーエンスは直近高値の77,000円から60,430円まで20%下がった。PERは36倍となお低くはないが、営業利益率50%、自己資本比率95%で増収増益を続けるこの会社の株主になるには、いい機会だと思う。無論、この規模の会社がPER36倍を許容されるのかはわからない。36%増益を果たすのは易しくないと思われる。だから、まだ下がる余地はあると言える。しかし、仮にもっと下がれば、味噌の味はますます濃くなるだろう。
9983 ファーストリテイリングは年初来高値48,000円から40,340円になった。16%下がった。
6146 ディスコは68,850円から44,600円へ35%下がった。
3769 GMOペイメントゲートウェイは10,865円から7,635円へ30%下がった。
資本さえあれば。
全くそう思う。上がったとは言え、今なら低利で資金調達できる。残念なことに女子高生のわたしにはなんの信用もない。
投資機会を探る企業にとっては、株価暴落や景気低迷は決してわるい話ばかりではない。
とは、こういうことなのだろう。
漠然とながら、ではあるが、肌感覚としてわかったように思った。
日銀の利上げとFRBの利下げ方針。急激な円安から一転して円高。そして米国景気の後退懸念。
パリオリンピックで世界が浮き立つ中で進む経済の激変を、株式投資部にいるわたしは見ていた。




