PBR1倍未満他諸々
今週はいろいろあった。
日経平均株価は月曜日の初値で、あっさり節目の4万円を超えた。
今年の大発会の初値が3万3千円ほどだったから、わずか2ヶ月で7千円近く、率にして20%ほど上がったことになる。
バブル期につけた日経平均株価最高値を更新してなお上昇を続ける株価。
新NISAもあって、このところ、株価にまつわるニュースがとみに増えた。SNSでもいくら儲かったとか、なにから始めればいいのかわからない等といったコメントが目につく。
「株式投資部だったよな」
教室でひとり本を読んでいると、おもむろに声をかけられた。顔を上げると、
「どうやったら儲かるんだ?」
男子生徒がひとり突っ立っている。しばらく目を見ていると
「株式投資部だったら、株の儲け方知ってるんだろ?」
と困ったような顔をされた。
「それがわかれば誰も苦労しない」
「え、わかんないの?」
「想定外」
「え? なに? 今なんて言った?」
「想定外」
「想定外?」
「プロのファンドマネージャーが最もよく使う単語だと聞く」
「ファ、ファンドマ?」
「株式投資を職業とする人間と思えばいい。それら人間が愛用する単語が想定外だと聞く。つまり、プロと呼ばれる人たちでさえ、株式投資に絶対はないことを示している」
男子生徒はつまらなそうな顔をして立ち去った。
もう少し粘る気があったなら、ちっとは参考になる話のひとつでもする気になったのに、残念なことだと感じた。
本格的な株式投資をはじめて、まだ一年にもならない小娘が言うのもどうかと我ながら思うが、株式投資に対して安易な答えを求める人が少なくない気がする。
新NISAで普通に推奨するなら、インデックスファンドの積立だろう。
国内TOPIX、米国S&P500、世界株、はたまたインド株のいずれがいいかは、おそらく好みの問題だと思われる。肝心は長期に愚直に積立することで、日々の値動きや時折訪れる急騰や暴落に惑わされないことだ。
ただ、インデックスファンドの積立では、5年やそこらでびっくりするような成果を期待することが難しいと思われる。
ネット上では、株式投資で資産が倍増したの、買った銘柄が10倍になったの、威勢の良い話が少なくない。まるで買ったハナからそうなったかの如き書かれ方をするものもあるが、そんなうまい話がそうそうあるはずもなく、インデックスファンドなら望むべくもない。
期待値と現実との彼我に失望する人も少なくないと思われる。
あるいは、何割かの値動きに感情を乱され、焦燥のあまり後先考えず売買を繰り返す愚を犯す者も現れよう。
個別株なら、株価はより上下し得る。つまりは、より感情を乱され得るということだろう。
ヨーロッパでは、スウェーデンがNATOに正式加入した。
男の先輩に言わせると、これでロシアはバルト海をNATO諸国に押さえられた。もともとはNATO拡大を脅威に感じてはじめたウクライナ戦争が、結果的に多くの寝た子を起こすことになった。ウクライナに優勢であることから、そして大統領選が近いことから、プーチン大統領はこのところ威勢がいいと報道されているが、実のところ、どうなんだろうな。
「戦争は長くなる。ウクライナは疲弊するだろうが、ロシアもまた疲弊する。たとえ勝ったところで、西側はもう相手にしない。ろくな復興もできないまま、衰える他ないんじゃないか」
脱化石燃料の動きは戦争前からあった。それは地球環境のためだった。しかし、化石燃料大国・ロシアはそこにエネルギー安全保障の観点を加えた。直近の命や生活に関わる脱化石燃料はますます進むだろう。ロシアは己の飯のタネをひとつ自ら放棄しようとしている。
太陽光、風力、水素、潮力、地熱。。。
次世代エネルギーを制する企業には注目すべき。日本企業にも期待できるところがあるかもしれない。
金曜日には鳥山明氏の訃報が流れた。
その早すぎる死に、世界が驚きと悲しみに包まれた。
日本の漫画、アニメ、ゲームといったエンタメを代表する数々の作品を生み出してきた作家が、世界にどれだけの影響を与えてきたのか。
以前、京都アニメーションが放火され、多くのアニメーターが亡くなったときも、世界中から悼む声が届けられた。
今更ながらに、エンタメパワーの大きさを思い知らされる。投資対象として外せない。そう思った。
その金曜日。日経新聞には、こんな記事が載った。
「国内運用会社が、PBR1倍未満などの企業に対して、株主総会での代表取締役の再任に反対する」
東京証券取引所に続き、運用会社が議決権行使を厳格化すると、資本効率や株主をないがしろにしたような経営は許されなくなる。
「会社は株主のものであって、経営者が好き勝手にしていいものではない」
という至極まっとうな理屈が、令和になってようやく日本にも根を張ろうとしている
「のかもしれませんね」
と顧問は言った。
自分の地位を脅かすような話になれば、呑気な、もしくは横柄な代表取締役も安穏とはしておれまい。改めて資本効率の改善余地が高い企業に注目しなければならない。
4月になれば新入生が入ってくる。
PBR1倍未満とはどういうことかについて説明する必要がある。
PBR、日本語では「株価純資産倍率」と称す。
「株価÷一株当たりの純資産」で求められる。
PBR1倍未満とは、会社の純資産総額より時価総額が低いことを表す。単純に言えば、今の株価で株式を取得して、その時点で会社が解散すれば、投資額以上の資産の分け前に預かれるということだ。PBR0.7倍の場合、70万円で買った株の資産が100万円あることになるから、その時点で会社が解散すれば100万円が戻ってくる。
普通に考えれば、こんなバカな話はない。
割安かどうかの判断から言えば、こんなにわかりやすい話もない。
しかし、投資機会を鵜の目鷹の目で見ている多くの人々が、なぜこんな株を放置しているのか。
「理由はふたつあります」
ひとつは、その会社が発表する資産が本当に額面どおりあるのかどうかがわからないから。
現金は額面どおりの価値がある。これはいい。
不動産はどうか。取得した時点の簿価に比べて、現在の価格は下がっているかもしれない。
建物はもっとわからない。老朽化して、取り壊し費用が簿価を上回るかもしれない。
機械などの設備も、引き取り手もないような代物なら、くず鉄代ぐらいにしかならないかもしれない。
製品に至っては、時代遅れになれば、ただのゴミでしかないかもしれない。
もうひとつは、資産が未来永劫その価値を持ち続けるかがわからないから。
キャッシュフローが赤字続きなら、現金は年を追うごとに目減りする。
となれば、先々の資産額は減少し、現在株価でのPBRはもっと大きくなる。
先の例で言えば、100万円の資産も、近い将来、70万円まで減ることが想定されるなら、PBRは1倍になる。
「このとおり、PBRの現在値が1倍を割り込んでいたからと言って、必ずしも割安であることの証左になるわけではない」
そう締めくくって、わたしは顧問と二人の先輩を見た。
「新入生への説明としてはいいんじゃね?」とは男の先輩。
「でも、PBRの説明だけならいいかもだけど、なんか、そう、なんでPBR1倍未満の会社が槍玉に上がるのかはあってもよくって?」とかわいい人。
顧問は「どうですか?」とわたしに言った。
株式会社は、株式を発行することで資本すなわちお金を集め、それで事業を運営することによって、資本の拡大を目指す。
つまり、資本の拡大再生産が株式会社の目的となる。
PBR1倍未満の会社とは株価が資本よりも少ない状態にあることから、お金をこれ以上増やすことができないと思われている会社だと言える。
その解消には方策が二点考えられる。
一点は資本の拡大。すなわち、投下資本によって更なる利益を上げること。
もう一点は資本の還元。すなわち、使い切れないお金を配当によって株主に返すか、自社株を購入して発行株式総数を減らす。
かわいい先輩はしばらくして言った。
「ちょっと新人に理解してもらうにはむずいかも」
顧問は苦笑した。
2024年3月8日現在 わたしのポートフォリオ
・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 1,400株 買値300円 株価354.3円 時価496,020円 含み益76,020円
・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価2,200円 時価439,900円 含み益133,900円
・6623 愛知電機 100株 買値3,615円 株価3,985円 時価398,500円 含み益37,000円
・7330 レオス・キャピタルワークス 300株 買値1,358円 株価1,370円 時価411,000円 含み益3,600円
・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,632円 時価652,800円 含み益226,000円
現金 95,517円
時価総額 2,493,737円 含み益493,737円 含み益率25%
仮想運用分
・6758 ソニーグループ 買値14,540円 時価12,970円
・7201 日産自動車 買値548円 時価552.5円
日産自動車が下請法違反で公正取引委員会から勧告を受けた。
賃上げ機運が高まっている中、下請企業の賃上げを妨げかねない不適切な取引にメスを入れることが、その意図するところだとのこと。
「まあ、ひとり日産自動車ばかりじゃないのかもしれませんが」
と顧問は言う。これが見せしめになって、似たようなことをしている他企業の抑制になれば、政府が躍起になって取組む賃上げにつなげられる。
ただ、ひとり日産自動車ばかりじゃないのかもしれないにしても、あえて投資対象とする必要もないと思ったわたしは、仮想運用分から外すことにした。
代わりを探さねばならない。




