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黄金像と装身具

 ナルサスに魔力抑制の装身具は効かない。そう教えられて、私は落胆していた。思いがけず魔族が営む魔導具店を見つけ、ナルサスのための装身具が手に入ると思ったのに。

 不可能と断じられても諦め切れなくて、私は魔王様に尋ねる。


「魔導具では魔力抑制が出来ない理由を教えて頂けますか」

「単純に、御夫君の魔力が強過ぎるからだ。耐久性が足りない。ついでに言うと、魔法での魔力抑制も、元の魔力の3割減が限界だ。御夫君の魔力が3割程度減ったところで、周囲への影響は大して変わらん」


 魔王様に残酷な事実を告げられて、私はがっくりと肩を落とした。3割減ではナルサスが起こす猛吹雪が吹雪になる程度か。脅威である事に変わりはない。

 ナルサスが私の上着の裾を掴んで、潤んだ瞳で見上げてくる。

 

「ねえ、如何してナタリアは僕の魔力を抑制したいの?まだ僕が怖い?」

「そうね、またに怖いと感じる事もあるわ。でも魔導具を作って貰おうと思ったのは、ナルサスに学校に通って欲しいからよ」

「学校なんて行く必要ないよ。僕賢いもん」

「そうね。でも、学校に行けばお友達も増えるし」

「友達なら沢山いるよ。僕が困ってるってお願いしたら、皆助けてくれるんだ」


 ナルサス、私が知らないだけでお友達が居たのね。困った時に助け合える、良いお友達なのね。

 私が密かに感激していると、ニコラスがボソリと零す。


「……友達じゃなく手下だろ……」

「兄さんは言葉遣いが可笑しいよね。昔友達になりたかったナタリアに、手下になれって言ってた頃から間違ってるよね」

「何で知ってるんだよ!」


 ごめんニコラス、私が話した。子どもの頃の微笑ましいエピソードだと思うのに、ニコラスにとっては恥ずかしい過去だったようだ。悪い事をした。


 ナルサスとニコラスが兄弟喧嘩を始めそうなので宥めつつ、若干放置気味になっていた魔王様に詫びる。


「すみません、お騒がせしてしまって」

「いや構わんさ。我々魔族は寿命が長過ぎて、日々退屈している。だが今日は、其方らのお陰で久々に楽しい。ところで、装身具の注文は如何する?」


 そうだった、忘れ掛けていた。

 魔力を抑制する装身具は、作って貰ってもナルサスが使えないのでは意味がない。でも、せっかくだから魔王様自作の魔導具は欲しい。

 

「申し訳ありません。魔力抑制の装身具はキャンセルさせてください。その代わり、別の装身具を注文したいのですが」

「構わんぞ。何にする」

「毒や魅了などの状態異常を防ぐ装身具が欲しいです。複数の効果を1つの装身具に持たせる事は出来ますか?」

「可能だが、効果を上乗せするごとに高額になる。料金表があるから確認を」


 女性店員がさっと料金表を差し出す。かなりお高い。でも、魔法が得意な魔族の頂点である魔王様が、手ずから作る魔導具なのだ。効果の程も高いに違いない。


 防毒と防魅了は絶対に欲しい。ナルサスは身体は普通のお子様だ。貴族の嗜みとして多少の毒物には慣らしてあるが、世界中の毒に耐性がある訳ではない。魅了も魔法の一種ではあるが特殊だ。術者によって効果も効き目もバラバラなので、魔法防御が高くても完全に防ぐのは困難だ。


 防毒と防魅了、両方の効果が付与された魔導具は、王都に屋敷が建てられそうな値段だった。私の全財産出しても足りない。となると、どちらを選ぶべきだろう。私の心情的にはナルサスが他人に魅了されるのが一番嫌だ。でもナルサスの生命に直結するのは防毒効果だ。


「これにするよ。これを2つ、お揃いで注文する」


 料金表を前に悩んでいた私の横から、同じように料金表を覗いていたナルサスが指差したのは、全状態異常完全無効化のネックレス。その値段を見てニコラスが呻いた。当然の反応だ、1つだけでも小国の国家予算並だ。


「ナルサス、冗談よね?」

「本気だよ。前からナタリアの守りを強化しなきゃって思ってたんだ。それに僕、ナタリアとお揃いの物が欲しいな」

「でもこの値段を見て!私にはとても支払えない額よ」

「支払いは僕がするよ。ナタリアが身に付ける物は全部、僕に贈らせて」

「気持ちは嬉しいけど、こんなの一生掛かっても支払えるかどうか……」

「これで足りる?」


 ナルサスは、黄金で出来たドラゴン像を空間から取り出して、魔王様の前にデンと置いた。


「お前、それ王宮の」

「違うよ、あの像の片割れ。これは目の部分が魔石だから、こっちの方が高価だね」

「……ナルサス、これ如何したの?」

「竜の国の王様に貰った」


 私の見間違いじゃなかったら、竜の国の城に飾ってあった物だ。それも謁見の間の玉座の左右に置かれていた物だ。それを、貰ったの?

 唖然として言葉も出ない私を置いて、ナルサスと魔王様が勝手に話を進めてゆく。


「で、如何なの、足りないの?」

「いや、これなら十分だ。全く同じ物を2つで良いのか?」

「飾りに使う石を色違いにして。空色と紺色で」

「ふむ、其方らの目の色に近い物を探そう」


 話しながら、さらさらと設計図兼契約書が作成される。ちょっと待って、そんなにあっさり決めないで。気軽に国家予算並の取引をしないで。

 でも私が呆然としているうちに、ナルサスが契約書にサインしてしまった。設計図には私好みのシンプルなデザインのネックレスが描かれていて、防毒防魅了防睡眠防麻痺を始め、ありとあらゆる状態異常が無効化されるとの説明書きがある。


「お買上げありがとうございます」


 女性店員さんが、とびきりの笑顔で頭を下げる。如何しよう、こんな高価なネックレス、きっと肩が凝って仕方がない。


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