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青い四季報

 一年生の二人が書店から四季報を抱えて戻ってきた。

「小柄な女の子はもう来ないのって言われましたよ」

 部室に入るなり、銀縁眼鏡の後輩男子は、わたしに言った。

「誰に?」

「本屋のおばさんに」

「そう」

「たまにぃ、顔出してあげたらぁ、なんか喜ばれるとぉ、思いますぅ」

「そう」


 四季報など、の部に入るまで見たことも聞いたこともなかったと、二人は口を揃えた。

「そう」

「先輩は知ってたんですか?」

「知らなかった」

「ですよねぇ」

 四季報の見方について指導してくれる?

 という趣旨のことをかわいい人から告げられていた。安易に言われたものの、そう簡単なことではない。なにしろ、それだけで何冊も本が書かれているほどだ。

「まず見るべきは業績の推移。伸びているのか、落ちているのか、横這いなのかを把握できる。株価が伸びる可能性が高いのは数値が一貫して増えている銘柄」


「業績・・・ああ、このグラフ見るんですね」

「グラフ?」

 銀縁眼鏡が指さしたのは、各ページの上部にあるチャートだった。

「それは株価の推移」

 わたしは数字が並ぶ業績欄を指さした。

「こっちすか。目がチカチカしますねえ」

「ここに宝が隠されている」

 例えばと言って、バサバサとページを繰って開いたのは6146 ディスコ。

 売上高は19年3月から147,500、141,083、182,857、253,781、284,135、307,554、390,000、420,000と並び、営業利益は38,645、36,451、53,106、91,513、110,413、121,490、165,000、180,000と並んでいる。

「見てのとおり、この6年間で売上高は倍になり、営業利益は3倍になった。今後もさらに増えることが見込まれている」

 そうして次はチャートを指さした。

「株価はこの3年で6倍になった」


 おおっと新人二人が声を上げた。

「おれ、この株にします!」

「残念だが、これは買えない」

「どうして?」

 わたしはこの株のチャート右横を示した。

「最低購入額を見て」

「えーと、、、ろ、617万円?」

「手持ちの200万円ではとても足りない」

「え~っ、せっかくいい株見つけたのにぃ!」

 見つけた? わたしが示したにすぎない。


「買えない株をぉ、なんか見せられても困りますぅ」

「勘違いしてもらっては困る。推奨銘柄を提示しているわけではない。四季報の見方を伝えている」

「それはそうなんでしょうけどぉ」

「先ほどのディスコ、売上高や営業利益の推移と株価の推移を比較して、気づくことはないか?」

「気づくこと?」

 後輩二人はそれぞれがもつ四季報を睨んだ。

「あっ」

 のっぽの女が声を上げた。

「売上高✕営業利益=株価だ!」

「?」

「ほら、売上高がぁ倍になってえ、営業利益がぁ3倍になってえ、で、なんか株価がぁ6倍になってるってことはぁ、そおゆうことでしょお?」

「ユニークな思考をする」

 銀縁眼鏡は「なるほど、でも、売上高とかは6年間の話だけど、株価は3年間の話じゃない?」と言った。

「あ、そっかぁ。なら、株価が上がるのに時間がかからないってことぉ?」


 話があらぬ方向に進みかねないと感じたため

「そういう話ではない」

 と新人二人の会話を制した。

「株式投資の醍醐味はなにか?」

「だ、いご、み?」

「株式投資は普通では考えられないようなリターンを得る可能性がある」

「り、たあん??」

「下世話な表現をするなら、普通では考えられないような金儲けができる可能性があるということ」

 一年生二人は「ああ」というかおをした。

「その視点に立ったとき、この株の買い時はいつだったと考えられるか」

「いつだった?」

「チャートを見ればわかる。2023年の初めまで株価に大きな変化はない。しかし、その後、急上昇を始めた」

 二人は顔を見合わせた。

「ここで業績推移を改めて見ると、2020年から伸び続けていることがわかる。業績が伸びる会社の株価はは上がる。しかし、必ずしも業績の伸びに即応するわけではない。言い換えれば、業績が伸びているにも関わらず、株価が反応していない銘柄は買い時だと言える」

 二人はぼんやりしたかおをしていた。その表情を眺めながら、伝えることと伝わることは違うというフレーズを思い出した。なるほど、伝えることは難しい。

 本当は四季報の見方についてもっと伝えたいことはあったが、これ以上、語ったところで、混乱を招くだけだろうと判断し、その日は切り上げた。


 四季報の、わたしの観点は以下5点。


 1.業績欄を見て売上高・営業利益が伸びている銘柄

 → 一時的な減収減益は気にしない


 2.チャートを見て上記1にも関わらず株価が上がっていない銘柄

 → 売上高・利益が伸びている銘柄はいずれ株価も上がると考える

 → 株価が反応していない銘柄は株価の上昇幅も大きいと考える


 3.株式欄の有利子負債とキャッシュフロー欄の現金同等物の金額を比較

 → 現金同等物が有利子負債を上回っていれぱ財務に問題ないと判断する


 4.キャッシュフロー欄の営業CFが黒字の銘柄

 → 営業キャッシュフローが赤字の場合、資金繰りに重大な問題があると判断する

 → 黒字倒産の恐れがあるため、基本的に投資対象外と判断する

 → 赤字であっても、営業キャッシュフローが黒字なら、資金繰りに問題なしと判断する


 5.企業概要欄と四季報編集部コメント

 → 企業概要欄で、どんな会社なのか、どこが収益源なのかを掴む

 → 四季報編集部コメントで直近の注目ポイントを知る


 他にもチェックするところはあるが、まずはこの5点を見れば、何千もある銘柄から数十程度に絞込むことができる。

 四季報だけで投資判断をするわけではない。ホームページを見る、財務諸表を見る、製品を見る、社会情勢を見る・・・四季報には検討対象選出の役割を果たしてくれればいい。


 2024年6月21日現在 わたしのポートフォリオ

 ・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 2,000株 買値319.8円 株価385.3円 時価770,600円 含み益131,000円

 ・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価1,937.5円 時価387,500円 含み益81,500円

 ・3445 RS Technologies 200株 買値3,200円 株価3,565円 時価713,000円 含み益73,000円

 ・5888 DAIWA CYCLE 200株 買値1,800円 株価2,629円 時価525,800円 含み益165,800円

 ・7134 アップガレージグループ 800株 買値835円 株価1,184円 時価947,200円 含み益279,200円

 ・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,547円 時価618,800円 含み益192,000円

 現金 11,482円

 時価総額 3,974,382円 含み益974,384円 含み益率32%


 今週は水曜日に日本取引所グループが東証株価指数(TOPIX)の改革案を公表した。採用基準を厳しくして2028年7月には1,200銘柄ほどに絞り込む。現在の4割ほどの数になる。小粒銘柄を減らして、指数連動型投資信託の運用を容易にする。

「小粒銘柄を減らせば、なんで投資信託の運用がしやすくなるの?」

 かわいい先輩のストレートな質問に、顧問は「あなただって、どこでも売ってない商品を買うのに苦労したことあるでしょう」と言った。

「どういうこと?」

「売れ筋商品なら、どこでもいつでも売ってますけど、レアな商品はよほど品揃えのある店に行かなきゃいけなかったり、入荷が少なくていつでも売ってるわけじゃないことだってありますよね」

「株なんていつでも買えますよね」

「そりゃあ100株1,000株ぐらいならいつでも買えるでしょうけど」

「?」

「投資信託で運用する金額は何百万円とか何千万円単位ではないですから。大きなお金を運用しようと思えば、あんまり取引のない銘柄をまとまった数、売買するのは大変ですよ。だって、売るにしても買い手が少ない、買うにしても売り手が少ない、つまり、売りたくても売れない、買いたくても買えないってことですから」

「ああ、なるほど」

「ただ、これで人気のない銘柄は、ますます売買高が減ることになります」

「投資信託っていう大口客がいなくなるから?」

「そうです。TOPIX採用銘柄からはずれれば、もともと少ない需要がほとんどなくなる場合もあるでしょう。そんな株は暴落しかねませんし、暴落したあと株価が戻ることも考えにくい。上場の意義が問われることになる。経営者は相当の危機感を持たなければ、暴落した安値で買い占められて会社を乗っ取られる恐れも出てくると思います」

「まあ怖い」


 顧問と先輩の会話を聞きながら、PBR1倍未満の話題と同じだと思った。

 多くの会社の尻に火がついた。生き残りのため、株主に目を向けざるを得なくなった。

 黒船であってもいい。

 それで会社が好転するなら、投資対象として魅力的になる。

 この内容は、四季報コメント欄の注目点にもなる。

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