含み益100万円超え
銀縁眼鏡の後輩男子は、ちょっと頭でっかちなところがある。
彼は部室に置かれた日経新聞を丹念に読む。四季報も丹念に見る。いずれも顧問がしっかり見るべきだと言ったからだと思われるが、書かれている記事を素直に受け止めすぎるきらいがある。例えば。
「とある銘柄の株価が上がっている」
という記事の中に、その銘柄を保有するファンド担当者のコメントが添えられていることがある。その投資理由はともかく、「まだ上昇余地はある」「PERは◯◯としては決して高くない」などのコメントがあったりする。
「日経新聞にそう書いてあるので、この株は有望だと思います」
真面目くさった目をして言われると、大丈夫かと思ってしまう。
日経新聞が言ってるのではなく、ファンド担当者が言ってると報じているにすぎない。
その銘柄が上がった理由は「後付け」なのだから、なんとでも言える。
「まだ上昇余地はある」とは、どの程度の上昇幅が見込んで言ってるのか。そう言うことで、上がってしまった株の買い手を求めているだけかもしれない。
「◯◯としてはPERは高くない」に至っては、PERはすでに高くなったと言ってるに等しい。
「新聞に書いていることは間違いってことですか?」
「間違いではない」
「でも、騙そうとしてるってことですよね?」
「新聞は客観的にこの銘柄の株価が上がった、この銘柄を保有するファンド担当者がどう言ってるを報じているにすぎない。決してこの銘柄を推奨しているわけではない」
「じゃあ、気をつけろと言ってるってことですか?」
「それは飛躍。今後、株価がどうなるかなど、神のみぞ知る。誰もわからないことを、わかったかのように書けるわけがない」
「じゃあ、どうしろって言うんですか」
「自分の頭で考える。いつもそう。判断を人に任せない。誰が言ってた、どこに書かれていたから、を判断の拠り所にすると、自分を誰かに委ねているのと同義。それは賢明と言えない」
「じゃあ、こんなもの読む必要ないですね」
「なぜ?」
「自分の頭で考えるなら、ここに書かれたことは雑音じゃないですか」
「世の中の現象を個人がすべて収集できるなら、その主張を否定しない」
年下の男子は複雑な表情を浮かべた。論破したいわけではないわたしは、うまく伝わらないもどかしさに内心嘆息しつつ、個体が異なる以上、齟齬が生じるのは致し方ないと自分を納得させた。
1年生の二人は、まだ投資対象を絞りきれていないようだ。
顧問から銘柄選択理由を問われて、満足な返答ができないため、選抜試験に落ちたようなかおをしている。
この部に入って1年、思うことがある。
お金に関する諸々について、学校はなにも教えていない。金融教育、などと大仰なことは言わない。しかし、結局のところ、経済が回らなければ食べてゆけないわけだから、経済こそが生存の糧となるはずなのに、肝心のことが抜けている。
数学は多くの人にとって勘定のためにある。生活で必要なお金と結びつけたほうが、理解も必要性も深まるのではないか。極端な話、三角形や円の面積計算の方法を教えるより、よほど個々の生活のためになる。
例えば複利が齎す資産の拡大をどれほどの人々が理解しているだろうか。誰も損得勘定はする。ならば、子どものときから、複利こそが資産を膨張させるのだと仕組みから理解させれば、長期運用の有効性を肌身に感じるようになるのではないか。
それから、財務諸表。高校生のわたしでもわかる。部の人たちを見ていても、財務諸表がわからないまま引退する人などいない。進学校の生徒でなくとも理解できる程度のことで、企業の内情をある程度うかがい知ることができるのなら、これを公教育の必須科目に入れていいのではないか。
円安が止まらない。
161円台まで下がった。輸入物価が上がる。資源や食料を輸入に頼る日本は諸物価に及ぶ。
「物価が上がったら、景気は悪くなりますよね」
銀縁眼鏡の後輩男子は言う。
「なぜ?」
「だって、うちの母親言ってましたよ。もう高くて買えないって。買わなくなったら企業は困るでしょう」
「程度による。消費量がさほど減らなければ、物価高は売上増につながる。コスト増以上の値上げを実現できれば、企業業績は向上する。インフレ期待が株高を誘起しているのは、そんな期待からと推察される」
「はあ」
「この春、賃上げが話題になった。給料が上がれば、物価高にも対応できる。しかも特に給料が増えるのは数が少ない若年層。まともな給料も出せないような企業は淘汰される。今後、日本の給料が世界標準になれば、値上げに応える消費者が増える。よって、値上げは企業業績に寄与すると判断する。当然、株価には好材料となる。以上がわたしの考える最右翼の見通し」
「最右翼?」
「シナリオはいくつか考えられる」
「いくつか?」
「そう。今のは最も可能性のあるとわたしが考えるシナリオ。しかし、未来のことは誰にもわからない。予想もしないことが起こる。災害然り、感染症然り、戦争然り。でも、それを言い出したら、決断ができない。可能性の大小を自分なりに考えて方向性を決めなければならない」
そう口にしながら、考えるシナリオは必ずしも万人に明るい未来ばかりではないとも思う。
インフレだから、給料を上げなければ、従業員の生活が苦しくなる。従業員のため、会社としては労働力の確保のため、給料を上げる。理屈はそうだろう。
しかし、給料を増やしては事業を継続できない企業もあるはず。そんな会社は淘汰されるべきで、競争力のない会社が脱落することで、従業員は競争力のある企業などに移り、社会全体では、労働力が適切に配分される。理屈はそうだろう。
だが、淘汰される側にいる企業の経営者や従業員にとっては、悪夢の事態だ。
インフレだから給料を上げるぺき。なことはわかっちゃあいるけど、それができないから苦労してんだよ、こっちは!
そういう声が聞こえてきそうだ。
従業員だって、気軽に転職できる者もいれば、そうそう簡単ではない者もいるだろう。能力、適性、地域、家庭、人間関係・・・様々な要因が人を縛るはず。
投資の立場から見れば。
全体最適を目指す方向に軸足を合わせること、なんだろうと思う。
縮小する市場でも、一定需要が存続するなら、最後に残る一社は残存利益を独占できる。
世の秀才がこぞって集まるような業界では、凡人では刃が立たない世界で熾烈な競争が繰り広げられる。けれど、いくつもの企業が秀才たちを競わせても、過当競争では利益は出ない。いずれ疲弊して一社二社と脱落してゆく。そんな業界は忌避すべきだ。
2024年6月28日現在 わたしのポートフォリオ
・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 2,000株 買値319.8円 株価401.6円 時価803,200円 含み益163,600円
・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価2,017円 時価403,400円 含み益97,400円
・3445 RS Technologies 200株 買値3,200円 株価3,500円 時価700,000円 含み益60,000円
・5888 DAIWA CYCLE 200株 買値1,800円 株価2,704円 時価540,800円 含み益180,800円
・7134 アップガレージグループ 800株 買値835円 株価1,093円 時価874,400円 含み益206,400円
・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,729円 時価691,600円 含み益264,800円
現金 28,699円
時価総額 4,042,099円 含み益1,042,099円 含み益率35%
含み益が100万円を超えた。だからなに、って話だが、大台を超えたことは素直に嬉しい。配当金もいくつか入ってきた。これまた、素直に嬉しい。




