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結婚式と別荘

「えーと、私達は如何して列席してるの?」


 隣で良い笑顔を浮かべているナルサスに、私はこっそりと尋ねた。竜の国に来て数日、ナルサスと毎日観光を楽しんでいたのだが、今日連れて来られたのは教会だった。てっきり歴史的建造物の見学だと思っていたのに、何故かそこで始まった結婚式に出ているのだ。


「え?だって僕達が仲人みたいなものじゃないか。当然見守る権利があるよね?」

 

 ナルサスが新郎新婦に視線を送る。言ってることは間違ってない、でも私がここに居るのはちょっと……かなり気まずい。なにせ新郎はリュウさんだ。数日前に振った人の結婚式に何食わぬ顔で列席出来るほど、私は厚顔ではない。

 だが式は始まってしまっているし、私達が座っているのは最前列だ。気軽に出て行く訳にもいかなくて、仕方なく私は席に座り続けていた。


 リュウさんが新婦のベールを捲ると、そこに居たのは吟遊詩人のような人だった。細身で細面の彼は中性的な見た目で、竜族の花嫁衣装がよく似合っている。本当に男同士で結婚するんだ。


「竜族の掟では、鱗を食べると必ず結婚しなきゃいけないから、3人と結婚するんだと思ってたけど。あとの2人には結婚詐欺の慰謝料でも払うのかな」

「結婚詐欺?」

「うん。竜族のしきたりなんて、他の種族にはあまり知られていないからね。同族以外に竜鱗を渡す時は、きちんとこれは求婚ですって説明しないといけないんだ。なのにあのトカゲ、ナタリアに何の説明も無く竜鱗を渡したんだよね?それって詐欺だよね」

「私が知らずに鱗を噛っていても、結婚しなきゃならなかったの?」

「そう。しかも子どものナタリア相手にだよ?たちが悪いよねー」


 ナルサスは黒い笑顔で、リュウさんを見据えている。若干声が高い。声変わりまでまだ数年あるナルサスの声はよく響き、列席者の皆さん顔を引き攣らせていた。でもナルサスには強く言えないのか、やたらと私に目配せされる。その子を黙らせろと目で訴えてくる。


「誇り高き竜族とか、もう絶滅したのかな?さっきから僕のナタリアに意味ありげな視線を送ってくる奴等ばっかりだし。人の奥さんに秋波を送るようなゲスいトカゲは、一生冬眠してればいいのに」


 ぐんぐん気温が下がって吐く息が白くなる。教会丸ごと冬眠しそうというか、そのまま永眠しそうだ。


「ナルサス、これじゃ結婚式が終わらないわ。リュウさんはともかく、あの吟遊詩人さんが可哀想よ」

「そうだね。結婚式を終わらせないと、トカゲが死んでも遺産相続出来ないもんね」


 何とか耐えられる程の気温に戻り、無事結婚式は終了した。なお今回は離婚出来ないらしい。竜族の掟を悪用しようとしたリュウさんへの罰も兼ねているからだそうだ。たぶんナルサスが裏で手を回したんだろうなあ。


「さてと、これでロリコントカゲは片付いた。あの吟遊詩人は僕と同類な気がするから、トカゲは二度とナタリアに関わらないよ。だから安心して次に行こうね」


 次に連れて来られたのは、郊外にある宮殿だった。今度こそ歴史的建造物の見学だ。やっと観光らしくなったと、私は喜んで宮殿を見て回った。

 街中のキンキラキンとは違い、華美というよりも荘厳な造りだ。目に優しい。何より庭園が素晴らしい。迷路のように整えられた生け垣、動物の形に剪定された低木、花壇の花は虹と同じ配色になっている。


「凄いわ。とっても素敵ね」

「気に入った?」

「ええ!」

「良かった。ここが僕達の別荘だよ。僕と喧嘩したり一人になりたくなった時は、ここを使ってね」

「ええ?」

「ナタリア、緊急避難先が欲しかったんでしょ?」

「ええ……」


 確かに色々耐えられなくなった時の避難先が欲しいとは思ってたけど!こんな宮殿じゃなくて、もっとこう、小ぢんまりとしたのが良かった。これじゃ落ち着けないよ!


「ダメだった?もう使用人も雇ってるんだけど」

「え、そうなの?」

「うん、トカゲの元奥さん達」


 ナルサスがパンパンと手を叩くと、お仕着せ姿の竜族の女性と10歳くらいの男の子、それに戦士っぽい人と学者らしき人が姿を見せる。え、貴方達もですか?


「トカゲの元奥さん達は、急に離婚されて住む所が無いんだって。戦士と学者も竜の国に移住したいそうだから」


 ダメだって言いづらい。特に私のせいで離婚された女性と息子さんは追い出せない。

 結果、宮殿は私達の別荘ということで決定した。ナルサスが転移装置を設置して、我が家からの行き来も簡単になった。念願の逃亡先を手に入れた私だが、何というか……やっぱり思ってたのと違うんだよなぁ。


 だけど、とっくに諦めはついている。私が竜の国を逃亡先に選んだのは、竜族ならばナルサスに対抗出来るのではと思ったからだ。だが期待は裏切られた。竜族最強である竜の国の王様がナルサスに平伏した時点で、希望は潰えた。


 本気でナルサスから逃げたくなったら、魔界にでも行かなきゃ無理かなー。魔王クラスなら、きっとナルサスの規格外な魔力も平気だよね。


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