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兄と弟と初恋の人

 魔王様ご謹製の全状態異常完全無効化ネックレスには、様々な追加効果が付与された。危険を察知して結界魔法を発動する等のまともな効果については、使用者であるナタリアにも知らされた。だが幾つかの、まともでない効果についてはナタリアにも秘匿されている。


 ナタリアが知らない追加効果は、店で受け取った後にナルサスが付与したものだ。盗聴盗撮とか位置情報取得とか登録使用者追尾とか、ストーカー御用達の魔法の数々だ。内緒で使ったらアウトなやつだ。ナルサスは全く反省していなかった。


「反省はしたよ。常時発動じゃなくて、ナタリアの危険を感知した時だけ効果が発動するようにしたもん」

「危険判定はどのレベルだ」

「僕の視界から外れたら」

「……もう少し判定を緩めてやれ。また監視してるってバレたら嫌われるぞ」


 ボクのアドバイスをどう受け取ったのか、ナルサスは自分のネックレスにもナタリアのと同じ追加効果を付与したらしい。お互いに監視し合えば平等かもしれないが、問題はそこじゃない。もっと根本的な部分から考えを改めろ。

 

 救いはナタリアがこのネックレスを滅多に使わないことだった。なにせ値段が値段だ。しかも、元からとてつもなく高価だったネックレスが更に人類の至宝みたいになっている。普段から気軽に使えるような代物ではない。


「ナタリアを守るために作ったのに、いつも着けてくれないと意味がないよ」

「出掛ける時は必ず着けるから。自宅に居る時くらい外させて」


 毎朝そんな遣り取りが繰り返されていると、アンさんが言っていた。そして大抵はナタリアが折れるらしい。ナルサスの思惑通りに、ナタリア包囲網は着々と強化されている。何重にも張り巡らされている。


 ネックレスの追加効果は目くらましだ。またナタリアが逃げ出そうとした時、如何して居場所が分かったかの理由づけだ。だから、常にナタリアに身に着けさせないと、場合によっては齟齬が生じる。ネックレスを着けていないのに、如何やって居場所を特定したのかと。

 本命は、ナルサスがナタリア自身に仕込んでいる、ナルサスの魔力だ。少しでも長時間の効果を持続させるため、ナタリアに摂取させるものを改良しているようだ。


「一番効果が高いと予想してるものは、今の僕じゃ生成出来ないんだ。だから大人になれる時間を延ばせるように頑張ってるところ」


 ニコニコと話すそれらの因果関係については、意識して思考から除外した。頼むから余計なことは話さないでくれ。詳しく知りたくないし、あれこれ想像したくない。


「ナタリア、大人しくネックレスを着けとけ」

「こんなの国家予算見せびらかして歩いてるようなものじゃない。私の気が休まらないのよ」

「それでも結果的には、ネックレスでの方がナタリアの平穏に繋がると思うぞ」


 これで察してくれれば良いが、単純なナタリアでは望み薄だろう。それでもボクは、一応ナタリアに警告してやる。贖罪を込めて。


 ボクは真っ先にナタリアを見捨てた。あんなに好きだった初恋相手を、婚約者だった少女を、我が身可愛さに見捨てたのだ。だから、ナタリアが望めば婚約解消の茶番も演じたし、逃亡のための手助けもした。ナルサスに阻止されると分かっていても。

 籠の鳥だとしても、籠の中での自由はなるべく確保してやりたい。少しでも籠を大きくしてやりたい。自己満足かもしれないが、何もしないよりは罪悪感が薄れるのだ。


「欺瞞だね」


 ナルサスには感づかれているのだろう。ナルサスが度々ボクを試すようなことを聞くのはそのせいだ。だから毎回、ボクは証明しなければならない。ボクはもうナタリアに恋愛感情を持っていないと、ナルサスと、誰よりボク自身に対して。


「ナタリア、兄さんの言うことは気にしないで。兄さんは嘘つきだから」

「いや、どう考えてもネックレスを着けとく方が、心身共に平穏に過ごせるだろ」

「ねぇ2人共、私には意味が分からないんだけど」

「ナタリアは知らなくていいから。僕の事だけ考えててね」


 ナルサスがナタリアに抱きついて、ボクに見せつけるように唇にキスする。赤くなって照れるナタリアの顔を、ナルサスが抱き込んで隠す。


「ナルサス、ナタリアが息できなくて苦しそうだぞ」

「ナタリアが窒息する前に、兄さんが向こう向いて」

「はいはい」


 ボクは大袈裟に溜息をついて見せ、ナルサスと、ナルサスの腕の中のナタリアに背を向けた。


 ナルサスに囚われた、可哀想なナタリア。口癖のように逃げたいというけれど、それが本気だったことなど一度もない。逃げたところで数日もせずに寂しくなって、ナルサスの元に戻ってくる。そうに決まっている。ナルサスの重過ぎる愛情を大事に抱えたまま、逃げるなんて不可能だ。


 それでも、もしもその重過ぎる愛情を捨ててしまいたいと、ナタリアが本気で願ったら。ボクはきっと、ナタリアを籠から自由にしてやるために、尽力するだろう。


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