大暴落して暴騰して
阿鼻叫喚は収まらなかった。
8月5日。日経平均株価は史上最大の下げ幅を記録した。金曜日の2,216円もの下げを遥かに上回る4,451円の下げ。下げ幅としては過去最大を更新、下げ率としても歴代2位だったとか。
7月11日に4万2224円の史上最高値をつけてからの3万1,458円だから、このひと月足らずで10,000円以上、実に25%以上も下げたことになる。
「売ってください、売ってください、全部売ってください」
と大騒ぎして、損まで出して持ち株全てを処分した後輩男子は「売っ払って、よかったあ」と、ガッツポーズでもするかの勢い。
「やっぱ、流れに逆らっても、どうにもならないですよ」
と、なんだかわかったような言い方までした。
のっぽの後輩女子はTOBで膨らんだ軍資金をどこに投資するかで物色を続けていた。
彼女にとっての僥倖は、5日の下げは午後からがひどかったこと。
「こんなときはありえないところまで下がるかもしれません」と言った顧問の一言に呼応して、かなりの安値に指して買いを入れた。その悉くを買えたというのだ。
わたしは。
軍資金がないため、指をくわえて眺めているだけだった。
ただ、持ち株の悉くがどんどん値を消してゆくさまには、恐怖さえ感じた。一時100万円を超えていた含み益が消えようとしている。
驚きは三菱UFJフィナンシャルグループの大幅下落。今回の暴落のきっかけは、日銀が利上げを決定したことと言われる。普通に考えれば、利上げは銀行の収益を改善させるから、銀行の株価にはプラス要因のはずだが、5日は1,200円まで下がった。ついひと月前に1,850円をつけていただけに、三分の一が消し飛んだ形。PBRは当然1倍を割り込んでしまった。
NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信もひどかった。これまたついひと月前に410円だったのが、340円割れ。円高に加え、インド経済の先行きが不安視されたためだとか。為替はともかく、誰がインド経済の未来に疑問を持つと言うのか。市場が崩壊するときはなんでもかんでもみんな下がるのだと、改めて感じた。
アップガレージグループも底割れした。815円まで下がった。7月中は1,000円を恒に超えていた株が、まさか買値を下回るとは思わなかった。
RS Technologiesは半導体関連銘柄の世界的株安の流れに直撃されたか、2,600円まで落ちた。買値からは2割近い下げで、ポートフォリオを痛めている。
この会社、有利子負債を除いた現金同等物だけで、ひと株あたり2,432円ある。株価2,600円とは、現金同等物以外のこの会社の価値がひと株あたり167円ちょっとしかないことを意味する。
増収増益を続ける会社の価値が、保有現金を除けば167円。今期見込みEPSは288円だから、ひと株あたり288円を稼ぐ会社が167円で取引されているみたいなものだ。と、わたしは考えた。
「追加資金の供与を受けることはできないか」
思い切って問うと、顧問は少し驚いたようなかおをしてから笑った。
「そう思う人は少なくないでしょう。カネさえあればと思うのは、なにも投資家に限らない。企業経営者だって、今がチャンスと思いながら、カネがないから断念する、この規模までしか投資できないと歯軋りする人はいっぱいいるでしょう。お金はね、有限なんですよ。投資は有限のお金をどう増やすのかのゲームです。ある日突然どこからともなく資金が湧いてくるなら、ゲームになりません」
わかったことを丁寧に語られるのは気分のいいものではない。こちらとしては、そんなこと理解した上で軽く問うたに過ぎない。
「できないと理解した」
と返事したわたしに「怖いですか」と顧問は問うた。
「怖いとは?」
「そんな落ちつかないあなたを見るのは初めてですから」
憮然とした。余計なお世話だ。どうもこの顧問とはそりが合わない。ただ、市場の激変に感情の昂ぶりが伴うことは、大いに自覚させられた。頭では冷静になれと言いながら、衝動が神経を惑わせる。あと先考えずに動くことは愚かだが、想定外の混乱が判断力を削り取ってゆく。場数を踏めぱ、判断するための様々な引出しをもつことができるのだろうが、わたしにはまだ経験が1年少ししかない。
釜の底が抜けたような暴落は、果てしなく続くように思われた。
金曜日に記録的大暴落したことから、月曜日は幾らかでも戻すのかと思われたのに、蓋を開けてみれば、金曜日を遥かに超えた史上最大幅の大暴落。お金さえあればわたしが欲しいと思う銘柄では。
6861 キーエンスは直近高値の77,000円から52,430円まで30%以上下がった。
9983 ファーストリテイリングは年初来高値48,000円から35,140円になった。25%以上下がった。
6146 ディスコは68,850円から37,600円へ45%下がった。
3769 GMOペイメントゲートウェイは10,865円から7,291円へ33%下がった。
指値が悉くかかって目いっぱい株式を買えてしまったのっぽの後輩女子に、銀縁眼鏡の後輩男子は「早まったんじゃね?」と言った。
「あー、やっぱ、そー思う?」
「これ、どこまで下がるかわかんねえぞ」
ネットでは悲観論が渦巻いていた。陰謀論まである。
「だよねえ。あー、なんかこうスイスイ買えちゃうなんてえ、なんかおかしーよね」
「売ったほーがいーんじゃね?」
「えー、売るのお?」
「まだ下がるって。損する前に売ったほうがいいって」
「えー」
歴史を作った大暴落の翌日。
「悲観は株式投資の友」という記事が日経新聞に載った。
「株式投資にとって悲観は友、陶酔は敵だ」と言ったのは、著名投資家ウォーレン・バフェット氏だという。そして「今は多くの銘柄が滅多に見られないバーゲンセールで売り出されている」と。
はたして、その日は一転して記録的暴騰となり、31,458円から34,675円まで3,200円以上も上がった。
「こんなの騙し上げだ」
今やすっかり悲観論者になった銀縁眼鏡は、同級生女子に「今こそ売りどき」と盛んに売りを推奨する。
「こらこら少年、人に売買を強要したらダメだぞお」
くりんくりんの髪を揺らして、かわいい先輩が陰気な後輩をたしなめる。
「でも、むざむざ損するのを見てるわけにはゆきません!」
先輩は少し呆気にとられたようなかおをしてから、ころころと笑った。
「少年は未来が見えるのかな」
「なわけないでしょう」
「じゃあどーして今が売りどきだと言えるのかな?」
「だって、今は下降トレンドの真っ只中ですよ。反動買いで戻ってる今しか売る時はありませんって!」
かわいい人は吹き出した。怪訝なかおをする男子に
「あ、ごめんごめん、下降トレンドなんて難しい言葉使うもんだから」
と両手を合わせた。
「でもね、少年。底打ったかもしんないよ。あんな暴落、そうそうない。暴落のあとは上がるもんだよ、普通はね」
「え? そうなんすか?」
「だから、わかんないって言ってるじゃん。少年が言うとおり、まだ下がるかもしんないし、これで底打ちかもしんない。どう判断するかは人それぞれ。やっちゃいけないのは、誰かに考えを押し付けることと、誰かの考えを鵜呑みにすること」
「そっかあ、こっから上がるんかあ」
「ん?」
「ようし、買うぞー。ひろこ先輩、ありがとうございます!」
かわいい人は男の先輩の顔を見た。男の先輩は右手をひらひらと振った。関わるなと伝えていた。かわいい人は小さく頷いた。
今週は8日に宮崎で地震があった。
そこそこ大きな地震であったが、起きた場所が南海トラフの想定震源域に含まれていたことから、地震そのものより、今後の誘発地震の警戒に注意が向けられた。東海道新幹線は静岡県内での徐行運転を決め、紀勢本線の特急列車はしばらく運休するという。海水浴場には閉鎖されたところもある。太平洋沿岸の宿泊施設ではキャンセルが相次いだ。
9日夜には神奈川県が揺れた。お盆休み前の週末の帰宅客と帰省客を直撃した。
宮崎の地震との関連性はないと想定される。とは専門家の話ではあったが、昨日の今日の地震が首都圏で起こったことで、首都圏の人たちの危機意識が一気に高まったように感じる。防災備品や水が店頭から消えた。
月曜日に史上最大幅の下落をし、火曜日に記録的な暴騰となった日経平均株価は、その後、大した値動きもなく、前週末900円安の水準で終えた。
夏の決算発表が本格化している。市場全体の動きに関係なく、順調な業績を続けている企業を発掘したいと思う。
2024年8月9日現在 わたしのポートフォリオ
・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 2,000株 買値319.8円 株価362.2円 時価724,400円 含み益84,800円
・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価2,050.5円 時価410,100円 含み益104,100円
・3445 RS Technologies 200株 買値3,200円 株価2,937円 時価587,400円 含み益▲52,600円
・5888 DAIWA CYCLE 200株 買値1,800円 株価2,852円 時価570,400円 含み益210,400円
・7134 アップガレージグループ 800株 買値835円 株価905円 時価724,000円 含み益56,000円
・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,410.5円 時価564,200円 含み益137,400円
現金 28,699円
時価総額 3,609,199円 含み益609,199円 含み益率20%




