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一人歩きと魔導具店

 旅の目的地に到着した私は、アン達を説得して一人で行動することにした。アンが近くで護衛してくれるとはいえ、隣に誰もいない状態での街歩きは初めてだ。渡されたお財布をしっかりと上着の内ポケットに入れて、広い通りを歩き出す。

 私に許された行動範囲は、この大通りだけだった。横道に入らない、知らない人について行かない、そんな約束事を、幼子に言い聞かせるように数度繰り返してからアンは姿を隠した。


 あからさまな子ども扱いに、私は内心思った。言われなくても分かっている、裏道は危ないし、善人の顔をした悪人だってごまんといる。でも、私は辺境伯家の教育の賜物で、腕におぼえありだ。多少の荒事ならば対処できる。


「全く分かっておられませんね、ナタリア様。世の中正攻法で挑んでくる相手の方が少ないのですよ。辺境伯領にいるような、馬鹿正直な悪漢など絶滅危惧種なのです。そもそも薬や魔法を使われたら、ナタリア様に対処出来ますか?」


 アンに、ものの道理を分かっていない幼児を諌めるような口調で諭された。世間知らずは自覚しているが、それにしても酷くない?そんな私の思いを見透かすように、アンは通りの向こうの親子連れを指差した。両親と4、5歳くらいの女の子だ。


「あの人達が如何かしたの?」

「彼らは人攫いです」

「……は?あの子、攫われてるの?」


 駆け出そうとした私の肩をアンが掴んで引き、その勢いで私を半回転させた。開きかけた私の口に、肉の塊を突っ込まれた。


「違います。あの子どもも人攫いの仲間です。子ども連れだと相手が油断しますでしょう?」

「……」


 口がお肉で塞がっているので返事は出来なかったが、子どもを犯罪に加担させるなんて。この街は比較的治安が良いと聞いていたのに。


「ナタリア様、辺境伯領は稀に見る平和な場所なのです。ここが普通です。いいですか、周りは全員詐欺師か人攫いか強姦魔だと思って行動してください。それがご理解頂けないなら、お側を離れる訳には参りません」

「……分かったわ、気をつけるし約束も守るから」


 こうして私のささやかな自由時間が始まった。


 まずは口に詰め込まれたお肉と同じものを屋台で買い求める。歩きながら食べられる、串に刺さったものを選んでお金を払う。それを噛りながら大通りを奥へと進んでいった。道の両端に並ぶ屋台は様々で、小物や布を売っている店先は辺境伯領とも王都とも色彩が違う。見ているだけでも楽しい。

 アクセサリーを扱う露店では、真紅の石がついたネックレスを買った。普段使いに赤系のものが欲しかったのだ。これから私が手にするアクセサリー類は、ナルサスの色のみになるだろうから。

 広場では大道芸も見ることが出来た。球乗りしていた男性が落ちた時は驚いたが、それも芸の一部だったようで関心した。落ちる直前に目をパチパチしていたので、目にゴミでも入って失敗したのかと失礼なことを考えたのを反省する。その道のプロが、そう簡単に失敗などしないのだ。


 そして大通りの端に突き当たり、通りの反対側を辿って来た方向に引き返そうとした時、私はその店を発見した。白い壁に丸く開けられた窓から、店の中を覗く。チラリと目に入った店内に、羽根ペンが浮かんでいるように見えたのだ。

 はたして店内では、羽根ペンが何本も踊っていた。宙に浮かんだ白い紙に、人物画を描いている。モデルは傍らの椅子に座った犬耳の獣人だ。実物よりも、ほんの少しだけ凛々しく仕上がっている。


「いらっしゃいませ」


 店内に入った私に声を掛けたのは、頭に羊のような角が生えた女性だった。私と同年代に見えるが、ずっと年上かもしれない。彼女の顔には魔族特有の模様があった。


「こんにちは。あの、ここは魔法の道具を扱うお店ですか?」

「はい、そうですよ。何かお探しですか?」

「ええと……強過ぎる魔力を抑えるための、装身具ってありますか?」

「ご自分用ではありませんよね。どなたにお使いの予定ですか?」

 

 女性店員の声が険を帯びる。魔力抑制は禁術ではなかったはずだ。何が彼女の気に障ったのだろう?

 私は明言を避けつつ、嘘にならないように答えを返す。


「その……私の家族が、魔力が強過ぎて学校に通えそうにないんです。感情が揺らぐと魔力が暴走してしまって。でも、とても良い子で、私は出来れば普通の子のように学校に通わせてあげたいんです。それで、魔力を抑えられる物があればと」

「そうでしたか。大変失礼いたしました」


 店員さんは私の説明で納得してくれたらしく、ふわりと微笑んでくれた。


「魔力抑制の装身具は、たまに悪用されることがあるのです。魔族に無理矢理嵌めて、言う事をきかせたり攫ったりする輩がおりますので」

「そうなんですか!?」

「はい、嘆かわしいことです。ですから失礼ながら、確認させて頂きました。貴女様が嘘を仰っていないことも含めて」


 店員さんは申し訳なさそうに謝ってくれたが、そういった事情があるなら当然の対応だ。私もにっこり笑って謝意を受け取る。それにしても悪い事を考える輩が居たものだ。


「魔力を抑制する装身具は、全てオーダーメイドとなっております。ご家族様の年齢や性別、魔力の性質などをお教え頂けますか?」


 店員さんの質問に、私は嬉々としてナルサスの特徴を話し始めた。


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