転移装置とウサギ
国王陛下が快くお願いを聞いてくださったお陰で、私は1ヶ月足らずで辺境伯家に戻れることになった。ナルサスが乗り気で、率先して協力してくれたお陰でもある。
「僕達の新居を調えるためだから、協力するのは当然だよ。辺境伯領に着いたら二人きりでデートしようね。楽しみだなー」
ニコニコとそんな事を言いながら、ナルサスは辺境伯領の館に設置する魔導装置を次々と製作していた。既存の物の十分の一以下までコンパクトにした結界発生装置や、室温湿度を一定に保ち有毒ガス除去までこなす環境安定装置など、高性能な魔導装置が量産され、辺境伯領へと送られていった。
荷車に積める大きさの魔導装置なんて、画期的だ。どんなに単純な魔導装置でも、これまでの物は小屋ほどの大きさだったのだから。
睡眠時間を削ってまで作業していたナルサスに、後ろめたさを覚えた1ヶ月でもあった。でも計画を中止するつもりはない。私はナルサスの優秀過ぎる頭脳も怖いのだ。
私は微かな罪悪感を抱えながらも、辺境伯領の館に移動した。移動に使われたのは、最近開発されたという転移装置だ。転移元と転移先に巨大な魔導装置が必要になるが、無機物だけでなく生物も転移させられる優れ物だ。
これを使わない手は無いでしょう!
転移装置の操作方法は、ニコラスが事前に入手してくれたマニュアルでばっちり予習済みだ。それでも念を入れて、転移前にナルサスが操作しているのを盗み見ていると、彼は私を手招いてあれこれと説明してくれた。
うん、ナルサスは良い子なんだよね。側に居ると本能的に恐怖を感じるだけで。
うっかり罪悪感を追加されてしまったが、翌日巡ってきた絶好の機会を逃すのはもったいなくて、私は行動を開始した。ナルサスが父に呼び出された隙に、私は転移装置のある地下へと走る。
地下室は無人だった。私は指定しておいた柱の陰に駆け込み、箱状の物に被せられた布をそっと捲った。
「さすがニコラス、こんなに集めてくれたのね!」
現れた檻に入っていたウサギは、全部で6羽。檻の隅に固まってプルプルしている。私の身代わりになってくれる子達だ。
私の計画はこうだ。
まずは私の身代わりを複数用意。無機物と生物で転移装置の操作方法が異なるので、身代わりは必ず生き物でなければならない。それから転移させたものが生物か否かと共に、転移先の情報も記録されるよう装置が設定されているかを確認。ここも重要。装置を使ってそれぞれ別々の場所に転移すれば、準備は完了だ。
私の姿が見えないとなると、ナルサスは自ら館中を捜して回るはずだ。そして転移装置に残された情報を見つけたら、装置を使って私の後を追うだろう。けれど転移先の何処にも私は居ない。何故なら転移したのは私ではなく、全て身代わりウサギちゃんだからだ!
転移先の記録が複数あったら、どれか一つが私だと思うよね。でも私は装置を使わず、隠れてナルサスをやり過ごす。身代わりウサギ達が目くらましと時間稼ぎをしてくれてる間に、私はこっそり館を抜け出して、準備しておいた馬車で逃げるのだ。
なんて素晴らしい計画!我ながら完璧!
拳を握り締めて自画自賛してたらウサギ達が反対側に逃げた。なんで?
「怖がらないで。大丈夫よ、食べたりしないから」
私はウサギに話し掛けながら、それぞれの首にチョーカーを嵌めていった。皆大人しく、されるがままになっている。
「ごめんね、ちょっと窮屈かもしれないけど、我慢してね」
全部のウサギにチョーカーを付けると、まずは黒ブチの1羽を連れ出して、転移装置の上に乗せた。スイッチオン!
転移装置が作動して、ウサギがヒュンッと消える。無事転移したようだ。
「転移先の皆様、申し訳ありません。勝手にウサギを送りつけたお詫びに、チョーカーは差し上げます」
聞こえる訳もないが転移先で慌てているだろう人達に謝って、次のウサギを檻から出す。チョーカーの真ん中で煌めく魔石はまずまずの品質だ。迷惑料くらいにはなるはずだ。
こうして6羽のウサギを送り出した私は、檻が置かれた柱の陰に蹲った。思ったよりも時間が掛かってしまったので、そろそろナルサスがやって来そうだ。鉢合わせないよう、館から出るのはナルサスが転移するのを見届けてからだと決めていた。
私が隠れると、思った通り、じきにナルサスが地下室へと降りて来た。室内をざっと見渡してから転移装置に歩み寄り、記録情報に気づく。直ぐ様装置を操って、ヒュンッと消えるナルサス。ウサギちゃんを追っていった。
よし、第一段階は成功だ。私、成長してる!
ナルサスが消えると同時に隠れ場所を飛び出した私は、地下室を出て階段を駆け上がる。ここからは時間との勝負、ナルサスが戻ってくる前に、少しでも遠くに逃げなくちゃ!




