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兄と魔王

「誠に申し訳ございませんでした!!」


 まさに平身低頭、ボクは地面に頭を擦りつけて魔王様に謝罪した。元凶であるナルサスにも頭を下げさせたいのだが、ナルサスはナタリアを抱き込んだまま謝りもしない。服を引いて土下座させようとしてみても、ナルサスは踏ん張って抵抗してくる。


「僕は悪くないもん」

「いや悪いから!ボク達の勘違いでこの惨状なんだから、お前も一緒に謝れよ!」

「やだ」


 ナタリアの胸に顔を埋め、顔を隠すナルサス。ナタリアはそんなナルサスを一旦抱き留め頭を撫でてやっている。それからナルサスの両肩に手を置いて少し身体を離し、空色の瞳と目を合わせた。


「ナルサス、私を守ろうとしてくれたんだよね?ありがとう。でも、お店の物を壊したり、失礼な事をしたりしたのは謝らないと」

「壊した物は弁償するし、迷惑料も払うもん」

「お金を払えばそれで良い、なんて思ってないわよね?私はナルサスを、そんな情けない子に育てた覚えはありません」


 ナルサスは唇を尖らせて、不満げに目を逸らす。でもナタリアがここは譲らないと分かると、渋々ながらも謝罪を口にした。


「……ごめんなさい」

「よい。子どものした事だ、そう目くじらを立てることも無い。其方ももう謝らずとも良い、わたしは怒っていない」


 魔王様は寛容だった。ボクの手を取って立たせると、ソコリと耳打ちされる。


「手の掛かる弟御を持つと大変よな」


 ボクは思わずガシリと魔王様の両手を掴んでしまった。解って頂けますか、ボクの苦労。誰も彼もナルサスのやらかした後始末をボクに投げてくるんですよ。その度に胃が悲鳴を上げるんですよ。魔王領に良い胃薬ありませんか?

 魔王様は苦笑しながら、ボクの肩を労うようにポンポンと軽く叩いた。優しさが身に沁みる。これまでの苦労が報われる気がする。これが魔王のカリスマというやつか?


「それと、壊れた物も修復出来るので弁償は不要だ」

 

 魔王様がパチリと指を鳴らすと、あっという間に工房が元通りになった。良かった、正直弁償出来るか不安だったのだ。黄金ドラゴン像を貰っておくんだったと後悔していたところだ。


 そこからは状況の擦り合わせが行われ、ボクはナタリアの胸にまた顔を隠したナルサスに代わり、あれこれと説明した。ボク達はこっそりナタリアを見守っていたこと。ナタリアの気配が突然消えたので、拐われたのだと勘違いしたこと。


「気配が消えたのはそこのドアのせいだな。離れた空間を繋げる魔導具なのだ」


 なんとこの工房は、魔王領の最奥の魔王城にあるのだそうだ。魔導具作りが趣味の魔王様の、専用工房らしい。魔王様は本業があるので魔王城を頻繁に空けられないため、工房とお店を繋げているのだとか。


「店と工房を常に繋げておくには魔力が足りぬので、ドアが開いている時だけ空間を繋げている。だからドアを閉めると、実際の距離の隔たりのせいで突然消えたように感じるだろうな。それに先程は、店先に不審者がいたと聞いて結界も張ったからな」

「その不審者ってボク達ですかね……」

「申し訳ありません。ずっと店内に向けて殺気を放っておられたので」


 女性店員はお客様を避難させねばと、この工房にナタリアを連れて来た。どう見ても良いとこのお嬢様の、華奢で非力に見えるナタリアを守ろうとしてくれたのだ。


「重ね重ね申し訳ありません」

「いえ、こちらこそ。それに、そちらのお客様はいずれにせよ、工房にお連れする事になったと思います。オーダーメイド商品は細かい指定が必要ですので」

「そうそう、魔力を抑制する装身具だったな。そこの弟──いや御夫君のための物か?」


 魔王様がナタリアに問い掛ける途中、ナルサスがキッと魔王様を睨んだ。呼称を変えて貰って、少しだけ機嫌が直るナルサス。フフンと鼻を鳴らしながら得意げに口の端を上げる。何とも子どもっぽい。


「はい、さっきのように魔力を暴走させないようにしたいのです」

「ナタリア、僕魔力抑制より魔力増強の装身具が良いなー」

「これ以上魔力を増やして如何するの」

「ナタリアに近づく男を蹴散らすんだ」

 

 魔王様を凝視しながら物騒な事を言うな。魔力をしまえ。初めて自分の魔法を防がれて悔しいのもあるだろうが、殺気は封印しておけ。


 魔王様はナルサスから漏れ出るあれこれを、余裕で受け流す。魔王様が温厚な方で良かった。魔族とことを構えるなんて事態にならなくて本当に良かった。

 魔王様は、敵意を隠そうともしないナルサスを、面白そうに眺めている。


「ナルサスだったか?其方に魔力増強は必要無いと思うがな」

「僕に負けるのが怖いの?」

「いや、今なら其方の魔力が少々増えようが、負ける気はせん。きちんと魔力をコントロール出来ていないようだからな。それとナタリア嬢、御夫君の魔力を抑制するのは魔導具では不可能だ」

「難しい、ではなく不可能、なのですか?」

「ああ。御夫君が自分で魔力抑制の魔法を使うしかない。そんな気は更々無さそうだがな」


 魔王様はカラカラと笑う。ナタリア以上にボクへのダメージが大きかった。


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