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兄と竜の王様

 ナルサスとナタリアが新婚旅行から帰って来た。お土産を渡すからと辺境伯領の館に呼ばれたボクは、ドンと部屋の中央に置かれたそれを目にした途端、頭痛を覚えた。

 どうして黄金で出来たドラゴン像が鎮座してるんだ。しかも天井に届きそうな大きさの黄金像には、瞳に拳大の宝玉が埋め込まれている。


「ただいま兄さん。これ、竜の国のお土産だから持って帰って」


 邪魔だからさっさと持って行け、とでも言いたげな適当さで、ナルサスが黄金像を指差す。これを如何しろと?動かすのも一苦労だろうし、だいたい如何やって持って帰って来たんだ?


「あれ、言ってなかった?僕、空間魔法を使えるようになったんだ」

「どんな魔法だよ」

「異空間に物を収納できるんだ。便利だよ」

「それって伝説の召喚勇者とかが使ってた魔法だよな?物語の世界の魔法だよな?」

「人が想像出来る魔法なら、人が創造出来るよ」


 そんな理論は聞いたことが無い。ナルサスが更にハイスペックになっているようだが、少しは自重して欲しいと願うのは贅沢か?


「こんな扱いに困る物よりも、お土産は食べ物とかの方が良かった」

「だよね。置き場所に困るよね。でも竜の国の王様に押し付けられちゃって」

「そんな面倒なもんをボクに寄越すなよ」

「しょうがないなー。じゃあ兄さんにはこっちの肉饅頭をあげるよ。ドラゴン像は国王陛下にでも渡しといて」


 国王陛下に押し付けるのも止めて差し上げろ。これ、控え目に見ても国宝級の物だろう。そもそも如何して竜の国の王様からこれを貰う羽目になったんだ。


「ついでにこの手紙も渡しといて」


 ナルサスが何処からか取り出したのは、ロイヤルな雰囲気漂う封書だった。この印章って竜の国の国旗に描かれてるのと同じじゃないか。国書だよなこれ、皺くちゃになってるけど竜の国からの国書だよな?

 そういえば、ナルサスが竜の国に新婚旅行に行くつもりだと知って、国王陛下が国書を認めナルサスに託していた。そのお返事だと思うが、扱いが雑過ぎる。


「お前……もう少し丁寧に扱えよ」

「あー、黄金像と一緒に突っ込んだから、潰れちゃったのか。でも大丈夫、読めるよ」

「そういう問題じゃない。竜の国は帝国と並ぶ強国なんだぞ。外交問題になったらどうすんだ」

「平気だよ。竜の国の王様は、僕の下僕になったから」

「……は?」

「これは僕の下僕からの手紙だから、読めれば十分だよ」


 もう何も考えたくなかったボクは、国書を手に王宮へと急行した。黄金像も魔法で縮小されてポケットに入っている。縮小魔法は時間制限があるそうなので、寄り道は出来ない。本心を言えば自宅でリラックス効果のあるお茶でも飲んで、一息ついてから王宮に行きたかった。胃薬を常時携帯しているのが救いだ。


 執務室では、国王陛下と宰相がのんびりと談笑していた。黙って皺くちゃの国書を差し出すと、怪訝な顔をしながら受け取られる。


「うん?これは──おお、竜の国からの返信か」


 国王陛下がいそいそと国書を封切る間に、ボクはポケットから出した黄金のドラゴン像をテラスの端に置いた。ここならいつ元の大きさに戻っても大丈夫だろう。


「なになに?──ニコラス、これは其方の悪戯ではないのだな?」

「違います」

「そうか、悪戯ではないのか……宰相よ、竜の国は我が国の属国になるそうだ」

「は?」

「友好国になって欲しいと書いて送ったはずなのに、如何して属国に……ナルサスが何かやらかしたのか?」

「そういえば、竜の国の王様が下僕になったと」


 国王陛下と宰相が、揃って頭を抱えた。ですよね。如何してそうなったって思いますよね。


 結局、書簡だけでは埒が明かないので宰相が竜の国まで出向く事になった。当然のようにボクも同行することになり、ナルサスが別荘に設置したという転移装置で竜の国を訪れた。


「ようこそお越しくださいました、我等が主の兄君様」


 竜の国の王城に着くなり平伏して出迎えられた。ナルサス、本当に何をやらかした?

 詳細は分からないが、竜の国では力こそ全てとの考えが主流であり、ナルサスの人外な魔力に竜の王様が屈服したことで国をあげてナルサスの傘下に入ることにしたらしい。


「生まれて初めて恐怖というものを感じました。人間とは、あれ程の力を身につけられる種族なのですね。しかも、奥方に無礼を働いた我が甥の命を助け、使役するだけで許してくださる心の広さ。感服いたしました」


 なるほど、リュウさんは王様の甥っ子なのか。使役するってのはどういう意味だ?ナルサスは召喚魔法まで使えるのか?召喚するのはリュウさんだけだよな、下僕になった王様とかまで召喚契約してないよな?


 聞くのが怖くて諸々うやむやのまま、せめて属国になるのだけは止めてくれと宰相と共に懇願した。ナルサス一人で竜の国が落ちるとか聞きたくなかった。だとしても、我が国はごくごく普通の国なのだ。竜の国を属国にするなんて、荷が重過ぎて国王陛下の御髪が絶滅の危機なのだ。

 長い話し合いの末、竜の国は我が国の属国になるのを諦めてくれた。この程度の国力では属国にもしてもらえないのか、ならばもっと鍛えて認めて頂くとか言ってたがスルーした。平平凡凡な我が国と、竜の国が同盟国になっただけでも胃がシクシク痛むのだ。これ以上は勘弁してください。


 ボクがこっそり胃薬を飲んでいると、宰相が無言で手を差し出してきた。ボクは愛用の胃薬を、瓶ごと宰相に渡してあげたのだった。


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